襟を正して爆笑すべし甘ったれ現代人必読 秋山駿「私の文学遍歴 独白的回想」

私の批評の原点は「石」です。十五歳で敗戦をむかえ、一挙に何もかも分からなくなって、いろんなことを自分ひとりで考えなくちゃと思っているときに、道端から拾ってきたものです。敗戦とは、人を巨大な疑問符の中に叩きこむようなものだ。何もかも分からなくなる。敗戦の翌日だって、何をどうしていいのか分からない。
考える手がかりがあるようなもの、他人の言った言葉やなんかを全部捨てて、自分だけで考える。
だから石。目の前に置いてね。考えようとすると骨折れますよ。(略)
任意のもので、意味を発しないもの、無意味なもの、そういうものを考えようと思った。その根底にあるのは、もしかすると、自分の「いのち」っていうものも、同じようなものと思ってたからね、その頃は。それで考えるんですよ。
独立不羈、独自の文藝批評。
昨年、八十三歳で亡くなった秋山駿の遺作。
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ほぼ一回り年上の侍の青春、文学遍歴はずしんと太い骨が通っていてしかも妙に人懐かしい。

左翼でありながら左翼に近づかなかった、秋山は中原中也だったし、敵はスターリン全集だった。
活動家であり頭の切れた奴がいい会社に就職して金持ちのお嬢さんと結婚してきれいな家を建ててもらった。
Q うますぎる話ってやつですか。
秋山 いやいや。やがて別れているんだ。適合しないんです。なぜだか、惨めな方へ惨めな方へ行く。心に傷がついている。どんどん滅びていくんだ。いろんな滅びていく人がいた。
そこを書いた作家がいないと嘆く。
俺も”適合しない”最後の口かもしれないが書く力はない。
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小林秀雄がいろいろなところに影響を与えていることについて
そのひとつをいえば、戦後の歴史時代小説の水源地が小林秀雄ということだろう。ほんとうの水源地。ある時期の歴史時代小説を書いている人はみな、終戦後の騒然たるなかで、民主主義のことをなんだかんだ言ってはやしたてることが気に入らない人たちばかりだ。つまり、戦後のいろんな言葉がみな厭だと言い、小林秀雄の沈黙だけが信じられると言っていた。私(1930年生)より七、八歳上の人たちね、、
隆慶一郎の名を挙げている。
司馬遼太郎もその一人なのか。
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(虎の門の裏道、焼き鳥関係の飯屋が多いな)
ちょっと言いにくいけれども、世の中の人が良いとか豪華だとか考えるものは私の場合、全否定だからね。文学みたいなもの、思想みたいなもの、知的な言葉、それらは言ってみれば、一個クラスが上のようなものなんだな。そういうものは一切、否定しなきゃならないからね。
もっと簡単なことを言うと、この社会では、ごく自然に人は子を産み、育てているじゃないの。あれはどうなんだろうって思うね。例をあげれば、敗戦のあとの社会的な混乱があっただろう。戦争で親を失った孤児が惨めな目に遭っているっていうときに、人が当たり前に子どもを産んで、自分の子どもだけを大事に育てる・・・ああいうのが良くないんだと思う。やっぱり、子どもはみんな、昔のスパルタじゃないけれど、国家が育てるべきだとね。「私の子」という考え方は良くないんだ。
う~ん、ハゲシイね。
でも少し頷けるところがあるのだ。
言いにくいけど、知り合いで子どもが死んで、その悲しみは分かるけどさ、そこまで泣くかと…昔は、真面目に生きている人は、そういうふうには生きてなかったと思ってるからね。
ここも厳しいけれど、ハッとさせられる。
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人が絲山秋子の批評をするときに間違っているのは、彼女がどういう言葉を使っているかではなく、
絲山秋子の作品はどういう言葉が使われていないか、当然出てきてよいものが使われていない。意識してやっているのだろうね、それは大切なことだ、と思いますよ。
石っころを前に考え続けた男の批評は鋭く面白い。
以前読んだ「信長」についても一章さいてある。
再読してみたくなった。

作品社
Commented by fusk at 2014-02-26 18:27 x
秋山駿は読んでないのですが、隆慶一朗は「花と火の帝」がおしまい迄書かれなかったのが残念でした。
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-26 22:22
fusk さん、隆は東大仏文、辰野隆が退職するときに小林秀雄が主賓として挨拶をした、それにホレて小林が重役をしていた創元社に雇ってくれといったそうです。
Commented by poirier_aaa at 2014-02-26 23:52
>知り合いで子どもが死んで、その悲しみは分かるけどさ、そこまで泣くかと…昔は、真面目に生きている人は、そういうふうには生きてなかったと思ってるからね

ここを読んで(この人の言いたいこととは違うかもしれませんが)「裸の島」のことを思い出しました。死んだ子どものことを思って泣いて、それからまた立ち上がっていつもの農作業に戻るのです。
Commented by keiko_52 at 2014-02-27 01:52
勿論自分の子供は大事ですが、
よその子だって大事ですよね。
今の日本、学校の先生がパート多いってひどい話ですね
教育を粗末にして未来はどうなるのでしょう。
正社員になれない若者もかわいそうです。
Commented by sweetmitsuki at 2014-02-27 02:57
虎の門の金毘羅様、行ったことがないので初めて拝見しました。
鳥居に四聖獣が彫刻されているのですね。
金毘羅様は、崇徳院をお祀りしている社
「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の」
たかが石、されど石ですね。
Commented by hisako-baaba at 2014-02-27 04:25
お若い時から大した読書家でいらっしゃったのですね。そして健啖家。
22日から読ませていただきました。お誕生日素敵なご馳走でしたのね。おめでとうございます。もしかして、一回り下の未年ですか?
奥様もまだ健康に不安がおありとか、不安が払拭されますように。
お二人ともお元気でいてください。
Commented by at 2014-02-27 06:52 x
秋山駿の著作は『無用の告発 存在のための考察』(河出書房新社)一冊だけ持っています。
内容はてんで忘れていますが(苦笑)

今、開いて目次を見ると「小林秀雄の戦後」「自己回復のドラマ ー 小林秀雄の一面 -」
「小林秀雄」と続き、ここでも小林について論じています。

Commented by tona at 2014-02-27 08:54 x
小林秀雄を読んで難しかったので、秋山駿に関してははなからそう思ってあきらめました。
子供に関してものすごい発言ですね。この方自身は子供を私の子として育てなかったのでしょうか。お子さんを実際に亡くしたということはなかったのでしょうか。批評家の発言には重みがありますから。
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-27 09:57
poirier_aaa さん、子どもを共同体で育てるという意識はちょっと前の日本にはかなり見られたような気がします。
「裸の島」、音羽信子でしたっけ。新藤監督、見てない映画です、残念。
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-27 10:01
keikoさん、教育の現状もひどいようですが、現政権の教育改革も怖いです。
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-27 10:03
sweetmitsuki さん、ビルの谷間にあるお社、境内に喫煙コーナーがあってサラリーマンたちがいそいそと吸いまくってました。
秋山は自分を石ころとみなして生きたようです。
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-27 10:05
hisako-baaba さん、そうです、未です。
不安は払しょくできませんが、考えてみれば誰しも同じかもしれない。
腹を決めて生きていきます、しんどいけれど^^。
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-27 10:10
福さん、秋山は昭和27年に小林秀雄に創元で出会って以来、小林、ランボー、中原中也、ドストエフスキーの4頭立ての馬車に乗って文学をやろうと決意するのです。
そして初めての文藝批評が「小林秀雄」。これで群像新人賞を取るのです。
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-27 10:15
tona さん、↑に引いた文章のあとに、「だから子どもは作らないし、要らない。そうすると物の見方が全部変わってくるじゃないか」と書き、それは産んでくれた親や養ってくれた家族・共同体に対して身勝手だと思う、でも「自分では関係ないと、石ころと同じだと思ってるねと書いています。
そういうことを話してつまらないところで他人を傷つけたから、今は率直にものを言わないようにしているとも。
Commented at 2014-02-28 03:05
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-28 08:47
鍵コメさん、須坂でしたっけ。
私の育った吉田から近い、小学校の先生も住んでいます。
春になったら出かけてみたいです。
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by saheizi-inokori | 2014-02-26 16:36 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(16)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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