3・11後の福島の人たちを忘れないために 岡 映理「境界の町で」

朝から病院、循環器と呼吸器と半年検査もいろいろやって、まあ、今日明日ということはなさそう、ベッドは買ってもいいかな。
血液検査のために朝飯を抜いたので朝昼兼用、病院の近くの初めてのレストランに飛び込んだ。
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「豚バラと青菜の辛み炒め」、ボリューム満点。
小鉢のサラダに小さく切ったものがしゃきしゃきしてうまい、りんごでも梨でもなさそう。
食ってしまってから、これ美味しかったけれど、なんですか?と訊いたら、ママさんはじめは何かしら、”美味しいもの”よ、なんて言ってたけれど、「あ、分かった!クワイです」。
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馬事公苑を通って買い物をして帰った。
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1977年生まれ、ホテル宴会場の皿洗い、クラブ店員、家庭教師などいろいろ遍歴しながら大学を出て、WEB開発、会社員、編集者、週刊誌記者などを経る。

本書は記者時代に3・11に遭遇してみて、「この世に本当に自分を必要としている人がいるのか」という疑問を抱く。
取材で双葉町に行き、東電の仕事をしている元ヤクザの建設会社社長(35)と親しくなり、警戒地区に何度も出入りし現地の人たちと付き合っているうちに「他人」が「知り合い」になり「大事な人」になっていく。

福島と行き来するうちに躁うつ病(双極性障害)を発病する。
福島の言葉を覚え福島の代弁者のようにふるまった。
そのとき双葉郡出身の女性作家が語った
自分が今まで福島県のことを書かなかったのは、福島を消費したくなかったからです
という言葉に打ちのめされる。
自分は「福島を消費」し、「福島を踏み荒らし」ているのではないかという罪悪感。

病床で彼女は、津波ですべての写真を失った彼らの記憶の伴走者になりたい、
私は「彼」たちを記録したい。
私が完全に福島を忘れてしまう前に。
物事は、起っては消え、忘れられてしまう。
彼らを忘れられる存在にしてはならない
と考えるのだ。
その結果が本書、俺の知らない(知ってることなんてほとんどないのだが)3・11以後の福島がリアルにわかった。
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印象に残った言葉・文章をいくつか引く。

元ヤクザの建設会社社長が警戒地区からの帰りの車中でラジオから石原慎太郎が都知事選に圧勝したというニュースを聞き
あいつよお、慎太郎って「震災は天罰だと思う」みたいなこと言ってたけど、ぶっ殺してやりてよな
肺がんで助かりそうもないことを自覚している友人のことを語り、「震災地にいるのに、震災からも取り残されて、孤立して。悔しかったと思う」と泣いている「はるえ」について
はるえは、自分の言葉が瓦礫になったんだよ、ということを私に言いたかったのだろうと思う。人の人生の稲妻のような一瞬に触れて、私の言葉も瓦礫になった。福島でそんな経験を何度もした。共感も、心配も、同意も、言葉にした瞬間すべて嘘になった。すべての言葉を奪われてしまった。共感したい、同意したい、同化したい。でも言葉という道具は頼りにならなかった。
楢葉町の警戒地域で93歳の寝たきりの母を守って夫と三人で、度重なる避難勧告を拒否して暮らす伊藤巨子(なお子)・1948年生まれの言葉
自衛隊の方にも話したことは、原発の現場で働いている(作業員)方々のことも考えてくださいと。この狭い日本を避難する場所を移り住んで逃げ切れますか。精神的に追い込まれませんか。追い込まれた精神をどのように背負って生きていけというのですか。よく考えてください。

原発の事故に関しては、この土地に誘致したときから万一の事故というのは想定していなければならないことだったと思います。
原発に関係した人たちは、潤った人たちが大部分と思われます。なのにこのような事故により、東電をまるで悪者扱いで批判するばかりでは前進できないと思います。
私は、東電より恩恵を受けた部分はないし、東電を擁護するつもりはありませんが、これからのことを考えるときに、ここにいて自分自身で体験できるこの瞬間を生き抜き、今後の原発との共存共栄のあるべき姿はどのようにすべきか、この事故を土台に前進すべきと考えます。
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元ヤクザの社長の父・松本喜一は町会議員だったが、筆者の勧め(半ば冗談?)もあって2012年12月の総選挙に福島5区から日本未来の党公認で出馬する。
はじめは「脱原発党」から出るつもりでいたら脱原発党が「国民の生活が第一」と合流し「日本未来の党」になったのだ。
その選挙資金は町議の退職金と年金一括前借りで560万円作ってと言ってるのでみんなで勝つあてのない選挙はやめろと、喜一が頭の上がらない巨子さんにも説得を頼むと、彼女は自分が東電から貰った賠償金を提供するから使ってくれというのだ。
お金はある人が出せばいいんです。お父さん(喜一)に一生に一度の勝負させてやらないと。震災のあと、あれだけの仕事をした人ですよ。勝負しないでお父さん死ねますか。

双葉郡から候補者を出さないとダメだと思うんです。
松本喜一は、誰もいない仮設住宅で、
政治家を信用できないなら、自分で立候補したらいいと思います!
と絶叫する。
野田総理の収束宣言、ベトナムへの原発輸出を批判する。
小名浜のソープ街の人たちの反応は好かったけれど仮設の双葉郡の人たち、いわきの人たちは冷たかった。
得票数6937、得票率3.9パーセント、6人中ビリ、供託金も没収だった。
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見たまま聴いたまま、自分をさらけ出して伝える事実。
小さいのが惜しいが貴重な写真も多い。
面白く中身は濃い。

リトルモア
Commented by sora at 2014-08-12 21:17 x
この本を教えて下さってありがとうございます
「追い込まれた精神をどのように背負って生きていけというのか」
この言葉に息が詰まりました

きょうは日航機御巣鷹山の事故から29年ですね 
運輸省の事故原因調査の謎も、秘密保護法施行で闇へでしょうか
ご遺族の無念を想います
Commented by saheizi-inokori at 2014-08-12 21:28
sora さん、愚民政策に乗っている国民が情けないです。
Commented at 2014-08-12 23:51
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2014-08-13 10:03
鍵コメさん、あなたのような感性の方が沈黙し軽いその場しのぎの言葉が氾濫するのも困ったものです。
限界と誤解はあっても言葉で通じ合うしかないのでは?
Commented by haru_rara at 2014-08-14 00:02
「限界と誤解はあっても言葉で通じ合うしかないのでは?」―そうですね。私も、そう思っています、迷いつつも。
Commented by j-garden-hirasato at 2014-08-14 05:51
今の政治は正に「愚民政策」ですが、
選挙をやれば、
やはり「愚民政策」の政党が勝ってしまう。
愚民の、愚民による、愚民のための政治、
そんな感じですか。
Commented by saheizi-inokori at 2014-08-14 10:53
haru_rara さん、生意気いいましたね、ごめん。
言葉が言いたいことを表してくれないもどかしさ・寂しさは私もよく感じます。
Commented by saheizi-inokori at 2014-08-14 10:54
j-garden-hirasato さん、投票場に行かない人が問題ですね。
超愚民です。
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by saheizi-inokori | 2014-08-12 16:46 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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