「星の王子様」は古本屋の先生だ 内堀弘「古本の時間」

著者・内堀が青山学院大学を中退して詩歌専門の古本屋をはじめた頃、「書肆コルシカ」のコルシカさんが店に来た。
ぐるっと棚を見渡して「本当に何もないねえ」、そう言って笑った。今はもう見かけなくなった木造モルタルのアパートの、その一階の五坪ほどの小さな店だった。「でも、最初からそこそこある店は、たいていそれよりは面白くならないよ」。
そんなことを言うコルシカさん、屋号の由来を聞くと
「星の王子様」には古本屋にとって大切なことが全部書いてある。
サン=テグジュペリはコルシカ島のあたりで死んだのだ。
古本屋は売るのが仕事ではなくて、買うのが仕事なんだと教えてくれたのもコルシカさんだった。店をやっていると、そこで売れる本がいい本に見えてくる。だから駄目なんだ。自分が欲しい本、買いたい本をどれだけ心の中に持っているかが全てだ。だから、できれば店なんかない方がいい、本は目で探すんじゃない。
私は、こういう言い回しにとても弱かった。
内堀が『図書新聞』に毎月書いたコラムの2001年から2013年分を集めたエッセイ集。
ここにはコルシカさんみたいな人がたくさん登場する。
古本屋仲間、顧客、本を作る人、、ちょっと(大いに)世の凡人とは違った世界観・時間軸で生きている人たち、それは、

”らち外”に生きることをすがすがしく感じるような人たち、作家などの集合写真で「一人おいて誰々」と飛ばされるような人たち、無駄をいとおしむその豊かさがそのまま人柄になっているような人たち、、

を見る内堀の目は優しく(自分自身を見ているのでもある)、読む者の気持ちをほっとさせもし切なくもする。
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戦後の古書業界は炭鉱に似ている。娯楽であれ教養であれ、かつて本がその主要なエネルギー源で、それは月遅れの読み物雑誌から、大学や図書館の新設のために求められる専門書の類まで、およそ本の形をしたものは、世の中から渇望されていた。そんな時代に、古本屋は世の中のあちこちを掘って、掘って、また掘っていた。
俺も”渇望”したなあ、月遅れの雑誌から世界文学全集、、本の形をしたものがあると嬉しかった。
そして今でも俺の主要なエネルギー源だ、エコだねえ。

古本屋の仕事は、一冊の本がどれだけ多様な本に繋がっていくのか、周辺がどんどん広がっていく面白さなのだ。(だからいつも場所が足りない)。
財産は増えてもそれは売れない財産、明日のことを気にしたらやってられない。

本は書いた人だけのものではない。
フォントとかマージン(余白)とか紙をどうするかとか製本や装丁、つまり紙の器それ自体が物語なのだ。
姿あるものは、姿なきものの影
ときにはその本に書きつけられた署名、献辞、感想、落書きですら物語の要素、むしろ作品以上の”価値”を創りだす(長い年月を経て)。
電子辞書にはない物語、ちょっと落語の「茶金」を想う。
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ふっと、俺は古本屋になっていたら好かった、小さいころからずっと心のどこかでそう思っていたじゃないか、と思った。
と同時に、とても俺にはやれなかったなとも思った。
コルシカさんは借金を踏み倒して行方をくらましたのだ。

晶文社
Commented by reikogogogo at 2014-01-14 13:21
いいね!saheiziさんの本の話題は私に知識を与えてくれるもの、私の様なボケ防止の様な勝手なブログの向合いをしていると魅力も何も無い。パソコンに向かう元気もなかった時にはメールとどうしてもsaheizi さんの梟通信〜ホンの戯言の確認に到る。
saheizi さんに吠えてる!と時々コメントするけど、政治家への本音や社会の様々な出来ごとに噛み付けるのが魅力です。追伸で一寸訂正してあった文章も見逃してなかったんです、saheiziさんの
いいとこが見えた気がします。
いよいよ都知事選の候補者が見えて来ましたね。脱原発です!!
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-14 14:30
reikogogogo さん、カホウ、果報は寝て待てのカホウじゃなくて、過褒、褒めすぎ、木に登ります。
小泉と連携、私は小泉は好きではないけれどそんなこと言ってるバヤイじゃない、原発をぶっ飛ばせ連盟発足です。
Commented by at 2014-01-14 18:29 x
面白い世界、面白い人。まだまだ知らんこといっぱいや!
Commented by maru33340 at 2014-01-14 18:45
ご紹介のお話のオチに切々たる味わいがありますね。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-14 21:04
蛸さん、そういうことをとことん追っかけるのが古本屋みたいやで。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-14 21:05
maru33340 さん、何か一つに集中できなかった男の愚痴です。
Commented by poirier_AAA at 2014-01-14 21:17
古本屋さんは敷居が高いです。お前程度の本読みが来る場所ではないよ、と言われそうで。でもそれが憧れにつながっているかもしれない。ブック○フだと足は踏み入れやすいけれど、魑魅魍魎の跋扈する不思議な世界ではなくなるので面白くないのです。

都知事選の行方、目が離せません。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-14 21:33
poirier_AAA さん、「高い、もっと安く」みたいなカードを持ってパリの古本屋で仕入れてきた女性のことも載ってました。
ブックオフはここでいう古本屋とは似て非なるものです。
都民にぜひメールなり電話なりしてくださいませ。
Commented by tona at 2014-01-14 21:49 x
膨大な知識の持ち主の本と聞きました。
コルシカさんはどこへ消えて何をしているのでしょう。
いつも計り知れない内容の本のご紹介をありがとうございます。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-14 22:09
tonaさん、たしかに凄い人です。真似できない、残念ながら。
Commented by fusk at 2014-01-14 22:19 x
子供の頃は本とおかき(あられのこと)を売る店をやりたかった。
おかきを食べながら本が読めるからと単純に憧れて。。。。笑。
その頃確かに本に飢えていました。学校の図書館には読みたくなる様な本は少なかったし。
そう言えば古本屋だけでなくて貸本屋がありましたね。
Commented by sweetmitsuki at 2014-01-15 05:06
たまに古本屋で買った本には、赤ペンで線が引いてあって「試験に出る。」などと書いてあることがあります。
別にこちらは受ける予定の試験はないのですが、そう書いてあるとつい読み返してしまい、興味が湧いてきてブログのネタにしてしまうこともありますね。
Commented by keiko_52 at 2014-01-15 09:26
現代は活字以外の楽しみがいろいろあるので
苦戦中ですね。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-15 09:45
fusk さん、祖父が引き上げてきて甲子園口で本屋をやっていましたよ。公職追放で怠惰な本屋。
中学校のとき、貸本屋に行ったら先生が店番してました。
眼鏡をおでこにあげて私を認めた時の顔を思い出します。
借りた本は尾崎一雄「暢気眼鏡」だったような気がします。後から作り上げた記憶かもしれないけれど。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-15 09:47
sweetmitsuki さん、そういう書き込みとか汚れなどを蒐集?して写真に撮った本がありますよ。
買いはしなかったけれど。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-15 09:49
keikoさん、新刊本の苦境に比べればまだ善戦しているかもしれないです。
チラシとかポスターみたいなものが売れ筋だそうです。
昔は全集がオオイバリでしたが今は嘘みたいに安くなっています。
Commented by wildrose53 at 2014-01-15 10:41
「大切なことは目に見えない」―キツネと王子様の会話は、おとなになってから胸に落ちました。ああ、また読みたいな。屋根裏(ほんとの)に上げてしまったのです。
東京はまだまだいい古本屋さんがありますよね。

細川さんはちょっとどうなの、と当初思っていましたし、小泉はイヤでしたが、脱原発を公約に掲げる都政、いいではありませんか。宇都宮さんもいい。東京の知り合いたちもそう言っています。
Commented by saheizi-inokori at 2014-01-15 10:47
ハルさんのブログを拝見していると目に見えない大切なものが見えてくることがあります。
福島の人にとって都知事選は他人事じゃないでしょうね。
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by saheizi-inokori | 2014-01-14 11:18 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(18)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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