時代の潮目に乗じて連綿と続く戦争を支える悪達者たち 小林公二「アウシュヴィッツを志願した男」
2015年 08月 19日
親愛なるワピンスキ検事様
夫、ヴィトルト・ピレッキは、他の誰よりも祖国を愛する気持ちでいっぱいです。夫は、ナチスの侵略から祖国の独立を恢復させようと闘ってきました。その後、ナチス占領下のアウシュヴィッツ収容所に自ら進んで潜入し、収容所を解放するため抵抗運動を組織し闘いました。
収容所を脱走した後には、ワルシャワ蜂起に参加し果敢に戦いました。このような夫の行動のどこに、夫が外国に祖国を売るなどということが起こり得ましょうか。どうか信じてください。夫の祖国を愛する気持ちを。
そして私やアンジエイ、ゾフィアの二人の愛する子供から、最愛の夫、父を奪わないでください。お願いします。どうか寛大な措置を。 マリア・ピレッカ
対日宣戦を条件として、イギリスなど連合軍が黙認したソ連によるポーランド占領。
昨日までの戦友が社会主義政権(ソ連の傀儡)に寝返り、真の英雄・ピレッキは「見せしめのための裁判」の被告となる。
その拷問はアウシュヴィッツでナチスが行うものより残酷・執拗を極めた。
反逆者・スパイ(アウシュヴィッツの内部情報を連合軍に送ったことも)として死刑を宣告され、1948年5月25日、ピレッキは愛する祖国・ポーランド国家により銃殺される。
彼の死刑執行は、40年以上もの間、国民はもとより家族にもまったく知らされなかった。
1990年10月1日 ポーランド最高裁軍事部決定
ヴィトルト・ピレッキに下された1948年の死刑判決および判決の基礎となる訴因は、遡って無効とする。また同人に対する名誉は回復される。
ポーランド国軍 騎兵大尉ヴィトルト・ピレッキは、あらゆる軍人が敬すべきわが国英雄の一人である。我々は、ドイツ人、ロシア人と同罪である。我々の手で、我々自身の英雄を抹殺してしまったのだから。
(「白石」で、体調の悪いカミさんを家において一人で晩酌、新サンマをつついて、あ、これ一昨日大曲の居酒屋でも食ったなあ、と思いだし、続けて友人の家で食った奥さまの野菜の煮物も思いだす)
ピレッキがアウシュヴィッツから密かに送った戦慄のレポートは興味深くも恐ろしい。
30年にわたって20回もアウシュヴィッツに足を運び、ピレッキの二人の遺児とも親密なインタヴューを行った筆者は日本ポーランド協会元事務局長、平和研究が専門。
あとがきに
収容所における何も語らない無数の死者の静けさは、この世界に浸みわたっている。それは無定見な私たちの世界を、いまも鋭く穿つ。無数の死者の累々と折り重なる屍は、苦悶しながら世界を支えている。その畏れへの無邪気なまでの黙過こそが、アウシュヴィッツ以降いくたびの戦争を誘発してきたことだろうか。
戦争を支える悪達者たちが、時代の潮目に乗じて連綿と続く。全体主義の世情が支配する情緒的なモノトーンの背後で、民主主義に関わる思考や思想が剥がされていく。そのドス黒さは、時代を超えふたたび忍び寄る。
死者の悲鳴はなお無数に聞こえるのに。
「ポーランド軍隊大尉、ヴィトルト・ピレッキは三度死ぬ」が副題。
講談社
夫、ヴィトルト・ピレッキは、他の誰よりも祖国を愛する気持ちでいっぱいです。夫は、ナチスの侵略から祖国の独立を恢復させようと闘ってきました。その後、ナチス占領下のアウシュヴィッツ収容所に自ら進んで潜入し、収容所を解放するため抵抗運動を組織し闘いました。
収容所を脱走した後には、ワルシャワ蜂起に参加し果敢に戦いました。このような夫の行動のどこに、夫が外国に祖国を売るなどということが起こり得ましょうか。どうか信じてください。夫の祖国を愛する気持ちを。
そして私やアンジエイ、ゾフィアの二人の愛する子供から、最愛の夫、父を奪わないでください。お願いします。どうか寛大な措置を。 マリア・ピレッカ
昨日までの戦友が社会主義政権(ソ連の傀儡)に寝返り、真の英雄・ピレッキは「見せしめのための裁判」の被告となる。
その拷問はアウシュヴィッツでナチスが行うものより残酷・執拗を極めた。
反逆者・スパイ(アウシュヴィッツの内部情報を連合軍に送ったことも)として死刑を宣告され、1948年5月25日、ピレッキは愛する祖国・ポーランド国家により銃殺される。
1990年10月1日 ポーランド最高裁軍事部決定
ヴィトルト・ピレッキに下された1948年の死刑判決および判決の基礎となる訴因は、遡って無効とする。また同人に対する名誉は回復される。
ポーランド国軍 騎兵大尉ヴィトルト・ピレッキは、あらゆる軍人が敬すべきわが国英雄の一人である。我々は、ドイツ人、ロシア人と同罪である。我々の手で、我々自身の英雄を抹殺してしまったのだから。
ピレッキがアウシュヴィッツから密かに送った戦慄のレポートは興味深くも恐ろしい。
30年にわたって20回もアウシュヴィッツに足を運び、ピレッキの二人の遺児とも親密なインタヴューを行った筆者は日本ポーランド協会元事務局長、平和研究が専門。
あとがきに
収容所における何も語らない無数の死者の静けさは、この世界に浸みわたっている。それは無定見な私たちの世界を、いまも鋭く穿つ。無数の死者の累々と折り重なる屍は、苦悶しながら世界を支えている。その畏れへの無邪気なまでの黙過こそが、アウシュヴィッツ以降いくたびの戦争を誘発してきたことだろうか。
戦争を支える悪達者たちが、時代の潮目に乗じて連綿と続く。全体主義の世情が支配する情緒的なモノトーンの背後で、民主主義に関わる思考や思想が剥がされていく。そのドス黒さは、時代を超えふたたび忍び寄る。
死者の悲鳴はなお無数に聞こえるのに。
講談社
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sora
at 2015-08-19 11:43
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凄い筆者のすごい本のご紹介ありがとうございます!
「民主主義に関わる思考や思想が剥がされていく。そのドス黒さは、時代を超えふたたび忍び寄る」
下の訪問の旅 思いを巡らしながら読ませて頂きました
「民主主義に関わる思考や思想が剥がされていく。そのドス黒さは、時代を超えふたたび忍び寄る」
下の訪問の旅 思いを巡らしながら読ませて頂きました
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sheri-sheri at 2015-08-19 12:32
人類の罪の深さに胸が締め付けられます。絶対に負けたくないです。
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ikuohasegawa at 2015-08-19 17:58
またまた読みたくなる本の紹介。ありがとうございます。
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sweetmitsuki at 2015-08-19 19:39
新サンマはもう秋田まで南下しているのでしょうか。
それとも北海道産?
いずれにしても残暑が続く中、確実に秋は到来する予兆ですね。
さすが佐平治さん。読破量がお早い。アウシュビッツですか。
私は佐平次さんが提示して下さったファントム墜落事件と米群基地のありかたについて、資料集めに奔走する毎日です。
近々、発表いたしますので、是非お立ち寄りください。
それとも北海道産?
いずれにしても残暑が続く中、確実に秋は到来する予兆ですね。
さすが佐平治さん。読破量がお早い。アウシュビッツですか。
私は佐平次さんが提示して下さったファントム墜落事件と米群基地のありかたについて、資料集めに奔走する毎日です。
近々、発表いたしますので、是非お立ち寄りください。
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蛸
at 2015-08-20 01:42
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もぉ、ここ4年はサンマを食ってないなぁ、;;
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saheizi-inokori at 2015-08-20 08:33
> soraさん、こういうものを読むとナチスも他人事じゃないと感じます。
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saheizi-inokori at 2015-08-20 08:33
> sheri-sheriさん、三度死んででもがんばりたいですね。
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saheizi-inokori at 2015-08-20 08:35
> ikuohasegawaさん、学者にしては読みやすい本です。
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saheizi-inokori at 2015-08-20 08:36
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saheizi-inokori at 2015-08-20 08:37
> 蛸さん、うまいですよ~^^。ハラワタの苦味が何とも言えない。
by saheizi-inokori
| 2015-08-19 10:56
| 今週の1冊、又は2・3冊
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