拗ね者は嫌だね 石牟礼道子「苦界浄土 わが水俣病」

アメリカの中学校でまたもや銃撃事件が起きた、犯人は生徒、教師が死んだ。
シリア難民の子供たちが学校にいけない、お金もないが受け入れ能力もない。
移民たちが人間以下の対応をされている、海の方が優しいという。

日本でも災害や殺人事件の報道がない日がない。

メデイアの人たちは深刻そうな顔(ときどき笑顔のままで)をしていろいろ伝えもっともらしい批判をする。
でも心の底では、ネタが増えたことをハシャイデいるように見える。
チャンスとばかりに自衛隊の奮闘ぶりを入念に伝える国営放送もある。
こんな風に感じるのは俺がへそ曲りだからだ。
拗ね者は嫌だね 石牟礼道子「苦界浄土 わが水俣病」_e0016828_10155844.jpg
あねさん、魚は天のくれらすもんでござす。天のくれらすもんを、ただで、わが要ると思うしことって、その日を暮らす。
これより上の栄華のどこにゆけばあろうかい。
寒うもなか、まだ灼け焦げるように暑うもなか夏のはじめの朝の、海の上でござすで、水俣の方も島原の方もまだモヤにつつまれて、そのモヤを七色に押しひろげて陽様(ひいさま)の昇らす、ああよんべはえらい働きをしたが、よかあ気色になってきた。
かかさまよい、こうしてみれば空ちゅうもんは、つくづく広かもんじゃある
水俣病で自分では何もできなくなった9歳の子供を抱えて、死ぬに死なれない漁師が昔の幸せを語る。
語っているのは漁師であり石牟礼道子でもある。

水俣の海を汚したチッソが人々から奪ったものの本当の価値を教える文章だ。
単なる平穏な暮らしなどという次元ではない人間が古来守ってきた生き方、自然と一体化して生きることを空しくしてしまったのだ。
拗ね者は嫌だね 石牟礼道子「苦界浄土 わが水俣病」_e0016828_10492293.jpg
水俣の漁師が「最高の栄華」といった、こういう喜び・幸せを亡くしまたは感じることができない者たちには、もはや気の毒な人たちを全身全霊をもって思いやる能力も失くしている(驚くべきことはその例外が当の被害者である漁師なのだ。彼らはものも言えない我が子の魂の美しさを心から愛でる)。

空虚な日々の気晴らしとして人の不幸の詳細を見たがり聴きたがり、、そこになにやら落ち度めいたものがあれば鬼の首をとったように非を鳴らし溜飲をさげる。
そして次の獲物・事件はなにかとテレビの前に座るのだ。
心配しなくてもいい、世に悲惨・不祥事・恥知らずのタネはつきないのだから。

へそ曲りの拗ね者、いやな隠居だね。
我と我が身のことを他人事みたいにいってる。
それで荷風ってか。
拗ね者は嫌だね 石牟礼道子「苦界浄土 わが水俣病」_e0016828_10485544.jpg
チッソがやらなくても近代化し成長する日本とともに日本人の生き方は変わり続け、今トドメが刺されようとしている。

講談社文庫
Commented by kuukau at 2013-10-22 13:08
弱気を叩き、強きにはおもねる、が被災後のTV。
東電社長は伊豆大島町長ほど叩かれませんでした。会長だって日本にさえいなかったのにね。
TVのはしゃぎぶりは見てて苦々しいと、斜め見空子。
Commented by junko at 2013-10-22 13:23 x
Ciao saheiziさん
>空虚な日々の気晴らしとして人の不幸の詳細を見たがり聴きたがり、、そこになにやら落ち度めいたものがあれば鬼の首をとったように非を鳴らし溜飲をさげる。

水俣病の子供を持っていなくても、なんとなく普通に暮らしてる人たちのなかでも、こういう人たちたくさんいるんじゃあないでしょうか?
じゃなければ、殺された人の華族を、葬儀をあんだけおいまわし、ひっきりなしに報道する番組が、それも各局、、ありえませんもん 苦笑

結局皆空虚なんでしょうかね?
Commented by saheizi-inokori at 2013-10-22 13:36
空子さん、東電だってなんだって悪者さえ作ればそれで終わり。
特別警報を出したってどこに逃げるのか。
Commented by saheizi-inokori at 2013-10-22 13:38
junko さん、人間の根本がふらふらしている。
浮遊物になっちゃったみたいです。
Commented by chaiyachaiya at 2013-10-22 22:03
今読んでいる、丸谷才一さんの「別れの挨拶」に、永井荷風はフランス語でじかにモーパッサンなどを読み、きたなづくりではない、田山花袋とは違い、趣味のいい文体だった、と記されていました。
や、だからどうした、なんですが・・・。
(田山花袋「蒲団」という漢字の連なりを見ると、内容とは無関係に、自分のブタクサアレルギーが炸裂するような気になる私・・・^^;)
Commented by haruneko3 at 2013-10-22 22:55
どういうことになってしまっているのか考えもせず、立ち止まることをいけないことの様に前に前にと進んで、頭がマヒしてしまった人々は、不幸の刺激で頭をシャッキッとさせているのでしょう。
いつも私が頭に来るのは、事件にあった家族の方へ<今どんな気持ちですか?>と、マイクを突きつける無神経さです。
Commented by hisako-baaba at 2013-10-23 02:18
「今 トドメが 刺されようとしている・・・」  おおこわ!
ほんとだもの。
Commented by saheizi-inokori at 2013-10-23 10:09
chaiyachaiya さん、「蒲団」、西日焼けした畳と独特の臭いがする押入れが連想されますね。
小説にそうあったかどうかは忘れましたが。
荷風の本もほとんど読んじゃいないんですよ。
Commented by saheizi-inokori at 2013-10-23 10:12
haruneko3 さん、とりあえず浮遊している日常の相対的な安穏を感じるのかもしれない。
お葬式帰りの人たちが妙に明るく人懐っこいように。
「今のお気持ちは?」、「最高!」とでも答えてやればいいのですが。
Commented by saheizi-inokori at 2013-10-23 10:21
hisako-baaba さん、そのことをどれだけの人が本当に身に染みて感じているのでしょう。
効率、効率、効率の悪いもんははよいね、って嫌な世界ですね。
Commented by 旭のキューです。 at 2013-10-23 10:51 x
アメリカは、怖いですね。日本人で良かった♪
Commented by keiko_52 at 2013-10-23 11:50
苦界浄土なつかしいですね。
もうかれこれ40年まえの本ですね。
あのころは公害問題がずっと続くっと思っていました。
今の中国が大気汚染で苦しむなどかんがえられませんでした。
時代は動いていきますね~
Commented by saheizi-inokori at 2013-10-23 11:51
旭のキューです。さん、銃が野放図になってないだけましですね。
Commented by saheizi-inokori at 2013-10-23 11:52
keikoさん、動いている、それが良い方であれば、、。
どうももっと悪くなっているようにも思えます。
Commented by bikki at 2013-10-23 16:24 x
ひとたび自然災害が起こるとひとたまりもない私たちですが、人間の所業も罪深いものがありますね。水俣の地名を聞く度に今でも心に棘が刺さるような感覚があります。
Commented by saheizi-inokori at 2013-10-24 21:21
bikki さん、読んでいて叫びたくなることがなんどもありました。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2013-10-22 10:58 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(16)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori