ユーロ全体主義でヨーロッパは生き残れるか エマニュエル・トッド「「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告」

IMFも反対しているように、7月13日の合意は、そもそも実行不可能です。ギリシャ経済を再生させるには、部分的にしろ全面的にしろ、ギリシャの負債が減免されなければならないのです。この合意は、各国首脳が愚かにも地球と月を接近させることに賛成票を投じたようなものなのです。

エマニュエル・トッド(歴史人口学者)の舌鋒は辛辣だ。

文藝春秋9月特別号所収「ヨーロッパは三度自殺する」。
ヨーロッパが三度自殺したというのは、まず1914年の第一次大戦、次に第二次大戦、そして今日、この大陸はかつてよりもはるかに豊かで、はるかに平和的で、非軍事化され、高齢化し、リュウマチに罹っていて、まるでスローモーションフイルムのように三度目の自己破壊が展開されている。
そのいずれもがドイツの指揮下で。
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ドイツはグローバリゼーションに際して、部品製造を部分的にユーロ圏の外の東ヨーロッパへ移転して、非常に安く教育程度の高い(社会主義の遺産)労働力を利用した。
国内では競争的なディスインフレ政策を採り、給与総額を抑制した。
直系家族システムによって培かわれてきた権威、不平等、規律といった諸価値が、あらゆる形におけるヒエラルキーをドイツにもたらした。

そしてドイツは社会的文化的要因ゆえに賃金抑制策など考えられないユーロ圏の他の国々に対し、競争上有利な立場を獲得した。
それに対してユーロのせいでスペイン、フランス、イタリアなどのEU諸国は平価切下げという対抗手段を取ることができず、ドイツとの間に一方的な貿易不均衡が生まれた。
それこそがヨーロッパのリアルな問題だ(その結果としての歳出超過予算ではなく)。
ドイツは今やドイツ帝国といってもいいようなドイツ圏を従えている。
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ドイツ帝国は今ウクライナの(もともと親独的・右翼)併合(安い労働力が狙い)を視野に入れている。
ドイツの外交は歴史的に不安定であり、大きな経済的ストレスにさらされるとアメリカと違う諸価値(ルーズベルトvsヒトラー)を生み出した。
これからの20年はアメリカとドイツの対立に注目しなければならない。

事態を打破する鍵はフランスだったはずだが、サルコジに代わって期待されたオランドはドイツ副首相でしかない。
フランス民主主義は崩壊した。
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1パーセント、なかんずく0・01パーセントの最富裕層のためにユーロが機能し、国家の債務は富裕層の最大の集金マシーンだ。
ヨーロッパの再生は各国が債務のデフォルトを宣言することがもっとも有効だ。
ユーロなんてさっさと訣別すべきだ。

われわれはかつて、ナチズムというかたちで人種への服従を経験しました。人民民主主義というかたちで自称社会主義の教義への服従を経験しました。
今は、緊縮財政プランへの服従の時代になっています。
全体主義は、若さがまだリソースであり続けていた社会に依拠していました。高齢化の今日、われわれはその耄碌バージョンを生み出し続けているのです。ユーロ(の通貨的意味における)全体主義といえましょう!


トッドはエリートたちの覚醒を願っている。

堀 茂樹 訳
文春新書
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恒例のNY研修仲間との同窓会。
ことしもミッド・タウンで、5人集まった。
それぞれ違う会社に働く若者が、新人たちの教育の在り方、スマホ・ラインの是非(二人が強烈な否定論)などでふと気がつくと11時過ぎていた。
Tracked from ペガサス・ブログ版 at 2016-02-01 14:36
タイトル : 読書メモ:「ドイツ帝国」が世界を破滅させる
ソ連の崩壊を予言したとされるフランスの人類学者,エマニュエル・トッドのインタビュー集.いろんな雑誌やネットサイトのものが翻訳・編集されて日本で出版.つまりこの本の「原書」というものはないようです.文春新書で昨年(2015年)5月に刊行されています. センセーショナルな本の表題は,冒頭の章のタイトル「ドイツがヨーロッパ大陸を牛耳る」を“増幅”させたもののようです. インタビューの期間は2011年11月から2014年8月までにわたり,時間の逆順に編集されています. 移民政策の寛容さや,ファシズム時代の...... more
Commented by sheri-sheri at 2015-08-20 12:45
こんにちは。精力的な佐平次さん、隠居とはほど遠いですね。ピザも美味しそうですね!トッド氏の発言は、考えさせられます。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-20 13:11
> sheri-sheriさん、思い出に浸っていると力が抜けて行きます。
本でも読んで充電です。
Commented by jarippe at 2015-08-20 15:48
文芸春秋 本屋さんをあさっていますが
どこも「すみません 売り切れですー」
と言われてしまって・・・・・
Commented by tona at 2015-08-20 19:54 x
佐平次さんは、暑い夏もお元気ですね。
この本の内容とは関係ないですが、ドイツはヨーロッパでは一番難民を多く受け入れることになったのですね。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-20 23:45
> jarippeさん、ああ、この間までは我が家に息子が買ったのと二冊あったのになあ。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-20 23:50
> tonaさん、そうなんですね。もっとも人口当たりだとスイスがいちばんのようですが。
Commented by sora at 2015-08-21 00:43 x
1914-1918と書かれた大きな石碑のある広場を横切って
帰宅したところです。文春届いています。すぐに読みたいです。
今や、小学校の生徒の半分近くはドイツ人でありません。ドイツの子供(外国人を含む)の保育園から大学までの学費は、ほぼ
無料か非常な低額です。
Commented by saheizi-inokori at 2015-08-21 09:02
> soraさん、一口にヨーロッパと言っても家族形態、思考、行動、もちろん歴史が実に多様な国々なんですね。
それを本などでさらっと読んでみてもほとんど実像はわからない。
ドメスティックに生きてきた私にはわからないことが多いです。
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by saheizi-inokori | 2015-08-20 11:56 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(1) | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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