読めども読めども身につかぬ名著 村田喜代子「名文を書かない文章講座」

本屋で見たときは以前読んだ本だと思った。
図書館で見たらどうも初見のような気がしてきた。
それで「遠い鏡」を読むのに疲れたらちょっと箸休めにと思って借りてきた。

働いていた頃、社員に読んだ本を寄贈するにあたってちょっとした紹介文をコメントした、その文章がドキュメントに保存してある。
チエックしてみたら、やっぱり読んでいた。
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なのに、夜目が覚めて読み始めたら、初めて読むとしか思えない。
エッセイとも呼べないような「牛のよだれ」を毎朝ブログに書きつけている身としては恥ずかしくなるような心構えの数々。

気取りのない、平明な文章にはユーモアもたっぷり。
自分の文章を例にとって文章の本質を説くって、度胸もないとできないだろう。
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とうとう一冊読み上げてしまった。
だから眠い、頭が働かない。

それで昔の社員向けの文章をコピペしてごまかす。
俺も理研並みなのだ。

社員旅行のことも書いているのでご愛嬌でそのまま、こんなふうにマクラをいろいろ書いて平均週に1~2回発信していたのだ。
(1)とあるのは(2)に嵐山光三郎「文人悪食」を紹介しているから。
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(駒沢公園)

 社員旅行第1班、シンガポール「楽しさを強行する旅」無事帰ってまいりました。行く前は、果たしてこの日程に耐えられるかが心配でしたが楽勝でした。幹事や同行の諸君のおかげでしょう。でも昨年だったら少なくとも持ってだけはいくだろうジョギンググッズを全く考えもしなかった(その代わりといっちゃ何ですが、薬は密輸できるほど持って行きました)のは、やはりオントシのせいでしょうか。安くてうまいものにも感激したが、“多民族国家“ということにも感慨があった。全く違う文化。文字だって、例えば英語とフランス語の違いとはまるで違う中国、マレー、英語、などが共存。当然考え方もまるで違うだろう。日本では青森と宮崎では言葉が違うかもしれないが、黙っていても私の気持ちは察して頂戴ね、それでも困ったら、ワンワン泣き出せば何とか助けてくれる、と思っている文化。それがシンガポールではそうはいかない。甘えは許されない、自立して生きていかなければならない。その代わり同じ民族間では日本人相互とは異なった連帯感があるのだろうな。アメリカもそうかもしれませんが、あそこはなんとなく白人対少数民族(カラード)なのに対してこちらは数こそ中国(この国も多民族国家なのだが)が多くても、有色アジア人相互の話ですから、身にしみるのです。

(1)名文を書かない文章講座  村田喜代子  葦書房
今まで世にある「名文講座」の類は、「田圃の仕事を教えるのに泥に手を汚さない」から読むのに不快感があったという女流作家の、朝日カルチャーセンターでの講義を元に書き下ろした作品。普通の人がいい文章を書くための基本を1)自分でなければ書けないこと(内容)を2)他の人にわかるように書く(方法)と定義、そのことについていろんな角度から教えてくれる。「毎日の暮らしはすべて文章力をつける練習だ。ぼんやり人と会って会話し、ぼんやり新聞やテレビを見て、ぼんやり外を歩き、ぼんやりと家族とつきあい、そうやってぼんやりと一日を、一年を、一生を送っているのでなければ、人間は誰だって文章は書ける。」と、おっしゃる。この言葉にこのホン、この作者の凄さがすべてあらわれている。きわめて当たり前のような、そんなこと誰だって、という言葉だが、よく読んでくれ。「暮らし」が文章力をつける練習だ、と。「暮らしの中にいい文章を書くヒントは隠されている」ではないのだ。一日は一年にそれは一生になるんだよ、という、さらっと。「人間は誰だって」文章(それも“いい”文章とかじゃない)が書けないのは一生ぼんやり生きてるのか、そうでなければ人間じゃないってのかい。しかし、こんな凄いことをおっしゃった直後、ではどうすればいいかについて、箇条書きで

1.出会った人間の顔。姿。話しぶりの観察。
2.戸外の風景。出来事の観察。
3.聞いた話の中で、印象的なものをメモする。
4.新聞、テレビ、本の中で心にとまったものをメモする。
5.その日、思いついたこと、考えたことをメモする。

という。なるほど人間であればできることだ。基本編、実践編、質問編、独習編、鑑賞編といずれも読みやすく、文学論でもあり、文章のことを語って人生を語る趣もある。最初は従来の文章読本との違いに戸惑い、なんか安っぽく感じられたが、読み進むにつれて興奮してきた。それは先に述べたような彼女の一読平易でなんでもないような文章に隠されている毒とでも言うべきものに気がついたからだ。その彼女が自らの著作を例にあげて言うところを絵解きしているのも面白い。まだ彼女の小説を読んでいないが早速一冊買ってしまった。読んでない本が又増えたア。
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(天然酵母パンの店「SORA」)

どんな文章でも予めメモで書きたいことや構成を書いておく。
長さも決めておく。

たったこれだけのこともしない。
だからいくら毎日ブログを書いてもまったく上達しないのも道理だ。
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昔の文章のコピペだけではあまりに手抜きだから、著者が「おわりに」に書いている文章についての五項目を、やっぱり写してごまかしの上塗りとする。

1、文章は声に出して読む。
2、テーマとは他人にしゃべりたい事柄に、普遍性を持たせたものである。
3、構成はおしゃべりの筋書きと同じである。どう効果的にしゃべるかだ。
4、名文を書こうという意識を捨てる。テニヲハなど、細かな間違いをあまり気にしない。
5、推敲は自分の耳と、他人の耳を借りる。

「他人の耳」、電話で読み上げるのだそうだ。

ここまで書いてアップしようと思ったら、待てよ、前にもこの本のことをブログに書いたんじゃないか、と。
検索してみたら、ああ!度し難い健忘症ナリ。
これでは文章の上達どころか書くことさえいつまでできるのだろう。
2005年に書いた記事→「いいなあ村田さん 文章の力だ 亡き者が甦る 村田喜代子『尻尾のある星座』

朝日文庫
Commented by ikuohasegawa at 2014-05-08 18:34
そうでしょう。
7冊の集合写真を見たときにアレッって思いました。梟通信の過去頁を読んで「名文を書かない文章講座」を買いましたから、覚えていたのです。



Commented by nenemu8921 at 2014-05-08 21:35
読んでみたくなりました。
村田喜代子の作品は、初期のものくらいで、ほとんど読んでいないのですが。
昔読んだ本は忘れないのに、最近(といっても、ここ数十年の最近)
読んだ本は忘れること、多いのですよね(^_-)-☆
Commented by saheizi-inokori at 2014-05-08 22:14
ikuohasegawa さん、おやまあ!お見苦しいところをさらけ出しました。
過去ブログを読んでいただいているのなんて恐縮です、うれしいけど。
Commented by saheizi-inokori at 2014-05-08 22:17
nenemu8921 さん、端倪すべからざる作家だと思います。
読みやすさに身をゆだねているととんでもない世界に連れて行かれます。
Commented by keiko_52 at 2014-05-09 10:47
面白そうな本ですね。
村田喜代子さん昔何冊か読みました。
面白かったです。
がんになったそうですが、お元気でしょうか?
Commented by saheizi-inokori at 2014-05-09 12:47
keikoさん、がんになった後の闘病体験も短編集「光線」にまとめて発表、それを読む限りでは治療できたようです。
Commented by poirier_AAA at 2014-05-09 17:52
うーん、やはりこれは読まなくては。

上手く言葉にできたためしがないのですが、この人の文にはずっと「ただならぬもの」を感じていました。きちんと理由があったとわかって、ちょっと嬉しい。
Commented by fusk at 2014-05-09 20:56 x
ブログに何を書こうか?と考えるだけでも
周囲を注意深く見る様になるだろうし
読む方も、こんな見方が有るのだと気がつく。
谷崎の文章読本を再読しています。今さらなんですけど。。。笑。

Commented by saheizi-inokori at 2014-05-09 21:36
poirier_AAA さん、実に平明な言葉でうっかり読み過ごしてしまうのですが、ぎらっと、分かるなら分かってみよ、みたいな何かが隠されている、そんな文章です。
Commented by saheizi-inokori at 2014-05-09 21:41
fusk さん、谷崎、三島、丸谷、川端、井上、、ずいぶんたくさん文章読本を読んだような気がします。
その中で村田喜代子のは一番易しく気取らずに書いてある、でもよく読むと難物だと思います。
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by saheizi-inokori | 2014-05-08 10:52 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori