あのスマイリーの末裔はイギリスと戦うのだ ジョン・ル・カレ「われらが背きし者」

『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』『スクールボーイ閣下』『スマイリーと仲間たち』、スマイリー三部作はとっつきにくいけれど一旦その世界に入り込むと登場人物の片言隻語、一挙手一投足を見逃せない、味のある重厚なミステリだった。
イギリス諜報部の経験もある作家が描く対ソスパイ戦争がリアルに描かれるのが魅力だった。
007などとは対照的に派手なアクションはなく冴えない男が数少ない信頼できる部下と敵の正体を突き止めようとするのだ。
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2010年に出版された本書、500頁を超える長編。
すでに敵はソ連ではない。
むしろロシアも含めてイギリス内部に巣くう政治家・財界人などの大物だ。

コロンビア、コンゴ、アフガニスタン、、文字にするのもおぞましいような虐殺が行われる、そこから汚れた金が何百億と出てくる、真っ黒い金、世界経済の何分の一かといえるオーダーのカネ。
バックにアメリカがいてイギリスも黙ってみている、懐を肥やす連中がいる、汚いカネであろうとロンドンに入ってきたらイギリスは潤う。
ロシアの新興財閥、マネーロンダラー、マフイアと手を組む悪党紳士たち。

30歳目前、スポーツ万能、オックスフォード大学のチューターの職を辞して中学教師になろうと考えているペリーと超美人で有能な弁護士のゲイルはカリブ海のアンティグア島で生涯一度の贅沢な休日を過ごす。
テニスの試合を申し込んできたのはロシアのナンバーワン・マネーロンダラー・ディマだ。
旧ソ連で母親を救うために殺人を犯したディマは苛酷な囚人生活の中で犯罪者たちのボスの仲間に入っていたが新しいトップに命を狙われている。
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(ソチにも紳士の顔をした悪党たちがうようよしていそうだ)

悪者ディマは魅力的な男なのだ。
その家族も。
ペリーとゲイルはディマのイギリスとの取引の仲介に引き込まれる。
ディマの情報をもとにすればイギリスの巨悪が暴かれる。
だがしかし、諜報部といえども官僚集団なのだ。
うかつに情報をあげると後ろから鉄砲。

イギリス諜報部にも硬骨漢はいた。
変人ともいえる硬骨・反骨の男とチームを組む男二人女一人、そこにペリーとゲイルが加わる。

スマイリー三部作のような緊密なストーリー、細部にわたる臨場感などは既にない。
ただあの三部作の名残を懐かしむことはできる。

諜報部が自国の官僚を含めた巨悪と対峙するのは自己撞着みたいなものかもしれない。
秘密保護法なんてのもあるだろうしな。

上岡伸雄・上杉隼人 訳
岩波書店
Commented by itohnori at 2014-02-04 13:14
最近は本を読み通す気力がなくなって来ました。
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-04 20:42
itohnori さん、私は生きる気力がなくなったときに本で助けてもらいます^^。
Commented by reikogogogo at 2014-02-04 22:43
スパイ、サスペンス小説大好きですが、ナイロビの蜂もジョン・ル・カレでしたよね、其れしか読んでいません。
笑えるのsaheiziさん、生きてる気力がなくなったときに本で助けてもらいますーーー(笑)。私は一寸体調が下降気味で,昼間から横に成りたい時は本を手にしていますよ。
だから同じ本を2度読みする事、しばしばです。だから原作者と翻訳者と間違えてる事もありです。
Commented by ikuohasegawa at 2014-02-05 05:47
感想も書きにくいような、日本の警察物を読んでいます。結構面白いですけどね。
Commented by at 2014-02-05 06:36 x
イギリス諜報部といえば007。

最近のダニエル・クレイグ主演のものはショーン・コネリーやロジャー・ムーアのシリーズを見てきた私には想像を超えた壮絶なものです。
Commented by j-garden-hirasato at 2014-02-05 06:46
スパイ小説の世界も、
変化があるんですね。
スパイというと、
どうしてもジェームス・ボンドです(笑)。
Commented by tona at 2014-02-05 09:16 x
「寒い国から帰ってきたスパイ」しか読んでません。
映画で見てみたいです。
まだこんな厚いスパイ小説を読まれるとは頭も体も元気ということですね。
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-05 10:03
reikogogogoさん、ナイロビは読んでないなあ。
スマイリーシリーズはいけますよ。
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-05 10:06
ikuohasegawaさん、日本の警察もの、私も何冊か読みました。
高村薫も書いてますね。私はもうちょっと肩の力が抜けるのが好きですが。
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-05 10:10
福さん、落合が最近の007もほめてましたね。見損じましたが。
ル・カレの「ティンカー、テイラー、ソルジャー」を映画化した「裏切りのサーカス」は面白かったです。
あの渋い空気がなんともいえない。
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-05 10:11
j-garden-hirasatoさん、初期の007はなんどかみました。
ショーン・コネリーが格好良かったです。
Commented by saheizi-inokori at 2014-02-05 10:13
tonaさん、読めども読めども忘れていきます。
「寒い国、、」も読みましたが今読み直したら初めてと思うかもしれないです。
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by saheizi-inokori | 2014-02-04 11:18 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori