ボビーは日本にいた フレッド・ウェイツキン「ボビー・フィッシャーを探して」
2014年 11月 15日
毎朝散歩で見かける公園の親子。
金網で囲まれたグランドでサッカーの練習に余念がない。
2.3年生くらいの男の子、小さなゴールとか三角ポストみたいなのも持参でいろんなことをやっている。
大変だなあとも思うが男の子の嬉しそうな顔をみるとむしろ羨ましい親子だ。
はあちゃんもサッカーに夢中だけど、パパはこんなに毎朝特訓をする余裕はない。
練習が終わると自転車を連ねて楽しそうに語りながら帰っていく。
さぞかし朝飯がうまいだろう。
これはアメリカのチエスの天才少年・ジョシュア・ウェイツキンとその父親の頂点を目指す闘いを父親が書いたノンフィクション。
1985年前後の話しだから、今は事情も変わっているのかもしれないが、アメリカではチエスの名人・トップになっても経済的には恵まれず(ロシアとは大違い)、公園で賭けチエスをして暮らしたり浮浪者まがいの境遇に甘んじる人も多いらしい。
にもかかわらず、子供をチエスの大会に出場させ少しでも高いレーティングを獲得させようとする「チエス親」は多いのだ。
それは自分の子が頭がいい、天才だということが親の気持ちを煽るのと(じっさいにはチエスの才能が他の面においても頭が良いこととはつながらないらしいが)、本書の表題にもなったボビー・フィッシャーの存在が大きいという。
連作短編集の形をとる本書に「ボビー・フィッシャーを探して」という章もあってボビーのことを書いている。
それまでソ連の独擅場の観を呈していたチエスの世界チャンピオンの座をアメリカにもたらした伝説の天才。
奇矯な行動でも知られ、チエスの試合の賞金やギャラをあたかもテニスの一流選手のように跳ね上げた。
なんしろスパスキーとの世界チャンピオン戦を前にしてわがままとも思えるような条件を次から次に出した上に出場するかどうかでも世間を騒がせ、キッシンジャー長官がアメリカの名誉のために出場してくれと直接電話したという。
ジョン・ウェインのような国民的英雄にもなり、アメリカの親たちが自分の子をボビーの再来と言われ有頂天になったり子供たちもボビー二世になることを夢見た。
そうして頂点に上り詰めた状態で試合から遠ざかり行方をくらましたのだ。
訳者あとがきによれば、1992年にふたたび表舞台に登場し、ユーゴスラヴィアでスパスキーと再戦、勝つ。
当時ユーゴスラヴィアに対して経済封鎖をしていたアメリカ政府は、マッチの中止を求め賞金を受け取りアメリカに入国したら逮捕すると文書通告する。
ボビーは記者会見でその文書に唾を吐きかけて、その後世界各地を転々とし長らく日本に身を隠す。
2008年64歳で死んだのち遺産を巡って墓を掘り起こしてDNA鑑定が行われる騒動も起きたが結局日本女性が遺産相続したという。
ジョシュアの成長、親子・チエス教師とのチームワークや葛藤、チエスをめぐるアメリカやロシアの実情などがとても面白く描かれているが、俺はボビーという人間にとくに興味を引かれた。
映画にもなったそうだしほかに伝記本も出ているというから読んでみよう。
我が子のまばゆいような才能を信じつつも、もしかして子供の幸せや別の可能性をつぶしているのではないかと悩む父の気持ちが正直に述べられるが、まあ、子供にとっては鬱陶しくもあったろうな。
チエスを知らなくても試合のスリルは充分に感じ取れた。
羽生善治が帯に推薦文を欠いているが、最終章の「全米選手権」が印象的との感想、俺もワクワクしながら読んだが羽生の感じ方はまったく別物だろう。
若島正 訳
みすず書房
金網で囲まれたグランドでサッカーの練習に余念がない。
2.3年生くらいの男の子、小さなゴールとか三角ポストみたいなのも持参でいろんなことをやっている。
大変だなあとも思うが男の子の嬉しそうな顔をみるとむしろ羨ましい親子だ。
はあちゃんもサッカーに夢中だけど、パパはこんなに毎朝特訓をする余裕はない。
練習が終わると自転車を連ねて楽しそうに語りながら帰っていく。
さぞかし朝飯がうまいだろう。
1985年前後の話しだから、今は事情も変わっているのかもしれないが、アメリカではチエスの名人・トップになっても経済的には恵まれず(ロシアとは大違い)、公園で賭けチエスをして暮らしたり浮浪者まがいの境遇に甘んじる人も多いらしい。
にもかかわらず、子供をチエスの大会に出場させ少しでも高いレーティングを獲得させようとする「チエス親」は多いのだ。
それは自分の子が頭がいい、天才だということが親の気持ちを煽るのと(じっさいにはチエスの才能が他の面においても頭が良いこととはつながらないらしいが)、本書の表題にもなったボビー・フィッシャーの存在が大きいという。
連作短編集の形をとる本書に「ボビー・フィッシャーを探して」という章もあってボビーのことを書いている。
それまでソ連の独擅場の観を呈していたチエスの世界チャンピオンの座をアメリカにもたらした伝説の天才。
奇矯な行動でも知られ、チエスの試合の賞金やギャラをあたかもテニスの一流選手のように跳ね上げた。
なんしろスパスキーとの世界チャンピオン戦を前にしてわがままとも思えるような条件を次から次に出した上に出場するかどうかでも世間を騒がせ、キッシンジャー長官がアメリカの名誉のために出場してくれと直接電話したという。
ジョン・ウェインのような国民的英雄にもなり、アメリカの親たちが自分の子をボビーの再来と言われ有頂天になったり子供たちもボビー二世になることを夢見た。
そうして頂点に上り詰めた状態で試合から遠ざかり行方をくらましたのだ。
訳者あとがきによれば、1992年にふたたび表舞台に登場し、ユーゴスラヴィアでスパスキーと再戦、勝つ。
当時ユーゴスラヴィアに対して経済封鎖をしていたアメリカ政府は、マッチの中止を求め賞金を受け取りアメリカに入国したら逮捕すると文書通告する。
ボビーは記者会見でその文書に唾を吐きかけて、その後世界各地を転々とし長らく日本に身を隠す。
2008年64歳で死んだのち遺産を巡って墓を掘り起こしてDNA鑑定が行われる騒動も起きたが結局日本女性が遺産相続したという。
ジョシュアの成長、親子・チエス教師とのチームワークや葛藤、チエスをめぐるアメリカやロシアの実情などがとても面白く描かれているが、俺はボビーという人間にとくに興味を引かれた。
映画にもなったそうだしほかに伝記本も出ているというから読んでみよう。
チエスを知らなくても試合のスリルは充分に感じ取れた。
羽生善治が帯に推薦文を欠いているが、最終章の「全米選手権」が印象的との感想、俺もワクワクしながら読んだが羽生の感じ方はまったく別物だろう。
若島正 訳
みすず書房
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pallet-sorairo at 2014-11-15 17:48
チェスをめぐる小説…あれ、あれ、う~んとなんだっけ。
うんうん唸って思い出した小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』。
…トシはとりたくないものだとつくづく思います(^^;
うんうん唸って思い出した小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』。
…トシはとりたくないものだとつくづく思います(^^;
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saheizi-inokori at 2014-11-15 20:27
pallet-sorairo さん、「猫を抱いて象と泳ぐ」なんてものすごく不自然な表題を思い出すってすごいです。
「薔薇の名前」を思い出した時には感動しましたよ。
「薔薇の名前」を思い出した時には感動しましたよ。
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tona
at 2014-11-15 21:05
x
このような内容だったのですね。すごく興味深い人です。
ギョリュウバイがきれいです。家のまわりにはありませんので珍しいです。
ギョリュウバイがきれいです。家のまわりにはありませんので珍しいです。
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doremi730 at 2014-11-16 02:45
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j-garden-hirasato at 2014-11-16 08:07
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saheizi-inokori at 2014-11-16 10:16
tona さん、「完全なるチエス」が彼の伝記らしいので予約しました。
ギョリュウバイ、名前は知っていたんですが実物と一致してませんでした。
ギョリュウバイ、名前は知っていたんですが実物と一致してませんでした。
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saheizi-inokori at 2014-11-16 10:18
doremi730 さん、本書ではチエスの天才児たちはそのうち自分がボビーの再来ではないこと自覚できるのだそうです。
むしろ親の方が気付くのが遅く子供にプレッシャーがかかるようです。
むしろ親の方が気付くのが遅く子供にプレッシャーがかかるようです。
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ikuohasegawa at 2014-11-16 10:56
文末の坂道の写真。サンフランシスコの夕焼けかと思ってしまいました。
夕焼けはいろいろ思わせます。
夕焼けはいろいろ思わせます。
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saheizi-inokori at 2014-11-16 11:39
ikuohasegawa さん、坂道と夕焼け、相性がいいです。
サンチとの散歩では歩き足らないのでひとり歩くのは夕方です。
サンチとの散歩では歩き足らないのでひとり歩くのは夕方です。
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saheizi-inokori at 2014-11-16 22:16
j-garden-hirasato さん、ご返事したつもりなのに消えてます。
仕様が変わったからミスが多いのです。
日本の将棋の天才にもいましたが平凡人とは違いますね。
なぜ日本に来たのか、伝説を読んでみます。
日本でも支援運動が起きてナントカ出国して最後はアイスランドの国籍を得たようです。
仕様が変わったからミスが多いのです。
日本の将棋の天才にもいましたが平凡人とは違いますね。
なぜ日本に来たのか、伝説を読んでみます。
日本でも支援運動が起きてナントカ出国して最後はアイスランドの国籍を得たようです。
by saheizi-inokori
| 2014-11-15 11:30
| 今週の1冊、又は2・3冊
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