薄っぺらな東京で江戸の痕跡をアウトドアに探る なぎら健壱「東京の江戸を遊ぶ」

神保町の古本屋で買った新本(自由価格本)、300円(定価800円)
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なぎら健壱が自ら体験しつつ江戸のアウトドア・ホビーを探る。
この人が、こんなにちゃんとした視点を持って倫理的な、しかも読みやすい本を書くとは知らなかった。

解説のいとうせいこうがうまいことを言ってる。
残しておけばよかった都市の姿、人間の立ち方。あるいは、別次元にあり得ただろう都市や人間の発展の形。なぎらさんは町をつぶさに見ることによって、その別の東京、もうひとつの江戸を幻視しているのである。
とは言え、そう大仰に構えなくともいい。
どこかの雑誌に毎月連載されたそれは軽い筆致でクスグリもあり、サービス十分の楽しい記事だ。
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(自由が丘「みどり湯」、銭湯もある意味ではアウトドアの歓びだったのかもしれない、その行き帰りも含めて)

「千社札」から始まって、富士登山(東京都内の)、落語『黄金餅』を歩く、都内の名水、神田川のカヌー下り、谷中・巣鴨の墓参り、隅田川の渡しの跡をサイクリング、はとバスツアー、鬼平の『本門寺暮雪』コース、深川七福神巡り、浅草、雪月花の名所探訪まで十二景。
そこかしこで街にまつわる施設や行事に関する薀蓄も面白い。

早桶代わりに漬物樽(死体は入ってない)を背負って東上野四丁目(下谷・山崎町のこと)から、アメ横、末広町、秋葉原、神田、日本橋、京橋、銀座(尾張町)、土橋から新橋、虎ノ門、飯倉、麻布十番、暗闇坂を上がって一本松まで、志ん生の『黄金餅』に出てくる言い立てそのままに歩く。
16756歩を2時間半で踏破するのは大したもんだ、俺には真似できない(いや、いつかやってみようか)。
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猪牙舟は無理だからカヌーで神田川を下りながら、ビルの裏側を見続けて思う。
川に面した裏側は、まるで飾ろうという意志が感じられないほどに荒んでいるんですよ。映画の書き割のように人目につくところばかりを飾った街。”虚飾”という言葉がピッタリの薄っぺらな文化でしかない街。それが悲しいかな、東京という街の本質なんじゃないですかね。
江戸時代の名残が消えてしまったことよりも、東京そのものの希薄さを嘆く。
怖いのは東京を改革するとき、それと一緒に江戸も持っていってしまうということなのである(日本橋を見ろ!)
とも書いている。
こんどのオリンピックはその東京すら持っていってしまいそうだな(国立競技場を見ろ!)。

浅草について、
自分とこが江戸時代から続く下町文化の担い手であるという自負に寄りかかってしまって、時代に遅れをとってしまった結果、寂しい町になってしまった
と述懐している(木挽町生まれ、下町大好きの著者にとっては浅草はホームグランドなのだが)。
長野の山猿・俺もそのことについては道灌、じゃない同感(たとえば浅草のおでん屋の傲慢についてこれ)。
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「巻末特別鼎談」として、仲見世の老舗扇師・荒井修、橘流寄席文字・橘右之吉となぎらの放談記録。
ここで昔からの友だち、とくに荒井と橘のやり取りが面白いのだ。
「そうだそうだ」と相槌を打つのではなくてしょっちゅう茶々を入れたり反対意見とか”乗らない”受け答えをする。
俺はこの感じがわかるのだ。
ホントに仲のいい人とはこんなふうにケチをつけあったり梯子を外し合ったりすることが楽しい会話になるのだ。
こういう空気を知らないでなんでも逆らわない、お説ごもっとも、とまるで幇間のような受け答えをしながら、その実テメエのことしかしゃべらねえ、ってのが当今のうすっぺらな会話ではあるまいか。
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自由価格の300円、いや定価で買っても損はない、散歩のお供にもなりそうだ。

ちくま文庫
Tracked from じゅうのblog at 2022-03-20 16:25
タイトル : 『鬼平犯科帳2 第9話「本門寺暮雪」』 1990年日本
   "鬼平犯科帳2 第9話「本門寺暮雪」" [鬼平犯科帳2 第9話「本門寺暮雪」] 先日、BSフジで放映していた『鬼平犯科帳2 第9話「本門寺暮雪(ほんもんじぼせつ)」』を観ました。 -----story------------- 「平蔵(中村吉右衛門)」の昔の道場仲間である「井関録之助(夏八木勲)」は、雨の降りしきる中、絵馬堂の縁の下で、「名幡の利兵衛(草薙幸二郎)」と「浪人(菅田 俊)」が話しているのを聞いてしまう。 浪人に気づかれ、間一髪で難を逃れたものの、「録之助」はそのふたりと...... more
Commented by at 2014-07-03 11:51 x
今はもぉ、希薄な日本。
それをもっと希薄にして,大きく歴史は書き換えられ様としている。
それは大変 嫌なので、私は私の住んでる国で私の出来る日本を踏ん張ってする。
Commented by saheizi-inokori at 2014-07-03 11:56
蛸さん、人間が薄っぺらくなったから都市も薄っぺらくなったのかもしれないですね。
どうせ薄っぺらなら余計なことをしないで号泣だけにしといて欲しいものだが、いや冗談じゃないね。
Commented by jarippe at 2014-07-03 12:37 x
薄っぺらな世の中に
薄っぺらな言葉がとびかって
薄っぺらな会話で盛り上がっている
誰もホンネを戦わせようとしない
いつ何処で誰とホンネの話をするの?
せめて国会議員さんホンネの会話議論を戦わせ
これぞ日本!! って粋の良さ懐の深さを
国民に見せておくれ 頼もしさを見せておくれ
薄っぺらな国会にしないでおくれ お願いしますよ
Commented by 20070707open at 2014-07-03 12:57
タイムスリップするとしたら、江戸時代と思っています。
この本面白そう・・・openも読んでみたいです。
探してみます。
Commented by ikuohasegawa at 2014-07-03 13:40
またまた読みたくなる。まだ、セラピストも届いていないのに。
Commented by LiberaJoy at 2014-07-03 15:29
安倍を代表とするお金に目が眩んだ連中は、薄っぺらいけれど、
そうでないところには、まだまだ頼もしい連中がいると
信じて、生きています。
Commented by saheizi-inokori at 2014-07-03 20:16
jarippe さん、今の国会議員たちにお願いしてもなんともなりはしない、のでは。
早く国会を解散して新しい議員を選ぶように追い込むしかないでしょうね。
言うは易く、ではありますが。
Commented by saheizi-inokori at 2014-07-03 20:19
OPENさん、東京になじみがない人でも面白いかもしれません。
Commented by saheizi-inokori at 2014-07-03 20:20
ikuohasegawa さん、私も今4冊、いやもっとかな、かかえています。
Commented by saheizi-inokori at 2014-07-03 20:20
LiberaJoy さんご自身がそうです。
それが私にとっても頼りですよ。
Commented by leiko at 2014-07-03 21:11 x
東京オリンピックでまた、いにしえの雰囲気の東京が破壊されるのでしょうね~残念!
Commented by 小言幸兵衛 at 2014-07-03 22:32 x
あらぁ、佐平次さんが、なぎら健壱の本ですか。
この人、なかなかいい本を出しています。居酒屋の本では、佐平次さんに教えていただいた森下の、あの店なども紹介しています。
この本を買われた神保町の古書店は、たぶんあの店ですね。
そういったことも含め、次回の居残り会で!
Commented by reikogogogo at 2014-07-03 23:33
saheiziさん、私齢ばかりとって、自由価格本って、知らなかった。
面白そうな本、見つけましたね。
Commented by k_hankichi at 2014-07-03 23:45
街角探検隊として、見逃せない本です。読みたいです。
Commented by sweetmitsuki at 2014-07-04 06:06
JR総武線から見る神田川は、なかなかに迫力があって、深いものに見え、私も機会があればぜひ、あそこを船で遡ってみたいと思っていたのですが、川面から見ると薄っぺらいものに見えてしまうのでしょうか。
Commented by LiberaJoy at 2014-07-04 08:40
おはようございます。saheiziさんや酔流亭さん、渋太く生きている人たち、昔もそれぞれの場所で生きてきたと思います。
でも、発信する手段がなかなかなかった。
それがブログという道具を持って、一挙に交流できるようになった。
この道具は庶民に大きなものです。
これからも、お互い書き続けましょう。
Commented by 散歩好き at 2014-07-04 08:46 x
錦糸町から月島迄鬼平と居眠り磐音に関連付けて歩くのを友の企画で参加しました。はじめの段階で家族に呼び戻され残念でした。これからは江戸も歩かなければと思っています。
Commented by saheizi-inokori at 2014-07-04 10:11
leiko さん、なぎらも書いてますが私たちの孫たちはこのうすぎたくなった東京を懐かしく「昔はこんなものあんなものがあったよ」と子供たちに言うのかもしれないですね。
Commented by saheizi-inokori at 2014-07-04 10:12
小言幸兵衛 さん、なぎらの居酒屋談義も面白いですね。
Commented by saheizi-inokori at 2014-07-04 10:13
reikogogogo さん、再販制度から外した本なのでしょうね。
散歩の参考にどうぞ。
Commented by saheizi-inokori at 2014-07-04 10:14
k_hankichi さん、知っている場所、知っている薀蓄が出てくるとそれも嬉しいし、初耳だともっと嬉しい。
Commented by saheizi-inokori at 2014-07-04 10:17
sweetmitsuki さん、聖橋などはなかなかのものです。
彼が言うのは建物の裏側がみすぼらしいということ、それから病院などからゴミ(注射器など)や排水の垂れ流しがひどかったと書いてます。
いまはどうなったのか。
Commented by saheizi-inokori at 2014-07-04 10:18
LiberaJoy さん、たとえ蟷螂の斧であってもね。
蟷螂にしてみればこれでなかなか。
Commented by saheizi-inokori at 2014-07-04 10:24
散歩好きさん、歩くネタはつきないですね。
小説や落語の舞台などは一番楽しいでしょう。
私も少しテーマを決めて歩こうかな。
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by saheizi-inokori | 2014-07-03 11:43 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(1) | Comments(24)

ホン、映画・寄席・芝居、食べ物、旅、悲憤慷慨、よしなしごと・・


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