金木犀の香りに乗って横浜・小満んの会

R・キプリング『戦場墓碑』に、

我等なぜ死せるか問う者あれば、答うべし、我等の父たち虚言なせば
(高山宏・訳)


という言葉があることを、イアン・J・ビッカートン「勝者なき戦争 世界戦争の200年」で知った。
戦争は常に父たちの虚言で始まる。

安全性・信頼性において象徴的な存在だったVWが、なんという虚言、しかも売らんかなの、積極的虚言。
人の住まないところに作り続ける東北の防潮堤。
口先ばかり反省する下村。
温暖化対策を断固拒否するアメリカ共和党。
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無力感・脱力感を癒すがごとくに突然鼻を衝く金木犀の香り。
気がつけば辺りの家々に金木犀の真実の香り。

関内ホールで小満んの会。

前座・小かじ「道灌」に続いて
小満ん「巌流島」

「秋の川四条五条に流れけり」、これは京都ですね。
東京はと言えば隅田川、いったい何本の橋がかかっているでしょう。
白髭、桜、言問、吾妻、、とゆっくり言い立てるのを聴くと、俺は川下りの船に乗っている。
いちばん古いのは両国橋、明暦大火で火に追われた人たちが逃げ場を失ったのを閲して作られて、その30年後に新大橋、芭蕉が喜びの句を作った、、。
思いがけない橋物語。

橋のない頃は、、渡しです、水神の渡し、今戸の渡し、あなたのわたし、、。
お厩の渡しは本所あたりに住む武士が江戸城に通うためだったから武士はタダ、乗せてもらう町民は四文、安かった。

そのお厩の渡し船で、若い武士が立派な銀ギセルの雁首を水中に落としてしまう。
キセルのラオとはラオスの竹で作ったから、、ラオを殺すとはラオの先を万力で締め上げること、、
小満ん落語の楽しさはこういうトリビアの泉。

若侍の横暴をたしなめ、岸につけて果し合いをすることになった老いた武士。
その成り行きを無責任に楽しむ野次馬町民の会話が滑稽。
「出来損ないの菊人形(若侍のふんぞり返った様)」「荒巻のしゃけの尻(しみだらけ)」「(ついでに斬っちまう、って)子供連れてった髪結い床(ついでにこの子もやってくれ)じゃあるめえ」、、
謎かけのような独特の地口も小満ん印。
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小満ん「三人息子」

道楽息子が二階に押し込められて、ひたすら吉原で女郎買をする様子を妄想、仕方噺。
やり手婆が客と女郎の痴話喧嘩の仲裁をするさまが傑作。

小満ん「井戸の茶碗」

清廉潔白の国から清廉潔白を広めにやってきたような、屑屋、浪人、細川藩の若侍。
虚言のない世界の滑稽味のある清々しさ。
あっさりと演じて涼風。
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中身があって、早く終わる落語会のあとは勇んでいつもの「団欒」。
赤ホヤ、鮟肝、カワハギ、カレイ、生シラス、、酒がうまい、話が旨い。
ハマの夜が更ける。
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Commented by unburro at 2015-09-25 13:59
「井戸の茶碗」いいですね。
正直さ、誇り、善意、全てが、良い流れとなって、大団円!
これは、ファンタジーなのでしょうか、
いや、何処かにある、と思いたい、ですね。

カワハギの薄造り、もイイですね〜
Commented by kogotokoubei at 2015-09-25 18:17
いやぁ、楽しかったですねぇ、小満んの落語も居残りも!
それにしても、小満んの高座は勉強になる。
それも、「こんなこと、学校じゃ教えない」内容が満載。
一席目のまくらは、もっと聴いていたいような楽しさがありました。
ネタと関係のないまくらを長々ふる若手や中堅は、ぜひ見習って欲しいものです。
Commented by maru33340 at 2015-09-25 19:44
私も今日金木犀の香りを楽しみました。
小満の落語に良く似合いますね。
Commented by sweetmitsuki at 2015-09-25 19:45
「井戸の茶碗」よりも「高麗の梅鉢」あるいは「壺算」が、聞きたいです。
あのくらいの嘘、悪意、虚偽が蔓延らないと、今の世の中やってらんないでしょう。

武器輸出は金になんない!
徴兵制は戦没者への追悼費が高すぎて採算が採れない!
憲法改正が出来ない(出来ない理由は追って説明します)なら、憲法を曲解して法案を作るな!

当たり前のことを当たり前だといい通しましょう。一緒に!
Commented by ikuohasegawa at 2015-09-25 19:50
団欒・・・・常盤町ですか。
Commented by saheizi-inokori at 2015-09-25 21:17
> unburroさん、それを愛でる細川藩中の侍たちもなかなかいいです。
もっとも井戸の茶碗、たかが古い茶碗が300両というのがすべての鍵かも。
無から有を生み出さなければこの大団円は成り立たないのです。
Commented by saheizi-inokori at 2015-09-25 21:20
> kogotokoubeiさん、せんじつラジオで一之輔のマクラだけを放送していましたが、ちっとも面白くないのですねえ。
落語の楽しさを満喫させてくれるのが小満ん、その後の団欒ですね。
Commented by saheizi-inokori at 2015-09-25 21:23
> maru33340さん、化学薬品の香りとは違う、本物の匂い・味でした。
Commented by saheizi-inokori at 2015-09-25 21:25
> sweetmitsukiさん、おっしゃる通り、でも戦争の帳尻は最後は赤でも、途中で儲ける奴は出てくるのですね。
そいつらが相場師みたいに悪さをします。
Commented by saheizi-inokori at 2015-09-25 21:26
> ikuohasegawaさん、関内で30年とか、ご存知でしたか。
たまたま見つけてすっかり気に入ってます。
親方も落語ファンのようです。
Commented by at 2015-09-26 01:32 x
miss ホヤ!!!!
Commented by saheizi-inokori at 2015-09-26 09:49
> 蛸さん、日本にいてよかった?^^。
Commented by at 2015-09-27 07:27 x
トリビアの泉は過ぎると、嫌みですが、小満んにはそれがありません。腕の良い船頭に先導されて(しゃれにあらず)春の川を行くがごとし、心地よいときを味わくことができます。
Commented by saheizi-inokori at 2015-09-27 10:13
> 福さん、そうですね。知ったかぶりとか鼻にかけるという感じがまったくない。
対象物に対する純粋な好奇心や愛情があるから、それに関する知識も耳をそばだてて聴きたくなります。
マクラもネタとの関連がはっきりしているから、他の落語家のように本題に入る前のウオーミングアップなのか、そっちが主体なのかわからないのとは違って安心して聴いていられます。
Commented by 喜洛庵上々 at 2015-09-30 11:46 x
大変愉快な居残り会、ありがとうございました。
写真を拝見するとあの晩の会話がよみがえります^^

Commented by saheizi-inokori at 2015-09-30 14:32
> 喜洛庵上々さん、体調はいかがですか。
また大いにやりましょう。
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by saheizi-inokori | 2015-09-25 12:19 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(16)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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