三倍返しの面白さ マイケル・コナリー「夜より暗き闇」(上下)

テレビで飛行機からの眺望を見るとふっと思い出す。
ずいぶん前のことだがヨーロッパに行ったときの機内から見下ろした風景。
山沿いの小さな村落、夕暮れに家々の灯りがともっているのが見える。
煙突から煙も一筋。
曲がりくねった道を一台の車が左から右に意思あるものの如くに走っていった。

ものの2.3分も見ただろうか、あっという間に消えてなくなったその世界。
あの風景のなかにどんなドラマが隠されていたのだろうか。
何十年も経ったのに妙に生々しく思い出すのはなぜだろうか。
あの村に行ってみたい!
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2001年発表、マイクル・コナリー、ミレニアム特別サービス作品。

ハリー・ボッシュ、テリー・マッケイレブというそれぞれ別のシリーズのヒーローがどちらが主人公ともつかない共演。
ジャック・マカヴォイも顔を出すというサービス。
昔、正月などに上映された「任侠東海道清水一家総揃い」、もしくは正月初席の噺家オールスターか。
「任侠、、」や正月初席は顔見世に重点がおかれて内容には乏しくがっかりしたものだが、本書は内容が素晴らしい。

ハリー・ボッシュは全米注目の殺人事件の検察側の証人。
移植された心臓の持ち主・元FBIプロファイラーのテリー・マッケイレブは毎日54錠の薬を命の綱としながら別の猟奇的殺人事件の犯人を追う。
法廷ものと犯人追及と、二つの上質な小説を併せて読む贅沢。
そして極めつけは、なんと、ハリーがマッケイレブの的に浮上するのだ。
これで一挙に「三倍返し」の面白さ。
三倍返しの面白さ マイケル・コナリー「夜より暗き闇」(上下)_e0016828_10513612.jpg
読み終わったあと読者の気持ちは、いくばくかの不安と焦燥と微かな希望の間で揺れ動くだろう。
―早く次作を読みたい。
読み終わったとたんにそう思えるのは、読者として幸せなことなのか、それとも辛いことなのか。悩むところだ。
五條瑛があとがきにそう書いている。
俺は幸せなことだと思う。

訳 古沢嘉道
講談社文庫
Commented by itohnori at 2014-01-18 11:18
こんにちは。
 老眼で細かい字が読めなくなりました。
PCばかりで読書は全然出来なくなりました。
Commented at 2014-01-18 13:24
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 小言幸兵衛 at 2014-01-18 17:00 x
順番に読んでいるからこそ、贅沢なキャスティングを楽しみめる作品ですよね!
ボッシュとマッケイレブで、アート・ペッパーのことを語り合う場面が印象的でした。
さぁ、次は早川に出版が代わった「シティ・オブ・ボーンズ」ですか。
作品として、こちらの方が読み応えはあるかもしれません。
それにしても、他の本も読みながら凄い読書量ですね!
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-18 20:09
itohnori さん、それはさびしいですね。
最近は大きな活字の本も出ていますし電子書籍は大きな字で読めるのかもしれません。
私などは活字がない世界は生きていられないくらいです^^。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-18 20:10
鍵コメさん、私の方が勝手に登録してました、すんません^^。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-18 20:11
小言幸兵衛 さん、すぐにも読みたいのですが今日も図書館で5冊借りてきたのでこれを読んでから^^。
Commented by poirier_aaa at 2014-01-18 20:46
すぐに続きを読みたい!と思えるのは幸せです。
でも、作者がなかなか続きを書いてくれないときは困ります。気持ちの持って行き場がありません!
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-18 21:30
poirieさん、そう、幸せなんですが図書館に予約しておいた本が急に届きはじめて1ヶ月の貸し出し期間に読み終えなきやならないので次巻の申し込みを控えてます。
幸せ過ぎるのです。
Commented by fusk at 2014-01-18 22:46 x
パリ近郊はかなり開け?て住宅やショッピングセンターが増えましたが。
片田舎ではおそらく何十年も前の村落そのままの光景が残っています。
都市から150kmぐらいのところに退職した隠居?住まいも多くなっている様なので、村もそうも過疎化ではないみたいですね。
Commented by たま at 2014-01-18 22:52 x
琵琶(ビワ)の白き花でしょうか。
その昔、大工の棟梁をしていた祖父から「ビワは敷地に植えるものでない。」とひどく怒られたような・・・
Commented by chaiyachaiya at 2014-01-18 23:51
・・・学寮にて、休日の午前中、友人が部屋を訪れ、「どっか行こう」と誘ってくれてるのに、ぐったりベッドでプチ鬱状態の長男。
「鬱になるのわかってて、読んだ、また」
「ば〜か、またかよ」
マイケル・コナリーかどうかわかりませんが、長男は、自分がどんがり落ち込む性質と知っていながら、つい、暗〜いミステリーを読んでしまうのだと、帰省したおりに、笑って語るのでした。
魂の何処かが、そういった状況を、求めているのでしょうか…。

年末年始のドタバタを終えたら、ログインの仕方を失念し、ブログ会社さんが、方式を変えたんだと、昨日まで思っていた、呆けナスビな ふみちゃこ でありやす。(・・;)
Commented by tocotoco-o3po at 2014-01-19 08:30

saheiziさん~おはようございません(汗
おつカレーライス~。
本を読むのが遅い私ですが~もっと暗いテーマの本をもってますよ~。
夜と霧というアウシュビッツのお話です。
是非よんで見てください~。
15年以上精神科に通い続けている私が思うので鬱になること間違いなしです!
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-19 10:19
fusk さん、海外の田舎の暮らしを伝えるテレビ番組はときどき見ます。そうすると必ず飛行機から見たあの村のことが思われるのです。
こういう番組の登場人物が吹き替えで日本語をしゃべるくらい残念なことはないです。
意味は分からなくともその土地の言葉をその人のしゃべり方で聴くことだけでも(映像がなくとも)楽しいものです。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-19 10:20
たまさん、枇杷ですよ。
なぜ敷地に植えてはいけないのでしょうか。
敷地などない私ですが。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-19 10:23
chaiyachaiya さん、暗い気持ちのときに妙に明るいものってかえって白けませんか。
かといってあまりにも暗いのはどうか、兼ね合いかな。
ログインパスがわからなくなることは私もしょっちゅうです。メモしてあるのになあ、不思議です(単に私がぼけてるだけなんですが)。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-19 10:27
tocotoco-o3po さん、「夜と霧」、読みましたよ。
このブログにも感想を書いています。http://pinhukuro.exblog.jp/8176611/
暗いけれどよく読むと希望の書でもあると思います。
生きていくことの素晴らしさが書かれていると思うのです。
Commented by ikuohasegawa at 2014-01-19 12:26
未読のマイクル・コナリーの著作が残っているのが羨ましいです。あせって先へ進んで読んでしまったのが少々残念です。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-19 13:22
ikuohasegawa さん、うまいものは一番最後に、というタイプではないんですがね。
Commented by c-khan7 at 2014-01-19 13:52
そんな作品に出合えることが幸運ですね。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-19 16:55
c-khan7 さん、好きな作家に出会えるとしばらく楽しめます。
宝の山^^。
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by saheizi-inokori | 2014-01-18 11:08 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(20)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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