連帯と記憶が人類を救う マグダ・オランデール=ラフォン「四つの小さなパン切れ」

安倍が解釈の仕方を変えることで憲法を実質的に改定して集団的自衛権を行使できるようにすると明言した。
戦争はしない国と決めた憲法を解釈で戦争もできると変えるのだ。
憲法9条を守りたくないという考えを持つ人がいても不思議ではないが、それを権力者たちが法律を変えるという手続きなしでやってしまうのだ。
しかもその権力者・安倍は日中が戦争になる可能性についても(そうなってはいけないという文脈ではあるが)国際的に公言した。
このままでは国民はそれを押しとどめることができない。

あらゆる機会に声をあげ流れを変えることで安倍政権の暴挙を止めなければ取り返しのつかないことになる。
都知事選はその数少ないチャンスだと思う。
自民党・公明党の押す候補を負けさせなければならない。
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著者は16歳のときにアウシュヴィッツ=ビルケナウの強制収容所に収容された。
家畜用の貨車に押し込まれて三日間の移動、扉が開くと、そこはいちめんの霧と、凍てついた黄色い光。人間と犬たちの吠える声が襲う。
年齢を訊かれ、著者は、列に近づいてきた被収容者が「18歳だよ、18歳というんだよ」と囁いた通り「18歳」と答えて右、母と妹は左、左にはそのまま死が待っていた。
著者がカポ(看守)に母妹のことを訊くと「あそこにいる」と煙の上がる煙突を指した。
なんのことか分からなかった。
昨日まで、わたしたちはぬくぬくと暮らし、愛情によって保護され、財産によって守られてきた。自分が自分であることに過不足のない愛情をいだいていた。その足場が崩れ落ちた。うわべを剥がされたわたしたちは何者か?(略)まだ16歳になっていないのに、わたしは人間の顔が獣に変わるのを見た。ひとたび社会的な約束事が破られると、一切れのパンを求めて、わたしたちは自分を見失う。ためらいもなく同胞を踏みつぶす。
奇跡的に生還した著者は、記憶は寸断され、沈黙によって石化し、恐怖によって凍りつき、得体のしれない罪悪感(執着は絶望しか生み出さない。母や妹といっしょだったら、わたしは生きのびられただろうか?)に苛まれ、自分の母語(ハンガリー)すら忘れていた。
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そしてゆっくりと蘇える記憶をもとに自分を復元していく。
絶望のなかに見た優しいまなざし、命のきらめき。
ビルケナウで瀕死の女性が合図を送ってきた。手のひらには黴びた四つのパン切れ、かろうじて聞き取れる声で、わたしに言った。「ほら、これをあげる。あんたは若いんだから、ここで起こったことを証言するために生きておくれ」。
1978年、反ユダヤ主義のジャーナリスト・政治家で知られるダルキエ・ド・ぺルポアが、「アウシュヴィッツで毒ガスを浴びせられたのは一部のシラミだけだ」といった。
この破廉恥な発言にわたしは反発し、心のなかにこの女性の行為の記憶が浮かび上がってきた。その顔がまざまざとよみがえった。もう黙ってはいられなくなった。
言挙げすることは、わたしにとって試練ではあるけれど、こそこそ隠れてはいられない。(略)目の前で消え去っていった人々の記憶に忠実でありたいと願うだけだ。
前半はビルケナウの体験を詩のような文章で書いている。
後半は「闇から喜びへ」と題され何万人もの中高生に自らの記憶を伝える過程で育まれた内的平安を求める内省の記録。
わたしの人生の旅は、自分から出てくるものなど何もないということを理解させてくれた。
すべては贈り物なのだ。

わたしたちの行動がわたしたちを決める。
人間になるか、人間を辱めるか、暴力的になるか、平和的になるか、
人それぞれの選択にかかっている。
いのちは神聖でかけがえのないものだということを
人類を救うことができるのは連帯と記憶だということを
繰り返し言うことも人それぞれの選択にかかっている。
現代の日本人には無縁な物語なのだろうか。
そうではなかろう、たった70年前日本人はナチスと組んで世界を相手に戦ったのだし、たった3年前にフクイチの爆発を経験したのに、その記憶を消し去ろうとしているのだから。

高橋啓 訳
みすず書房
Commented by tocotoco-o3po at 2014-01-27 13:45
本当に怖いですね…。第二次世界大戦争のことを忘れてしまったのでしょうね。
Commented by antsuan at 2014-01-27 14:51
怨霊ならぬ、七十代の爺さんが忘れてはならんと立ち上がりました。
忘れてはいけないですね。
Commented by reikogogogo at 2014-01-27 17:02
saheiziさん、ナチス・ドイツの強制収容所の事を描いた「夜と霧」そしてマグダ・オランデール=ラフォンの「時のみちすじ」それからかなり経って「闇から光」を読みました。1940年41年頃から始まった非人道的な現実。
ポーランドの旅ではアウシュビッ収容所、其の奥のビルケナウ収
容所に現実を見ました、馬小屋の様な収容所、人の髪の毛の部屋靴、鞄、眼鏡。生きて毒ガスをあびた部屋、目で見た現実の遺品、若き旅人が部屋から飛び出しうずくまるのを見ました。間違った独裁的権力で戦争に向かう様な事があってはならない、全世界に悲劇を繰り返さない様、訴えている場所です。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-27 17:24
tocotocoさん、普通の市民たちがユダヤ人を監視し告発し略奪したのです。狂気に染まるのは簡単なのかもしれない。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-27 17:30
antsuan、何をもって世界一というのか分かりませんが、あの頃もアジア一だの世界に冠たるだのと身の程知らずに無茶苦茶したのですね。原発が永遠のエネルギーだと浮かれたのはそのあとのことでした。懲りないんですね。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-27 17:39
reikogogogoさん、本書は「時のみちすじ」と「闇から、、」を一冊にしたものです。夜と霧もそうでしたが読む者にある種の覚悟を迫りますね。越えてはいけない一線は自分で守らなくてはならないと。
Commented by まりこ at 2014-01-27 18:30 x
初めてコメントいたします。
考えさせられました。ぜひこの本を読んでみたいと思います。
ご紹介ありがとうございました。
Commented by at 2014-01-27 20:34 x
ええ本、次から次に見つけて来るねぇ、
Commented by kanekatu at 2014-01-27 20:35
先日ネットでナチスの旗を体に巻いてヘイトスピーチしている若者の姿が掲載され、反響をよんでいます。ついに日本もそこまで来たのかと。
国の指導者が誤ったナショナリズムを煽ればどういう結果になるかという証左です。
Commented by tona at 2014-01-27 20:42 x
3回読んだ「夜と霧」とアウシュビッツのビルケナウが思い出されました。この本は角度が違って恐ろしい事実を突き付けられそうです。そのうち読んでみます。ご紹介ありがとうございます。
Commented by sweetmitsuki at 2014-01-27 21:48
殿様のブレーンに吉原毅氏が入ってるそうで、殿の脱原発の頼みの綱はコジェネであることは間違いなく、コジェネで今まで原発が賄ってきた電力を担うのは、大変ですよ。
身の程知らずに無茶苦茶しなければならないくらい大変です。
脱原発の人たちにはその覚悟があるのでしょうか。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-27 23:11
まりこさん、いらっしゃいませ。
ずしっとコタエル本です。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-27 23:12
蛸さん、どこかの書評で知った本です。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-27 23:15
kanekatu さん、先に展望を持てない人たちは感情をぶつける的が欲しいでしょうから、乾いた藁に火をつけるように燃え上がる危険がありますね。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-27 23:16
tona さん、こちらの方が生きる力を与えられるかもしれないです。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-27 23:21
sweetmitsukiさん、私も脱原発がそんなに簡単だとは思いません。
生き方を変える必要があるとすら思っています。ほかの脱原発の人たちがどんな気持ちで言ってるかはわかりません。
ただ、世界に冠たる日本などといって戦争を行ったのとは違って原発はやめるしか道がないと思うのですが、間違いでしょうか。
コジェネのことなどもよくは知らないのです。
Commented by poirier_aaa at 2014-01-27 23:30
わたしも探して読んでみましょう。
しかし日本は翻訳本の天国みたいな国ですね。本当にいろいろな本が日本語に訳されて手に入る。すごいことだと思います。
Commented by keiko_52 at 2014-01-27 23:42
阿部ちゃん何考えているのでしょうかね?
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-27 23:53
poirier_aaa さん、これはフランス語で書かれたんじゃないかな。
彼女はハンガリーの記憶を封印して言葉もすてフランス語を学んだそうです。
昨年フランスのテレビに出たと訳者が書いてます。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-27 23:54
keikoさん、イケイケどんどん、でしょうか。
怖いもの知らずですね。
Commented by fusk at 2014-01-28 09:25 x
ナチが政権を取り始めた時、確か30%位の筈でしたね。と言う事は3人に2人は支持してない。
それなのに掌握して戦争になるまであっという間でした。
どこでどうなったのか。勿論第一次世界大戦のつけとか世界恐慌とか色々な条件もがあったのでしょうけれど。人間があんな風に怒濤の様になりえてしまうのかと思うと、油断は今も出来ないと思います。
ただ私は自分の国は自国で防衛しなくてはならないとは思ってはいますが。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-28 10:05
fuskさん、積極的平和主義というやつがきな臭いですね。
戦争のきっかけはたいてい平和を求めてというのです。
Commented by jarippe at 2014-01-28 10:40
今度の都知事選 深い意味がありますね
なんだか押し負かされそうで・・・・・・・
なんとかしなくては
なんとかして支持率をどんどん落としてゆかなければ
焦りさえ感じてしまいます
Commented by fukuyoka at 2014-01-28 11:49 x
皆様のコメントを読んでると日本の行き先が暗く恐ろしくなります。ヨータ、エートそしてその後の子供達も平和に幸せに暮らせるようにと強く願いますね。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-28 12:14
jarippe さん、ほんとにね。
できることをしましょう。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-28 12:14
fukuyoka さん、同感です!
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by saheizi-inokori | 2014-01-27 12:18 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(26)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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