ピカソの魂は醜い 骨太なユーモア ミシェル・ウエルベック「地図と領土」
2014年 04月 14日
「地図と領土」、表題は社会科学系の本かと思うと大違い。
2010年、ゴンクール賞を受賞した小説、実に面白かった。
ミシュランの地図を使った写真で世に出た主人公・ジエドは毎年クリスマスには老いた父と食事を共にする慣わし。
話題に困ったあげく、反応を予期することもなく、個展を開くにあたってカタログにミシェル・ウエルベック(本小説の作家)に寄稿してもらえと(ギャラリストから)言われていると話すと、父が
主人公・ジエドは写真をやめて画家となり「シンプルな職業」「企業のコンポジション」シリーズを描き続け、父を描いた「建築家ジャン=ピエール・マルタン、社長職を辞任する」は代表作のひとつ。
「ダミアン・ハーストとジェフ・クーンズ(どちらも実在の超高値で売れる画家)、アート市場を分けあう」と題した作品がどうにも仕上がらないのだ。
現代の芸術・メデイア・市場に対する痛烈な批判・皮肉が全編に流れる。
「ビル・ゲイツとスティーヴ・ジョブズ、情報科学の将来を語り合う」、ジエドの画に資本主義の簡潔な歴史を(悲観的に)読み取るウエルベック。
現代性そのものに対する深刻な懐疑・異議申し立てだ。
父は若き建築家時代にコルビジェを否定しようとあがいたのだし。
ウエルベックは
現代芸術を批判する二人、じゃあ、どういう芸術がいいのか、というアンサーがこの小説であり小説の中で説明されるジエドの芸術遍歴、さあ、読者はどう見る?
ジャン=ピエール・ぺルノ、ジュリアン・ルペールなどというテレビの有名人がハリウッド映画のシーンのように登場する。
もっともぺルノのパーテイでジエドは悪酔いをして屋敷の中の植栽鉢に吐きまくるのだが。
幼い頃に自殺した母、退職した父、哀愁に満ちた場面があって、ロシアからの美女やエスコートガールたちとの交渉もまた哀愁に包まれる。
人類の未来もまた?
第三部において小説は劇的な展開を見せる。
ネタバレなんて気にしなくてもいいかもしれないが、やはりやめておこう。
興味があったら読んでください。
最近の日本作家では味わえない骨太なユーモアを堪能できるはずです。
野崎 歓 訳
筑摩書房
2010年、ゴンクール賞を受賞した小説、実に面白かった。
話題に困ったあげく、反応を予期することもなく、個展を開くにあたってカタログにミシェル・ウエルベック(本小説の作家)に寄稿してもらえと(ギャラリストから)言われていると話すと、父が
いい作家じゃないか。面白く読めるし、社会についてかなり的確なヴィジョンを持っていると褒めるのだ。
父のように、絶望的なまでに退屈きわまる、判で押したような日々を送ってすっかり麻痺してしまっている人物、暗鬱な道、死の影に包まれた道に踏み込んでしまった人物ですらウエルベックの存在に注目しているのだとしたら、それは何といってもこの作家に何かがあるということだ。こういう渋いユーモアが大好きだ。
「ダミアン・ハーストとジェフ・クーンズ(どちらも実在の超高値で売れる画家)、アート市場を分けあう」と題した作品がどうにも仕上がらないのだ。
彼はパレットナイフをつかみ、ダミアン・ハーストの目に突き刺し、力いっぱい穴を広げた。するとたちまち気分がよくなった、彼はひとつのサイクルの終わりに達していた。
現代の芸術・メデイア・市場に対する痛烈な批判・皮肉が全編に流れる。
テーマなど何の重要性もない、テーマを描き方よりも優先させようとするのは愚かであり、重要なのはただ、絵なり写真なりが形や線や色彩に帰着する、そのあり方だけなのだと考える人たちを嫌悪し否定する点でウエルベックとも意気投合する。
「ビル・ゲイツとスティーヴ・ジョブズ、情報科学の将来を語り合う」、ジエドの画に資本主義の簡潔な歴史を(悲観的に)読み取るウエルベック。
現代性そのものに対する深刻な懐疑・異議申し立てだ。
父は若き建築家時代にコルビジェを否定しようとあがいたのだし。
ウエルベックは
ピカソは醜い。彼は世界を醜くゆがめて描く。なぜなら彼の魂が醜いからだと断じる。
現代芸術を批判する二人、じゃあ、どういう芸術がいいのか、というアンサーがこの小説であり小説の中で説明されるジエドの芸術遍歴、さあ、読者はどう見る?
もっともぺルノのパーテイでジエドは悪酔いをして屋敷の中の植栽鉢に吐きまくるのだが。
幼い頃に自殺した母、退職した父、哀愁に満ちた場面があって、ロシアからの美女やエスコートガールたちとの交渉もまた哀愁に包まれる。
人類の未来もまた?
第三部において小説は劇的な展開を見せる。
ネタバレなんて気にしなくてもいいかもしれないが、やはりやめておこう。
興味があったら読んでください。
最近の日本作家では味わえない骨太なユーモアを堪能できるはずです。
野崎 歓 訳
筑摩書房
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ikuohasegawa at 2014-04-14 16:44
読みかけの本を持っていきたいけれど大きくて厚すぎた本がコレですね。代わりに持った、これまた面白い文庫本も教えてください。
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はじめまして。シニアナビ事務局と申します。
突然のコメントで申し訳ございません。
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シニアの方々にいつまでも楽しんで頂けるようなサイトを目指しており、日々、イベントなどを企画して発信しております。
こちらで日々の書かれている素晴らしいブログをシニアナビでもご披露頂けないでしょうか?
新たな交流なども楽しんで頂けるかと思います。
是非一度、遊びに来てください♪
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是非一度、遊びに来てください♪
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reikogogogo at 2014-04-14 23:35
saheiziさん 此の本、単行本でしたよね、1度見送った本ですが読みたくなりました。
読書のスピードには叶いませんが感想文のお陰で1度見過ごした本とあって再選です。
読書のスピードには叶いませんが感想文のお陰で1度見過ごした本とあって再選です。
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たま
at 2014-04-14 23:53
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「モクレン」(木蓮)に「リキュウバイ」(利休梅)あるいは「ナンジャモンジャ」・・・?
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saheizi-inokori at 2014-04-15 09:36
ikuohasegawa さん、そうですこれです。
文庫本の方は「叙情と闘争 辻井喬※堤清二回顧録」(中公文庫)です。
久しぶりに”買った本”ですが、買ってよかった本です。
まだ半分も読んでいませんが。
文庫本の方は「叙情と闘争 辻井喬※堤清二回顧録」(中公文庫)です。
久しぶりに”買った本”ですが、買ってよかった本です。
まだ半分も読んでいませんが。
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saheizi-inokori at 2014-04-15 09:38
reikogogogo さん、エンタテインメントとして読んだっていいほど面白いですよ。
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saheizi-inokori at 2014-04-15 09:39
たまさん、あちこちで見かける白い花、梅なのかな。
by saheizi-inokori
| 2014-04-14 10:14
| 今週の1冊、又は2・3冊
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