石ころにもなれずにいい加減なまま生きてしまった 秋山駿「私の文学遍歴」(2)

昨日書いた↓秋山駿の「私の文学遍歴」、図書館に返すのが惜しいような気がしてぱらぱらめくっているとまたひきこまれてしまう。
彼は15歳で敗戦をむかえそのあとは中学にもいかず街をさまよっていたのだが、その頃紀伊国屋書店から出たヴァレリーの「バリエテ」とか民主主義を分かりたくてルソーから何から読みまくる。
そうすると、頭の中が混乱するよ。
結局、使われている一単語でも、ものを考えるということになる。理性、知性、悟性、判断力・・・そういう単語のね、ひとつひとつの言葉がどういう内容を持っているのか、どこがどう違うのか、ちょっと考えなくちゃいけないわけだ。
それで、あまり頭の中がこんがらがるから、自分で言葉の領域をひとつひとつ考えて、決めてみなくちゃいけないというときに、何を土台にしたらいいかと思った。世の中でもっとも単純で、平凡で、ありふれていて、普通のもの・・・・石っころだよ。ものを考えるのに、いかなる手がかりもないもの、それを相手にして思考を始めなければいけない。それが、石ころなんだ。
そういうのがのちに生きる態度になってくると、この世のどんなものも、この石ころの存在以上のものではない。そういう考えになってゆくわけだ。
丸山真男が必読だと言われれば岩波新書の「日本の思想」を走り読みして分かったような気になって友人と議論めいたことをしていた俺。
恥ずかしくてたまらない。
石ころにもなれずにいい加減なまま生きてしまった 秋山駿「私の文学遍歴」(2)_e0016828_11534298.jpg
戦争中、戦後の生活は暗く苦しいことばかりではなかった。
あらゆるものがごっちゃ混ぜになった、何かが生まれる前の混沌とした状態だから、活気にあふれてもいた。滅茶苦茶だったけど、みんなこれからだと思っていて、今なんかより、ずっと面白かったかもしれないよ。
戦争にしても、厭なことだけでなく、面白いこともけっこう、あった。こう言うと、戦争肯定のように聞こえるかもしれないが、そうではなくて、物事は一面を捉えるだけでなく、さまざまな面を捉えなければいけないということさ。そして、そういうことは、誰かがしっかり書き残しておかないといけない。
一般人たちが戦争の「勝つ戦略(幻想)」をどのように聞いていたのか?徴兵された留守家族の、金銭収入、生命・火災保険、債権、家賃、物価、インフレ、都市と農村、具体的にどういう生活だったのか?
戦後だったら「暮らしの手帖」に連載されていたなあ。

文学仲間が保険会社に就職して、重役候補生として研修を受けると聞き、「行って来いよ」といったとたんにウイスキーグラスが額に飛んできた。
文壇バーに行ったら阿部昭がいて、「この間の匿名批評はあなたか?」と訊くから、そうだよと答えたら、いきなり殴られた。
俺の頃も少しはそんな気配は残っていた。
抜き身をぶら下げて歩いているような。
石ころにもなれずにいい加減なまま生きてしまった 秋山駿「私の文学遍歴」(2)_e0016828_11512762.jpg
(ゆうべの俺の作品、豚肉とネギ炒め、肝心の柚子をかけるのを省略してしまった)

どうも、やっぱり、ずいぶんと生ぬるくなっちゃったなあ。
Commented by ikuohasegawa at 2014-02-27 17:37
軽い小説ばかり貪っている自分がチョイと恥ずかしいです。
Commented by 小言幸兵衛 at 2014-02-27 21:17 x
“物事は一面を捉えるだけでなく、さまざまな面を捉えなければいけないということさ。そして、そういうことは、誰かがしっかり書き残しておかないといけない”という言葉、非常に重いですね。
秋山駿、まったく読んだことがありませんでしたが、少しづつ読もうと思っています。
そろそろ図書館に行こうかなぁ。
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-27 21:18
ikuohasegawa さん、硬軟それぞれに面白いです。
あまり難しいのはぱらぱらめくってお手上げ。図書館ですから惜しげもなくやめます。q
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-27 21:20
小言幸兵衛さん、私もあまりまともに読んではいないのです。
新聞の文芸時評などをよんだくらい、「信長」は面白かったですが。
Commented by sweetmitsuki at 2014-02-28 05:40
戦中、戦後の混乱期とバブル崩壊後の今の低迷期は、ちょっと似てるのかも知れません。
みんなが信じていた神話が崩壊し、混沌とした状態なんですけど、でも、それでも生きていかなければならないんですよね。
何か活気にあふれるようなことは見つからないものでしょうか。
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-28 08:55
sweetmitsuki さん、日本の歴史(に限らないでしょうが)、戦乱とか震災後の復興期に新しい文化が(それは復古と革新の両面を併せ持つ)生まれているそうです。
白村江の敗北、壬申の乱のあとの白鳳文化が始めでしょうか。
噺は転じますが、昨日の朝日だったかに安倍の言動の批判をロイターやフランスでも行っているという報道がありましたよ。
Commented by at 2014-02-28 09:30 x
もぉ、重くって読めねぇ・・・・、てか、もともと・・・・・。;;
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-28 09:41
蛸さん、こういうのが今の私の気分によく合うのです。
なまじ軽さを狙ったものはかえってつまらない。
Commented by hanamomo06 at 2014-02-28 22:24
できたてを撮られたのがわかります。
彩りもよく美味しそうですね。
いかとだいこんって相性がいいですね。
Commented by saheizi-inokori at 2014-03-01 00:57
hanamomo06 さん、おかげさまでうまい飯にありつきましたよ^^。
版権などと面倒なことを言わないでこれからもよろしくお願いします。
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by saheizi-inokori | 2014-02-27 12:07 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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