「覚えている」「覚えていたい」「忘れたい」 カズオ・イシグロ「忘れられた巨人」

隠居というものは閑だから、茶の湯みたいな何の意味もない遊びをして暮らす。
そのはずなのに、、どうしてこんなに、、?
これで現役だったらどうやって対処していくのだろう。

いろんなことがあり続けると、あっという間に一週間が過ぎていくが、そのくせ一週間前に起きたこと、ひと月前に起きたことが、ずっと昔に起きたことのような気がする。
脳は物事の生起した順番・時間的間隔をどう整理して記憶しているのだろうか。
記憶は整理された形ではなくバラバラの形で脳内のあちこちにしまい込まれて、必要がある、と脳のどこやらが判断し、指令したときに呼び出されて、そのときに整理された形になる、といったことを読んだような気がする。
と、今俺の脳のどこかが記憶を提示している。

脳の機能が、劣化したり変調をきたすと、物事を記憶できなくなったり、整理して再生できなくなったりする。

国家や民族などの集団としての記憶はどのように蓄積され取りだされるのだろう。
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このファンタジーに出てくる船頭は島に渡ろうとする夫婦に別々に、いちばん大切に思っている記憶を尋ねて、ふたりがほんとうに強い絆で結ばれていることがわかると二人を渡してやるが、そうでない場合は島には一人で住むことになる。

一番大切に思っている記憶を話すとき、人は本心を隠すことなど不可能です。

愛によって結ばれているという二人の中に、恨み・怒り・憎しみ・大いなる不毛・孤独への恐怖などがあって、年月を越える不変の愛などめったに見られるものではない、と船頭は語る。
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だが、その記憶そのものが失われたり変容したら?
本書の舞台、アーサー王が姿を消した後のブリテン島の人々は、どうやら集団で記憶を失いながら生きているようだ。
鬼や、妖精、竜などが徘徊し人々をたぶらかし、食いもする。
雌竜が吐く息が奇妙な霧となって人々の記憶を奪っている。

主人公の老夫婦は、人びとは記憶を取り戻すことで幸せになるのだろうか。
虐殺の記憶が蘇えることによって、ブリトン人とサキソン人の間の平和(らしき)状態が覆り、再び復讐の連鎖が始まりはしないか。
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なによりも恐ろしいのは、生き返った記憶によって、自分がほんとうは何者であったかを、突きつけられることではないだろうか。

「死んでも覚えていてくれる人がいる限りは、ほんとうの死とは言えない」
これを慰めの言葉として悲しみにくれる人に言ったことがなんどかある。
死んでいく人には、口に出して言ったことはないが、心の中でそう思ったこともある。
だが、俺自身の死を考えると、ホントにそうなのだろうか、と思う時もある。
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(千葉から送られてきた秋の先駆け)

土屋政雄 訳
早川書房

Commented by jarippe at 2015-08-22 14:17
「死んでも覚えてくれる人がいる限りは・・・・・」
そうですね 父は 母は 祖母は 生きている!!
これいったい何なんでしょう
肉親ってこういうことなのでしょうか・・・・・
じゃあ 自分が死んだら・・・・?
まったく自信ないです それでもいいやー
これでも精一杯い生きてきたから
そりゃー 他人さまが見たら アホなんでしょうけど

Commented by fusk-en25 at 2015-08-22 18:30
私は父を2歳で亡くしました。
死んでも覚えてもらえる限りの。。。。って。
父がいたことはわかっている、でも全く実質がない。
しかも父のエピソードだけが一人歩きして。でもそれを信じるわけにはいかない。だって私が見たわけでないのだから。自分自身が感じたわけでもない、センチメンタルになりたくないと思いながらの気持ちを持て余し、父に対して何を選択すればいいのか基準すらない。これってやたらしんどいことでした。私自身になってみれば、人の思い出のために生きるなんて。そんな馬鹿なことは絶対やりたくない。覚えてくれていようがいまいがそんなことはどうでもいい、私自身で完結して終わりたい。
Commented by sweetmitsuki at 2015-08-22 18:46
いえいえご隠居さま
あと100年とはいいませんが、50年は生きててくださいませ。
死の定義がそのようなものなら、あと1000年とはいいませんが、100年は生きていてくださいませ。
死の定義がそのようなものだからこそ、人は伝説、神話を受け継ぐのでしょう。

私は神話を汚す奴らを、絶対に許せません。
今後ともご助力をお願いいたします。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-22 21:11
> jarippeさん、私は自分自身の記憶すらあやふやなのに他人がどんな記憶をもって私を思い出すのかと思うと、ちょっと怖くなるのです。
自分の人生に自信がなかったからでしょうね。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-22 21:13
> fusk-en25さん、そうですね、おっしゃる通り、死んだあとのことなど心配したってしょうがない、その通りだな。
なんだかこのところ頭がヘンになってます。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-22 21:16
> sweetmitsukiさん、ありがとう、ナントカ、生きていきましょう。
Commented by mother-of-pearl at 2015-08-22 22:43
偶然『白熱教室』でカズオ・イシグロ氏の声を聞いて以来、
読んでみたいと思っていました。

良い刺激を頂きました。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-23 09:06
> mother-of-pearlさん、いらっしゃいませ、うれしいなあ。
どんな声で話すのでしょう。
柔らかく深みのある声のように思いますが。
Commented by cocomerita at 2015-08-23 17:43
Ciao saheizi さん
記憶って 要するに映写機みたいな脳の機能で写し出されて で、そのときに、その存在 認識されるだけであって、脳の機能によってこうして認識されなくても 私たちの中に存在すると思っています
だから、私はわざわざ取り出して眺めて見なくても 引き出しの中に入ってるだろうってことで 十分満足しています 笑
そして 私は向こう側に逝った人達を すむ場所変わっただけでしょ。と いまだにこっち側にいる大事な人達と同じように思い、思い出すけど、じゃあ私の事は? と考えるとむしろ覚えていておいてもらいたくない。 と思うのです
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-23 21:45
> cocomeritaさん、そうかもね。
宇宙の始めからある原子にもどってこのあたりをふわふわしてるのかもしれない。
それを俺は食ったり飲んだりしている。

覚えるも何もないのかもね。
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by saheizi-inokori | 2015-08-22 11:28 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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