人類の明日は炭素にある 佐藤健太郎「炭素文明論 『元素の王者』が歴史を動かす」

たくさんコメントを頂いて喜んでいたらパソコンが壊れてしまった。
直るまで三週間、カミサンのPCを借りてブログ生活。
馴れないせいもあってなかなか大変。
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ついでだからと山田電機の人にカメラの間違って消したデータ復旧について尋ねてみたら「10回に一度くらいは成功しますが、失敗しても料金を頂くことになるからお勧めしかねる」とのこと。

PCがダメになってるのでメールが見られないのが不便、でもほとんどはイベント情報だからまあいいか。
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亀の子を覚えたり元素の周期表を「水平リーベ、なんたらかんたら」で暗記した化学。
面倒だけど覚えさえすれば頭の悪い俺でも点数を稼げたから当時の英国数理社5教科9科目の国立大学受験、理科は生物と化学を取ったのだ。

だから試験が終わればすべて忘却の彼方、炭素が元素の王者・ヒーローだという本書は初耳の話が多くて楽しかった。

地表、海洋の元素分布を調べると重量比でわずか0.08パーセントしかないという炭素があらゆる生命体を作りだし、したがって食品、医薬はもとよりメデイアやエネルギー源、木材、プラステイックにも化けるのだ。
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プラスにもマイナスにも偏らない、しごくちっぽけな平凡な存在ゆえに、何百万個つながり合うことも平気、短く緊密な結合をつくることもできる。

デンプンの加熱調理を知った人間は体内で行うべき消化機能を火に外部委託して、代わりにカロリーと時間、高い知能を手に入れた。
なかでも米、日本は「米が作った国」、租庸調、口分田、荘園、、日本の政治は「米を管理する」ところから始まった(TPPは日本であることをやめようとしているのかもしれない)。

一方14世紀半ばから19世紀半ばへの小氷期のヨーロッパを支えたのはジャガイモだ。
アイルランドで1845年に起きたジャガイモの疫病のために百万以上の海外移民があり、そのうちアメリカに渡った者たちの子孫がケネデイ、レーガン、クリントン、オバマたちだ。
新しい大使もジャガイモ異変の因果を背負っているのだ。
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原始人類とデンプンの出会いから、サトウキビ(砂糖)をめぐる戦いと黒人奴隷の悲劇、糖尿病・肥満の罠に落ちた藤原道長や安禄山、バッハ、セザンヌ、エジソンも。
そして”甘味”の化学的追求が続けられるがその正体はいまだ謎だ。

大航海時代は香辛料を求めることから始まった。

日本人がこよなく愛するグルタミン酸は「旨味」の存在につながる。
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心に作用する炭素化合物、ニコチンとカフェインは人間を支配している。

アレクサンダー大王、フビライ・ハーン、クロムウエル、ダンテ、ゲーテ、スタンダール、ベーコン、ニュートン、ダーウイン、ルター、フランクリン、チャーチル、カール大帝、ルイ14世、ヘンリー8世、フリードリヒ大王、、偉人英傑を苦しめた尿酸(痛風)は天才物質ではないかと言われたことがあるがウーマンリブ運動の高まりにより否定されている。
男性の方が尿酸値が高いってのが気に食わないのらしい。
俺も尿酸値を下げる薬を飲んでいる、逆は真ならずだが。

そして俺も含めて人類最大の友となったのがエタノール、酒だ。
アメリカを創ったのも酒、サトウキビ(ラム)、トウモロコシ(バーボンウイスキー)、ニューイングランド植民地からの輸出の8割はラム酒だった。
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ニトロは戦争の帰趨を制し、その原料である硝石の争奪戦がすさまじい。

ノーベルは「平和賞」をもうけたように平和主義者だったが
爆発事故で弟を失い、世の激烈な非難を浴び、現実に戦場で兵士の命を奪っている姿を目にしながら、なお研究に打ち込む姿には、爆発に取り憑かれた男の「業」のようなものを感じずにはいられない
花火や爆発が人々を魅了するのと通じるのか。
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筆者は一章を割いて窒素化合物、アンモニアのことを書いている。

1898年、イギリスのサー・ウイリアム・クルックスが「このままいけば窒素肥料が30年で尽き人類は養うだけの食糧生産はできなくなる。それを回避するためには空気から人工で窒素を固定するしかない」と演説,世界は騒然となった。

これに答えたのがドイツのフリッツ・ハーバー、高熱高圧のもと触媒を使って窒素固定をする方法を考案、カール・ボッシュのアンモニア合成プラントに結実する(1913年)。
それぞれ別の年にノーベル賞を受賞したこの研究がなければ世界で二十億人が飢えて死ぬ計算だ。
ハーバーが「空気からパンを作った男」といわれる所以。

しかし現在ハーバー=ボッシュ法のエネルギー消費が高すぎるなどの弊害が指摘され、常温常圧で窒素固定を行う方法が模索されている。
筆者はIPS細胞の研究よりも優先して推進すべき課題ではないかという。
いくら医療が進んでもエネルギーと食糧がなければ人は生きられないのだから。
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そして最後に登場して人類に史上最強のエネルギーを提供したのが石油。

わずか60年前のロンドンの大気が現在の北京に匹敵する汚染レバルだったのは石炭のせいだった。
救世主・石油も実は由来不明の物質、ひょっとすると無機起源、地球のできた時に閉じ込められた炭化水素が変成したもの、従来の生物起源説よりも大量に埋蔵されているのかもしれない。

さらに現在はナノカーボン、カーボンナノチューブのような
自然界に全く存在しない性質を持った物質を、新たに設計して生み出す
という段階に近付いている。

原子力に多くは頼れない、かといって太陽光はエントロピー的に主力たりえないとすれば人工光合成などが研究されている。
人類は炭素によって生かされ、歴史は炭素化合物につれて動いてきた。今後の我々の未来を支え、道を切り開くのは、炭素をマネジメントする技術に他ならない。人類の明日のため、炭素という小さく平凡で、それでいて不思議な力を秘めた元素に、光が当たることを願ってやまない。
筆者の結語だ。

炭素史観、面白いのでついついだらだら引いてしまった。

新潮選書
Commented by itohnori at 2013-11-25 15:34
saheizi-inokoriさん 、こんにちは。
 PCが壊れてしまったとのことですが、不便でしょうね。
私は重要なデータだけUSBメモリーに保存しています。
Commented by at 2013-11-25 16:50 x
あらら、メッセージ出したとこよ、ってことで、
ここでお願い致します。
佐平次さん、アマゾンで買った本を受け取っといてくれますか?
Commented by marsha at 2013-11-25 18:12 x
PCが不調や 壊れたりしたら 血圧が上がります。
早く 直ると良いですね。 お大事に。
Commented by reikogogogo at 2013-11-25 18:58
saheiziさん、さすが!!学びのあるブログ、満足感でいっぱいになります。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-25 21:25
itohnorさん、こっちのPCも怪しげでひやひやしながらやってます。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-25 21:25
蛸さん、いいですよ。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-25 21:27
marsha さん、ほんとに血圧あがりそう、ふだんは三週間なんてあっという間なんですがね。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-25 21:32
reikogogogo さん、学の無いものが学んだことのおさらいです。
Commented by noreizoko at 2013-11-26 01:48
勉強になりました。炭素マネジメント、なるほど。私も化学と生物で受験しましたが、身になっとらん・・・、もったいなかったと最近思う事ありますです。
Commented by hisako-baaba at 2013-11-26 06:36
あ、今朝はコメント欄開けました。iPadご機嫌が良いらしい。

パソコンが壊れると、ストレスになりますね。以前、夫婦で1台だった頃、壊れた時は、苛々しました。

お家でのお誕生会に、料理の腕を振るわれるご隠居シェフのお幸せそうなこと!!素敵ですね。
ご一家揃ってお幸せ。理想の家族。

まあ、オバマの祖先にもアイリッシュが。
ケネディ家が移住したのも、じゃがいも飢饉の時だったのですか。

アメリカは人種の入り混じった国なのに、差別感をぬぐえないのですね。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-26 09:12
noreizoko さん、いったい大学生活って何だったのかと思う日々です。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-26 09:15
hisako-baaba さん、今朝も写真が取り込めなくて(カミサンのPC)、いらいら。
昔のことを思えばなんですが、一度便利さを知ってしまうとね。
アメリカの警察官にはアイリッシュが多いようです、今もかは知りませんが。
Commented by namiheiii at 2013-11-26 10:50
著者はあらためて有機化学の重要性を指摘しているように思います。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-26 11:28
namiheiii さん、そうですね、いまは有機と無機の境はあいまいらしいですが。
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by saheizi-inokori | 2013-11-25 12:18 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(14)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori