人生の最後で最大の希望は何なの? トマス・H・クック「ローラ・フェイとの最後の会話」

ほめ・くさんが紹介していた本。
人が読んでいると俺も、って子供みたいだ。
この作家は「緋色の記憶」「夏草の記憶」「沼地の記憶」、、記憶シリーズを読んだきりだ。
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パッとしない中年の歴史学者・ルークが自分の本の販促のためにセントルイスに行き冴えない講演を終える。
そこにいたのは場違いと思われる女、20年前にアラバマの「死にかけた田舎町」・グレンヴィルでルークの父とスキャンダルがあった女・ローラ・フェイだった。
ルークの父は彼女との仲を疑った元夫に射殺され母はその心労もあって早世する。
グレンヴィルから脱出して世界を驚嘆させるような作品を書こうとハーヴァードに進んだルークだった。

そんな過去からやって来た女に気づいたルークは
毒蛇の入った駕籠を渡されたような気がした。蛇が這いまわり、籠の破れ目を探している音が聞こえるかのようだった。
それなのに「わたしたち、話すことがたくさんあるんじゃないかしら?」といわれて、ホテルのラウンジでピノ・ノワールとアップルティー二というウオッカベースのカクテルを何杯も飲みながら交わす会話、それにつれてルークが思いだす過去のことがこの小説のすべてだ。
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教養のない愚かな田舎娘のはずのローラ・フェイはじつは素晴らしい聞き手だった。
懐かしい映画やテレビ番組の名前が頻出する無心奔放とも思える彼女の言葉は20年前の事実に違った照明をあてる。
ルークはいやおうなく自身の過去のさまざまな場面を思いかえす。
(虚栄心ゆえに嘘をついたことを思い出して)そう思うと、わたしは妙に自分が空虚になっていくような気がした。あたかもローラ・フェイにアイスピックで突き刺され、その穴から自分が永久にもれつづけることになったかのように。
自分が直視しようとしなかった事実が再提示されると(俺はそういうことの毎日だ)「血液に毒が注ぎ込まれているような感じがして、その焼けつくような一瞬に、人生の現実の厳粛な、妙に人を駆り立てるような感覚に囚われる」、これも俺のことかと思う。
いつもルールを外れた生き方をして、それを正当化してきたのかもしれないとルークはいうのだ。
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南部ゴシック。暗い秘密のある家族。父と息子のあいだの戦い。利己主義。貪欲。暴力。過去からの負の遺産。高すぎて払えないのに、どんどん送られてくる過去の請求書
ルークが二人の会話を形容した言葉だ。
愚かな選択の長い連鎖が、どっと押し寄せた希望と夢がすべてを押し流してしまったのだ。
人生の最後で最大の希望は何なの?
ルークはその答えを見つける。
それが救いだ。

どうもこのところ身につまされる本を読むなあ。
何を読んでもそういうところにひっかかるのかもしれないが。

村松潔 訳
ハヤカワ文庫
Commented by koro49 at 2014-10-14 20:54
読めないから^^;
ルークの最後の希望は、何だったのか?知りたい。
Commented by saheizi-inokori at 2014-10-15 10:56
頃子さん、(ネタバレですが)、自分の犯したすべての誤りが、やるべき正しいことを教えてくれること。
そしてルークは別れた妻ととともにグレンヴィルに戻ります。
「退屈な教師」と陰口をきかれていた大学教師をやめて、ほんとに書きたかった小説、それは工場の労働者やパルプ材の運搬者、戦争や大恐慌を生き抜いたわが地方のふつうの人たちについてちょっとした回想記を書こうと思うのでした。
潔白だったけれど今は身体を悪くしたローラ・フェイも一緒に暮らすのです。「失われたものの伝説」のDVDをいっしょに見るところで小説は終わります。
Commented by reikogogogo at 2014-10-15 11:21
saheiziさん私も一読した感じ。
読書感想の中のsaheiziさんの一言やつぶやきにsaheiziさんの人間味を感じる時が有ります。近かったり、大きかったり、優しかったり、もろもろ。本を知る事もですがーーーいいね!!
Commented by saheizi-inokori at 2014-10-15 11:33
reikogogogo さん、本と会話しつつ読んでいます^^。
Commented by hisako-baaba at 2014-10-15 22:15
遺跡の上にある町に住んで、発掘された品々に感銘を受けています。旧石器時代から人の暮らしがあった土地。昔の工人たちの発想の素晴らしさ。
自然と共に生きた縄文人が、今の体たらくを見たら、本当に呆れてしまうでしょうね。
なんで不毛の争いばかりしたがるのだと。
Commented by saheizi-inokori at 2014-10-15 22:42
hisako-baaba さん、これは今朝の記事についてのコメントですね^^。
まったく同感です。
少々便利になったようで実は自分で首を絞めているような現代人だと思います(私も含めて)。
Commented by sheri-sheri at 2014-10-16 10:54
20年という歳月を経て、まるでパンドラの箱を開けたかのような幕開け。でも、箱が空いたおかげで、主人公も、別れた妻も多分、理不尽なめにあってきたであろうローラも、やっと人生の途中で心の荷物を下ろすことができたのですね。やはり、冬の日差しのような、力強くはないものの、それだからこそしみじみと降り注ぐ温かさに安堵したのではないでしょうか。結末は、いいい終わり方ですね。
Commented by saheizi-inokori at 2014-10-16 11:28
sheri-sheri さん、身につまされるのはそこなんです。
こちらはどうやったらいい終り方になるのか^^。
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by saheizi-inokori | 2014-10-14 11:00 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori