肉屋のオバサンは肥った笑顔が似合う、短編小説の読み方を教えられた 松家仁之編「美しい子ども」

散歩の途中で薬局で処方箋を出して、帰りに寄るから、しばらく歩いてホイしまった!ジェネリックって言わなかった。
義母の薬を頼むと1日分づつ日付を書いて分包してくれるような店、顔なじみだけれど俺の薬は病院の近くで出してもらっているから、言わないと処方通りの薬になってしまう。
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ちっとも嫌な顔をしないで包みなおしてくれるというので、その間サンチとすぐ近くの肉屋へ。
半年ほど前に出来た店でこの間試してみたらウマかったのだ。

ドアのところから大きな声で呼ばわると肥えたオバサンが出てきて予約注文を聴いてくれる。
抱っこしたサンチに笑顔を振りまきながら。
肉屋には肥ったオバサンの笑顔が似合う。

土曜日にはあちゃんの誕生日祝いをやるので、俺がステーキを焼いてやろう。
大きいのを焼いて頃合いに切って出すんじゃなくてめいめいに焼いてやろう。
薄っぺらなのじゃなくて3センチ、いやそれは厚すぎるか、2センチ。
自分で切れるかな、来年は小学校だものな。
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朝書いたブログの記事のことが頭から去らず、地方にいた頃子供たち(妻にも)と遊んでやったり相談相手になってやらなかったことを思いかえす。

名古屋の4年間の後半は単身生活で、休日に帰宅するときに駅前のデパートによってお菓子などのお土産を買うこともあった。
バーゲンセールで子供用のアノラックとかなんだとか5割引きなどと書いてあるとついつい買ってしまう。
なんどかそういうことがあって子供に言われた。
「キモチは嬉しいけれど、着るものは自分の好みがあるから自分で選ぶよ」。

着たきり雀、ツギを当てた服を着て育った俺は服にはサイズだけ、デザインがあるなんて別世界のことだと思っていた。
そういえば亡妻にも高級な服を半額で買って帰ってサイズも合わない上に半額でもあまりの高さに怒って暫く口もきいてくれなかったこともあった。
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原村のペンションのサンルームで読んでいた本。
「火山のふもとで」で唸らされた作家が新潮クレスト・ブックスのなかから選んだ12編。
「その名にちなんで」「停電の夜に」のジュンパ・ラヒリ、この間ノーベル文学賞をとったアリス・モンロー、「朗読者」「週末」などのベルンハルト・シュリンクなどの名前もある。
表題になった「美しい子ども」はディミトリ・フェルフルスト、凄まじい貧困と怠惰の大人に囲まれた子どもの話だ。

人生善き哉!
人間の数だけの人生があって、そのどんな瞬間もひとつとして同じものはない。
同じように見える瞬間も近寄って、遠ざかって、上から、下から、後から、、見方次第でいかようにも見える。
書き方次第でいかようにも書ける。
でもそこに一縷であっても真実がなければ、それは言葉のカスだ。

なんと豊饒なことか。
クラシックあり、ジャズがあり、静かな語りがあるかと思えば賑やかなおしゃべりもある。
そのどこにも俺の分身を発見したような気がする。

シュリンクの「リューゲン島のヨハン・セバスチャン・バッハ」は「夏の嘘」で読んだばかりなのに、初めて読むような感動があった。
その映画が終わったとき、彼は泣きそうになった
という書き出し、ラストシーンで父と娘が”言葉を必要としない、信頼に満ちた雰囲気の中で”一緒に働きはじめるのを見たときの主人公の感動、冒頭の10行の重みが今頃分かった始末、いったい何を読んでいたのかと情けない。

もっとも、よくできた短編小説とはそういうものかもしれない。
ウマい酒をゆっくり味わって飲むように読まなければ、、。
喉元を過ぎたのちにもう一度反芻してみること。
ゆめ先を急いでがぶ飲みをしてはならない(一昨日のように)。

未熟な読み手であることを知らしめてくれた本だ。
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表紙カバーの袖に取り上げられた11人の作家の小さな写真を眺めると老若男女、じつに個性的な顔の標本みたいだ。
みんな、いい顔。

新潮クレスト・ブックス
Commented by at 2013-11-21 13:52 x
じゃぁ、私には何が似合うのか教えてください。
Commented by chaiyachaiya at 2013-11-21 18:56
わ! ジュンパ・ラヒリ 大好きな作家です。綺麗な方ですよね。中短編などは、落どころが見えにくく、私にとってはある意味美しいミステリー小説です。
訳者の方が上手いということでもあるのかな。
「停電の夜に」の英語朗読CDを購入して、聞いてみたのですが、ついていけなかったのを、思い出しました。外資系に勤める英語ペラペラの友人は、美しい文章だと言っていましたが・・・トホホ。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-21 21:44
蛸さん、冒険家かですかね、それとも何でも屋^^。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-21 21:46
chaiyachaiya さん、私は文章で読んでも英語もフランス語もドイツ語もわかりません。
なんのために学校に行ったのかなあ。
でも日本語はわかります、だからいいのです。
Commented by fusk at 2013-11-21 22:51 x
クレストブックスの作家たち。いいですねえ。出来れば全部文庫になって欲しい。外地住まいからの要望です。笑。
Commented by poirier_AAA at 2013-11-21 23:57
わたしも、肉屋とケーキ屋はふっくら肉付きのいい笑顔の人がすごく似合うと思います。働き者でくるくると動きまわっているんだけど、美味しいものに目がなくてせっせと味見しているうちにふくよかになってしまった、という感じの人。そういう肉屋のコロッケはすごく美味しそうに見えるんだなぁ。。。。
Commented by ikuohasegawa at 2013-11-22 04:42
「停電の夜に」と「朗読者」だけは読んでいますが、未熟な読書でしょうね。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-22 08:14
fusk さん、そうですね、ほかの本もここに載った作家たちを訪ねてみたいような気がします。
私は図書館だから字が大きいのがありがたいのですが^^。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-22 08:15
poirier_AAA さん、肉屋やトンカツやでブタのシエフがナイフを振り上げて笑っているようなのをみたことがあります。
あれは理屈ではおかしいのですが第一印象では嫌な感じがしないのは私だけかな。
Commented by saheizi-inokori at 2013-11-22 08:17
ikuohasegawaさん、私は読んでいるときは感じていたのにすぐに忘れることも多いのです。
覚えていなきゃいかんということではないけれどちょっと惜しい気持ちがします、ケチなのか。
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by saheizi-inokori | 2013-11-21 11:20 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori