3・11後の日本 作家の想像力は現実に勝てるか 多和田葉子「献灯使」
2015年 02月 22日
日本はだいぶ前から鎖国している。
レンタルの犬と猫の死骸以外には動物を見かけなくなって何年もたつ。
一等地も含めて東京二十三区全体が、「長く住んでいると複合的な危険にさらされる地区」に指定され、かといって海の近くはもっと危険なので奥多摩から長野にかけて住む人が増えた。
子供たちはものを咀嚼する歯を失っているから、老人たちは曾孫に食べさせる果物(ジュースにする)を手に入れようと目を血走らせて、市場から市場を彷徨う。
オレンジは全国均一で一個一万円と指定されている。
農業で栄えている北海道は移民を受け入れない政策をとっているし、沖縄は農業に従事する夫婦に限り受け入れている。
子供はダメで、女性は五十五歳以上、男性は去勢手術を受けている人が優先される。
政府も警察も民営化され国会議事堂や最高裁判所の建物は使われていない。
警察の主な活動は吹奏楽、ちんどん屋とサーカスの名曲を演奏しながら尻を振って町を練り歩く。
奇形、(人間というより鳥に近いようだ)の曾孫。
悲しみ・辛さと言う感覚がない子を泣きながら抱きしめて学校に通わせる作家の老人。
そして曾孫は献灯使に選ばれるのだ。
毎朝直径五センチ、高さ十センチの蝋燭にマッチで火をつける、という行事を欠かさない秘密のメンバーが、優秀な子供を選び出して海外に送り出すという極秘のプロジエクトで選ばれたのだ。
書名になった中編のほか、三つの短編と一つの戯曲台本からなる。
いずれも3・11以後の世界に対する文学者からの想定外の想定だ。
二番目の「韋駄天どこまでも」は汚染された環境下に暮し、たくさんの白血病の子供たちの描いた絵の展覧会が開かれている世界で癌で夫を亡くしアンニュイに生きる女が地震に遭遇する噺。
三番目に収録されている「不死の島」は「献灯使」の状況に至るプロセスを書いている。
マスコミが、「フクシマの恐怖は終わった」と主張し始めた2013年の初春、生放送で天皇陛下のお話があるというので、みんなで(一人でみるのが怖いような気がして)テレビを見ていたら、
混乱期を経たのち、2015年、日本政府は民営化、Zグループが株を買い占めた。
その頃から日本の様子は外国から分からなくなっていたのだが2017年に太平洋大震災が起きたようだ。
2020年頃に日本へ密航してきたというポルトガル人の本で分かった日本。
放射能が老人の死ぬ能力を奪う反面、細胞分裂が活発な子供たちは次々病気になり介護が必要になっていること、すでに東京では人々は裸で暮し、土ではなく綿を入れた植木鉢をベランダに置いて、インゲン豆やトマトを作って食べている。
貸本屋に行列ができ、木版で刷った(電力はない)かわら版を読み、縁台将棋を楽しみ、語り部や弾き語りが夜の無聊を慰めている。
四作目の「彼岸」は18歳のパイロットが操縦する輸送業務中の戦闘機(最新型の爆弾見本を積載)がツバメがエンジンに入ったかで再稼働したばかりの原発に墜ちた噺。
想定外のことが起こる確率は非常に高いのだ。
俺は昨日、「格安航空の参入と、現在のパイロットが大量退職を迎える2030年問題に対処すべく女性パイロットの養成と高齢者パイロットの労働延長をはかる」というニュースを見ながら、そんなにパイロットを増やしたら、想定外発生の確率も増えるだろうなあ、と思った。
国会の首相席からなんどもヤジ(ネトウヨさながら幼稚)を飛ばす総理大臣、口角泡を飛ばし言い訳にもならない減らず口を叩くヤクザのような(小心・保身の塊)NHK会長、アパルトヘイトを日本にも導入せよという元日本財団のお偉方、文官統制を廃止しようとする防衛省、、、。
フィクションと現実の境が縮んで現実が想定不可能だった領域に突入しつつあるようだ。
作家たちもよほど頑張らないと負けちゃうぞ。
講談社
外国の都市の名前を口にしてはいけないという奇妙な法律を破って罰せられたという話はまだ聞いたことはないが、それでも外国の地名を口にする時は誰もが警戒するようになっていた。これまで適用されたことのない法律ほど恐ろしいものはない。誰かを投獄したくなったら、みんなが平気で破っている法律を突然持ち出して逮捕すればいいのである。年寄りは死ねなくなって、60代は若者、70代は若い老人、90代で中年の老人、百歳を越えて、ただの老人と呼ばれる。
レンタルの犬と猫の死骸以外には動物を見かけなくなって何年もたつ。
子供たちはものを咀嚼する歯を失っているから、老人たちは曾孫に食べさせる果物(ジュースにする)を手に入れようと目を血走らせて、市場から市場を彷徨う。
オレンジは全国均一で一個一万円と指定されている。
農業で栄えている北海道は移民を受け入れない政策をとっているし、沖縄は農業に従事する夫婦に限り受け入れている。
子供はダメで、女性は五十五歳以上、男性は去勢手術を受けている人が優先される。
政府も警察も民営化され国会議事堂や最高裁判所の建物は使われていない。
警察の主な活動は吹奏楽、ちんどん屋とサーカスの名曲を演奏しながら尻を振って町を練り歩く。
奇形、(人間というより鳥に近いようだ)の曾孫。
悲しみ・辛さと言う感覚がない子を泣きながら抱きしめて学校に通わせる作家の老人。
そして曾孫は献灯使に選ばれるのだ。
毎朝直径五センチ、高さ十センチの蝋燭にマッチで火をつける、という行事を欠かさない秘密のメンバーが、優秀な子供を選び出して海外に送り出すという極秘のプロジエクトで選ばれたのだ。
いずれも3・11以後の世界に対する文学者からの想定外の想定だ。
二番目の「韋駄天どこまでも」は汚染された環境下に暮し、たくさんの白血病の子供たちの描いた絵の展覧会が開かれている世界で癌で夫を亡くしアンニュイに生きる女が地震に遭遇する噺。
三番目に収録されている「不死の島」は「献灯使」の状況に至るプロセスを書いている。
マスコミが、「フクシマの恐怖は終わった」と主張し始めた2013年の初春、生放送で天皇陛下のお話があるというので、みんなで(一人でみるのが怖いような気がして)テレビを見ていたら、
画面が急に真っ白になり、それから風に波打つ木綿でできた日の丸が大写しになった。ところがそのあと現れたのは予想していたお顔ではなく、黒い覆面をした男だった。(略)男はマイクに向かってふっと亀のように首を伸ばして、「すべての原子力発電所のスイッチを直ちに切りなさい。これが陛下のお言葉です」と言った。聴衆は凍りついた。覆面の男は優しい声で、「みなさん、心配はいりません。これは誘拐事件ではありません。わたしたちは今日ここで語られるはずだった方とかは大変近い関係にある者です。そしてこれはわたくしたち全員の気持ちです」と付け加えた。(俺注、2012年初出)その後、内閣総理大臣が突然NHKの「みんなのうた」に現れて「来月、すべての原発の運転を永久に休止します」と叫ぶ事件があった(その後しばらくして総理大臣は姿を消した)。
混乱期を経たのち、2015年、日本政府は民営化、Zグループが株を買い占めた。
その頃から日本の様子は外国から分からなくなっていたのだが2017年に太平洋大震災が起きたようだ。
2020年頃に日本へ密航してきたというポルトガル人の本で分かった日本。
放射能が老人の死ぬ能力を奪う反面、細胞分裂が活発な子供たちは次々病気になり介護が必要になっていること、すでに東京では人々は裸で暮し、土ではなく綿を入れた植木鉢をベランダに置いて、インゲン豆やトマトを作って食べている。
貸本屋に行列ができ、木版で刷った(電力はない)かわら版を読み、縁台将棋を楽しみ、語り部や弾き語りが夜の無聊を慰めている。
再稼働は想定外のことが怒らない限り絶対に安全だという国際会議の結論の挙げ句再稼働したのだった。
想定外のことが起こる確率は非常に高いのだ。
俺は昨日、「格安航空の参入と、現在のパイロットが大量退職を迎える2030年問題に対処すべく女性パイロットの養成と高齢者パイロットの労働延長をはかる」というニュースを見ながら、そんなにパイロットを増やしたら、想定外発生の確率も増えるだろうなあ、と思った。
フィクションと現実の境が縮んで現実が想定不可能だった領域に突入しつつあるようだ。
作家たちもよほど頑張らないと負けちゃうぞ。
講談社
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antsuan at 2015-02-22 14:58
直ちに健康には害がないとは云っても、精神の損傷は取り返しのつかないところまで来てしまっているようですね。
年寄りが頑張らねばならないのは、間違いないところでしょう。
年寄りが頑張らねばならないのは、間違いないところでしょう。
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saheizi-inokori at 2015-02-22 21:28
antsuan 、どこまで頑張れるか?
ソロソロしんどいです。
ソロソロしんどいです。
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quietrose at 2015-02-23 08:40
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saheizi-inokori at 2015-02-23 10:28
quietrose さん、移民?グローバルな世の中になりましたから、賛成も反対もないかも。
安倍には何も期待できません。ひたすら早くやめてほしい。
安倍には何も期待できません。ひたすら早くやめてほしい。
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at 2015-02-26 18:30
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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saheizi-inokori at 2015-02-26 21:28
鍵コメさん、近未来SFでしょうか。
でも主人公の少年はとても清々しいのです。
でも主人公の少年はとても清々しいのです。
by saheizi-inokori
| 2015-02-22 11:55
| 今週の1冊、又は2・3冊
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Comments(6)