臭くて気持ち悪くてエロティックでスリリングなお伽噺 鹿島茂「モンフォーコンの鼠」
2014年 08月 17日
1831年、7月革命後のパリは過激共和派や正統王朝派、サン・シモン派などの宗教団体、フーリエが率いる社会改革家たちなどが蠢動、元銀行の頭取だった警視総監・ジスケは治安対策に張り切っている。
ジスケは、実はパリの抱える大問題はモンフォーコンの廃馬処理場と屎尿処理場にあることを知る。
毎日40頭ほどの馬が処理されその肉は違法であっても人間の食糧になっているらしい。
処理された馬の内臓を待ち構えているのは農家のほかに30万匹もの肉食の巨大な鼠たち。
鼠算で増え続ける鼠たちが廃馬の内臓では足りなくなったときはパリ市民の生活そのものが危機に瀕するだろう。
80万市民の排泄物は樽で毎日モンフォーコンに運ばれひたすら乾燥するのを待って農家に渡されるのだがそのプロセスの原始的・非衛生的なことは読む前から紙面に臭気が漂いウジ虫が這いまわるようだ。
もうひとつの大問題は市内メゾン・クローズの売春窟、梅毒猖獗の根源。
パリの二つの下半身問題を解決しなければパリの命運は尽きるだろう。
売出し中の文豪バルザックは正統王朝派サロンの女主人・カストリ公爵夫人からファンレターを貰って胸をときめかす。
勇んでカストリ夫人邸に出かけるが、いつも手もなく社交テクニックで体をかわされてしまう。
それどころか王朝派の機関紙の編集長を押し付けられる。
バルザックはかつて使っていた筆名による古本を見せられる。
そこに書かれた物語は現実を予言するように今彼の周りで進行している。
どうもバルザックは挑発されているようだ。
ああ、本書の梗概をどうまとめたらいいってんだい!
そのまんま読んでもらうしかない。
おもなる登場人物は、バルザック、ジスケ、アレクサンドル・パラン・デュ・シャトレなる公衆衛生学者、プロスペル・アンファンタン(サン・シモン派の教父)、マルヴィナなる美貌にして男を手玉に取る女工、その仮の夫にして愚直なジェローム、シャルル・フーリエ(社会思想家・運動家)、アルフォンス・トゥスネル(フーリエ派の動物生態学者)、ジュール・ルシュヴァリエ(フーリエの信奉者)、デュソソワ(モンフォーコンの廃馬処理業者)、その妻キク(長崎の娼婦だった、本書のマドンナの一人)、カストリ侯爵夫人、アンリ・ド・マルセー(パリ社交界の寵児・女たらし)、ポール・ド・マネルヴィル(アンリの友人)、サン・レアル侯爵夫人、ジャヴェール(敏腕な警部)、ジョンドレッド(ジャヴェールが追う悪党)。
実在の人物やバルザック「人間喜劇」の登場人物がほとんどらしい。
並行して語られるエログロに満ちた物語がいつかクロスしまた拡散するかと思えば捩れてどこに行くのか。
サフィエンヌ、サッフォー愛者つまりレスビアンの陰謀。
単性生殖への復帰。
サフィエンヌという新しい《種の思考》。
人間になろうとする鼠の《種の思考》。
人間というものの《種の思考》を明らかにしようとするバルザックの『人間喜劇』。
個人の幸福と社会の幸福をめぐるサン・シモン派とフーリエの対立。
さりげなく知的刺激も与えてくれて。
グロが苦手な人には辛いかもしれない。
俺は大丈夫、面白かった。
パリの地下を追いつ追われつ、、。
活劇としても面白いのだ。
文藝春秋
ジスケは、実はパリの抱える大問題はモンフォーコンの廃馬処理場と屎尿処理場にあることを知る。
毎日40頭ほどの馬が処理されその肉は違法であっても人間の食糧になっているらしい。
処理された馬の内臓を待ち構えているのは農家のほかに30万匹もの肉食の巨大な鼠たち。
鼠算で増え続ける鼠たちが廃馬の内臓では足りなくなったときはパリ市民の生活そのものが危機に瀕するだろう。
80万市民の排泄物は樽で毎日モンフォーコンに運ばれひたすら乾燥するのを待って農家に渡されるのだがそのプロセスの原始的・非衛生的なことは読む前から紙面に臭気が漂いウジ虫が這いまわるようだ。
もうひとつの大問題は市内メゾン・クローズの売春窟、梅毒猖獗の根源。
パリの二つの下半身問題を解決しなければパリの命運は尽きるだろう。
勇んでカストリ夫人邸に出かけるが、いつも手もなく社交テクニックで体をかわされてしまう。
それどころか王朝派の機関紙の編集長を押し付けられる。
バルザックはかつて使っていた筆名による古本を見せられる。
そこに書かれた物語は現実を予言するように今彼の周りで進行している。
どうもバルザックは挑発されているようだ。
そのまんま読んでもらうしかない。
おもなる登場人物は、バルザック、ジスケ、アレクサンドル・パラン・デュ・シャトレなる公衆衛生学者、プロスペル・アンファンタン(サン・シモン派の教父)、マルヴィナなる美貌にして男を手玉に取る女工、その仮の夫にして愚直なジェローム、シャルル・フーリエ(社会思想家・運動家)、アルフォンス・トゥスネル(フーリエ派の動物生態学者)、ジュール・ルシュヴァリエ(フーリエの信奉者)、デュソソワ(モンフォーコンの廃馬処理業者)、その妻キク(長崎の娼婦だった、本書のマドンナの一人)、カストリ侯爵夫人、アンリ・ド・マルセー(パリ社交界の寵児・女たらし)、ポール・ド・マネルヴィル(アンリの友人)、サン・レアル侯爵夫人、ジャヴェール(敏腕な警部)、ジョンドレッド(ジャヴェールが追う悪党)。
実在の人物やバルザック「人間喜劇」の登場人物がほとんどらしい。
並行して語られるエログロに満ちた物語がいつかクロスしまた拡散するかと思えば捩れてどこに行くのか。
単性生殖への復帰。
サフィエンヌという新しい《種の思考》。
人間になろうとする鼠の《種の思考》。
人間というものの《種の思考》を明らかにしようとするバルザックの『人間喜劇』。
個人の幸福と社会の幸福をめぐるサン・シモン派とフーリエの対立。
さりげなく知的刺激も与えてくれて。
グロが苦手な人には辛いかもしれない。
俺は大丈夫、面白かった。
パリの地下を追いつ追われつ、、。
活劇としても面白いのだ。
文藝春秋
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tona
at 2014-08-17 15:38
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何だか映画を観ているようです。
きれいごとでは済まない裏のパリ、そして当時の名士が出てきてなかなかの内容ですね。紹介がとてもお上手です。
きれいごとでは済まない裏のパリ、そして当時の名士が出てきてなかなかの内容ですね。紹介がとてもお上手です。
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saheizi-inokori at 2014-08-17 17:41
tonaさん、紹介が上手?あらまどうしましょう。
鹿島茂に叱られそうですのに。
鹿島茂に叱られそうですのに。
デュマの褐色の文豪も、パリの人間模様を描いているようです。パリは表と裏、どちらもドキドキの街ですね。読みたくなりました。
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saheizi-inokori at 2014-08-18 10:32
ginsuisen さん、佐藤賢一ですね。
それを読んでみようかな。
それを読んでみようかな。
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ginsuisen
at 2014-08-18 16:08
x
貸しましょうか?
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saheizi-inokori at 2014-08-18 22:32
by saheizi-inokori
| 2014-08-17 12:45
| 今週の1冊、又は2・3冊
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Comments(6)