作った映画より面白い映画つくりの面々 春日太一「あかんやつら 東映京都撮影所血風録」

落合流映画鑑賞を読んだら、今度は映画を作る側のとてつもなく愉快な本を貸していただいて一気読み。
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「日本映画の父」と呼ばれる牧野省三の次男・マキノ光男が戦後まもなく京都に東横映画撮影所(後の東映京都撮影所)の責任者として東映時代劇の旗を揚げる。
通俗的の何が悪い!松竹・東宝が山の手志向なら東映は浅草の客を目標にする。
片岡千恵蔵、市川右太衛門の両御大に中村錦之助、東千代之介、大川橋蔵、、華やかなスターの演じる完全無欠なヒーロー、泣く・笑う・手に汗握るの三要素で痛快・明朗・スピーディ。
グランプリの大映が重厚な映画つくりを目指すのと対極の東映は走りまくった。

五島慶太・大川博の徹底した合理化・経費節減路線の中で年間80本、週単位2本弱、今の連続テレビドラマの倍のペースで手間暇のかかる時代劇を作り続ける地獄の量産体制。
そこには映画つくりに人生を賭けた「あかんやつら」の上も下もないチームワークが欠かせなかった。
のちに社長になる”鬼”の岡田茂・東大卒のヤクザも一目置く大胆不敵かつ天才的な勘による映画つくりが連中を引っ張り続ける。
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やがてスター中心の東映時代劇も観客に飽きられ映画産業の衰退の中で東映はもがく。
『十三人の刺客』『大殺陣』などの集団時代劇と新しい凄惨な殺陣の導入、東映任侠映画がヒットしたのは俊藤プロデユ―サーの人脈で本物のヤクザから細部にわたって取材していたから。
俊藤の娘・藤純子の緋牡丹博徒、若山富三郎は撮影所内に「若山一家」を作り、物語と現実の区別がつかなくなる。
鶴田浩二との共演で鶴田に寝返る役の八名信夫が憎らしくなって現場で殴ったものだから八名は鶴田に泣きつき、鶴田も見境もなく神戸の山口組に応援を求める。
撮影所で山口組対若山一家の睨み合いが続く。
石井輝男監督の異常性愛路線、監督も異常だな。

深作欣二の「仁義なき戦い」の衝撃的な演出、菅原文太・川谷拓三はいかにしてスターになったか。
暴力団実録路線は現実の暴力団相互の抗争をもたらす事態になり終焉。

太秦映画村などの事業展開、大作路線のみじめな失敗と最後のヒット『柳生一族の陰謀』。
さすがの岡田茂も迷走を始める。
あがく東映、テレビ局からの受注と低予算ポルノ、五社英雄の『鬼龍院花子の生涯』は梶芽衣子が持ち込んできた、”女性も観る任侠映画”を目指して成功する。
梶が主役を外されて降板したあとを大谷しのぶが嫌がり、夏目雅子が白血病を隠して志願したのだ。
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(東京駅。「グラン・ルーフ」内のイタリアン)

そして合理化のアオリで現場における人材育成ができなくなり京都撮影所の独立性も奪われた今。
京都撮影所はワンパターンの時代劇企画を黙々とこなしていく「下請けプロダクション」になってしまった。
大学院在籍中から京都撮影所の取材を重ねてきた著者は、
東映京都の土に宿る魂の価値を一人でも多くの方に知っていただき、彼らの応援団を一人でも増やしたい。そして共に「寒い」時代をもう一度、熱く盛り返していきたい。
と願って本書を書く。

本書を映画化したら痛快だろうな。
Commented by chaiyachaiya at 2014-01-29 16:34
本当に、映画化したら、面白そうですね。
そして、グラスに揺れるワインが、本当に、美味しそう‼︎

Commented by ginsuisen at 2014-01-29 16:46 x
れれれ、この本、先日、息子がアマゾンで頼んで買いました。
週刊文春で、クドカンが書いていたとかで。。
Commented by itohnori at 2014-01-29 17:13
saheizi-inokoriさん 、今晩は。
 美味しそうなイタリア料理ですね。
一生に一度で良いから美味しい物を食べたいねと、家内と話していますが実現しません。
Commented by at 2014-01-29 17:50 x
最近、面白そうな本、続いて得るなぁ、涎やで!
Commented by poirier_aaa at 2014-01-29 18:53
藤純子も梶芽衣子も、かっこいいんですよねぇ。
同性ながらほれぼれします。
Commented by chaiyachaiya at 2014-01-29 19:11
今夜は禁酒しよかと思っていたのですが、佐平次隊長のグラスワイン写真を見て、もう我慢できなくなりまして、夫くんに赤ワインを買ってきて、と頼んでしまいました。
人非人を自覚した真冬の夜です。(-。-;
Commented by k_hankichi at 2014-01-29 21:08
映画化、楽しそうですね。歴史のなかの人間の振る舞いほど、面白いものはありません。
Commented by 熊伍朗 at 2014-01-29 21:08 x
夏目雅子はホントにいい女優でした。

「鬼龍院花子の生涯」は夏目雅子だからこそ名作になった映画に思えます。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-29 21:18
chaiyachaiya さん、私もドライデーにしようかと思っていたのですが、秋田の友人から地酒が届いたので湯豆腐でいっぱい。
まあ、生きている幸せですね。
映画化は何部作かになるかもしれないなあ。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-29 21:19
ginsuisen さん、面白いですよ。早く息子さんから取り上げて^^。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-29 21:21
itohnoriさん、炊き立てのご飯、香り立つ味噌汁、土地の漬物、納豆、そんな朝ごはんこそ一番のうまいものではないでしょうか。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-29 21:22
蛸さん、まだまだ続きまっせ^^。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-29 21:25
poirier_aaa さん、>同性ながら、、
それを狙った路線のようです。
わたしは見てないように思います。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-29 21:26
k_hankichi さん、ましてハチャメチャな映画つくりの山賊どもの話ですからね。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-29 21:27
熊伍朗さん、命がけだったようですね。
わたしはテレビの西遊記を子供が見るのに付き合いました。
Commented by sweetmitsuki at 2014-01-30 00:15
東映ヒーローといえば、仮面ライダーと戦隊シリーズしか知りません。
TVを見ないのでわかりませんけど、今、時代劇って作られてるんですか?
いつも愉快で痛快で面白い本を紹介して下さり、ありがとうございます。
Commented by kanafr at 2014-01-30 05:02
この本、面白そうですね!
鬼龍院花子の生涯の映画は梶芽衣子の企画だったんですか。自分の台sた企画で降ろされたら悔しかったでしょうねぇ。
でも大竹しのぶじゃ...、やっぱりあの役は夏目雅子さんですね。
昔新宿の駅でどなたかと待ち合わせされているお姿を見た事がありますが、本当に品のある素敵な方でした。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-30 09:32
sweetmitsuki さん、テレビをあまり見ないから東映時代劇が今どうなのかはわかりません。
いつも痛快とは限りませんが読むそばから忘れているのでブログにメモ代わりに書いています。
隠居にはブログが日々の張り合いです。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-30 09:47
kanafr さん、フジテレビからフリーになっていた五社監督が”女優を脱がす能力”を期待されて起用されて、脚本は高田宏治、彼は映画をヒロインの若い時代に焦点をあてたために梶では年が合わなくなったのだそうです。
五社は大竹を考えたけれど東映京都の厳しさを嫌がられていたところにテレビドラマ「西遊記」の夏目が直接志願してきて五社の前に正座して両手をついた迫力に五社が負けたようです。
監督自身が裸になって助監督相手に濡れ場の実演指導までする体当たりの演出だった由。
夏目は途中で手術をして一か月休むのですが、その時も「どうしてもこの仕事をやらせてくれ」と執念をみせたのに監督は押されて了承、痛々しい手術痕ながら体当たり演技、その3年後に亡くなったのです。
惜しい女優です。
Commented by kanekatu at 2014-01-30 11:17
夏目雅子は「美人薄命」の諺通り。そこいくと家のカミさんは「長命」。そのカミさんのせいでアタシも「長命」。メデタシメデタシ。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-30 17:33
kanekatu さん、バランスとれてますね。
Commented by tona at 2014-01-31 16:57 x
ワインが見えましたよ!
ワイン好きとしてはよだれが出そうです。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-31 21:07
tona さん、グラスワインでしたがけっこういけましたよ。
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by saheizi-inokori | 2014-01-29 12:44 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(23)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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