理解していなければ無意味だろうか 須賀敦子「本に読まれて」

須賀敦子を読む時がきたのかもしれない。
「ミラノ 霧の風景」だったかを読みかけたのはずいぶん前のこと。
静かな深い思いが満たされているような文章についていけなくて途中退場。
ゲスな言い方をすると、俺などとは世界が違う、だったか。
読んでいるとわが身のガサツさを思い知らされるようで辛かった。
理解していなければ無意味だろうか 須賀敦子「本に読まれて」_e0016828_12495699.jpg
本箱の片隅に追いやられていた「本に読まれて」。
ぱらぱらと読んでいたら、素直に頭に入ってくる。
うんうん、と頷いたり、ああ、そういう見方があるんだなあとか。
百閒が面白いのと違った面白さ。
むしろ百閒ジジイより身近にも感じる。

理解していなければ無意味だろうか 須賀敦子「本に読まれて」_e0016828_12512897.jpg
それは、俺が読解力が増したとか、俺の世界が上昇して須賀の世界に追い付いたとか言うことではないと思う。
単に俺が前より落ち着いて本を読むようになったということ。
もうひとつは、いちいち自分との比較などしないで本の世界に浸れるようになったということ。
ではないか。

フランスの小説を私はこのごろになって、つぎつぎに読み返している。この夏、モウパッサンの『ベラミ』を読んだときも思ったのだけれど、若いときに読んだといっても、なにも理解していなければ、読んでないに等しいのではないか。いや、読んだと思っている分だけ、マイナスということだ。

「Ⅲ 読書日記」の中の『志賀直哉』『狭き門』「富士日記』という文章に出てきた言葉だ。
若い頃、こういう言葉を読めば、「そんなことを言われたって本人は理解していると思って読んでいるんだから、それを読んでないに等しいなんて言われたら、本が読めなくなる」と憤慨した。

今は、そうだな、と頷ける。
それは本にかぎらず、「生きていく」ということがすべて、「理解していると思っていても、じつは理解していない」ことの連続ではないか、と思い始めたからだ。
だから無意味なのではなく、もう少し理解を深めよう・正そうとして、再び本を読んだり・人と話したり・デモに参加したりするのだ。
「マイナス」かどうか、それだってわからないのだから。
理解していなければ無意味だろうか 須賀敦子「本に読まれて」_e0016828_12553764.jpg
須賀敦子の亡くなる直前の本。
中央公論社

Commented by m-rica at 2015-07-23 16:28
9月に娘はフランスへ立ちます
しばらくは 戻らないようですが
彼女が連れて行く本の中に
須賀敦子、米原万里、荒川洋治
谷崎潤一郎、岡本太郎、水木しげる
桐島洋子、四方田犬彦がありました
今 勝手に本棚を覗いてるのですが👀
本との出会いのタイミングってあるような気がします。
Commented by ikuohasegawa at 2015-07-23 17:14
須賀敦子・・・・私はまだ、だめだろうなあ。
Commented by saheizi-inokori at 2015-07-23 18:24
> m-ricaさん、なかなか。
Commented by saheizi-inokori at 2015-07-23 18:25
> ikuohasegawaさん、好みかな。
Commented by tona at 2015-07-23 20:59 x
須賀さんの本は3冊読みました。
>・・・読んでないに等しいのではないか。いや、読んだと思っている分だけ、マイナスということだ
ジョイスの『ユリシーズ』やプルーストの『失われた時を求めて』が私にはそうでしたし、もう読む気力がありません。
Commented by saheizi-inokori at 2015-07-23 21:57
> tonaさん、でもそう思わせる本ほど読み返す価値があるのではないでしょうか。

Commented by haruneko3 at 2015-07-23 23:50
ちょっと敷居が高そうな本。。。。でも少し気になります。
図書館で探してみます。
Commented by namiheiii at 2015-07-24 10:35
「生きていく」ということがすべて、「理解していると思っていても、じつは理解していない」ことの連続ではないか・・・参りました。意味深長な言葉ですね。
Commented by saheizi-inokori at 2015-07-24 12:05
> haruneko3さん、これは短い読書感想文が集められているので肩の凝らない本だと思います。
興味がないところは抜かしていけばいいから。
Commented by saheizi-inokori at 2015-07-24 12:08
> namiheiiiさん、70を超えた頃からつくづくそういう思いが強くなりました。
穴があったら入りたいような慙愧の念を感じることもしばしば、でもしょせん人生には多かれ少なかれ誤解・無理解はつきものと思いなすようにしました。
そうでないと辛すぎです。
達観とは違います。
Commented by sheri-sheri at 2015-07-24 14:50
ああ、またお写真が素晴らしい。ムクゲの花、心が安らぎます。有難うございます。カルガモの親子でしょうか。・・元気そうで何よりです。
Commented by saheizi-inokori at 2015-07-24 17:16
> sheri-sheriさん、スマホの練習です。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2015-07-23 12:56 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori