めくるめくドラマ 「量子革命 アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突」・マンジット・クマール
2013年 07月 29日
月は見ている人がいるから存在するのか?禅問答にありそうな命題、20世紀に量子力学が登場してから、これは世界でもっとも優秀な物理学者たちが論じ合うようになった。
ボーア、ハイゼンベルグ、ボルンたちが明らかにした「コペンハーゲン解釈」では、
原子の領域では観測者が観測を行おうとすると測定対象と測定装置に間に必ず相互作用が起きる。すなわち観測してみてはじめて事象が確定する、観測するまでは独立した物理的実在はない。というのだ。
放射能が噴出される箱の中の猫が生きているかどうかは蓋をあけることによって決まる(蓋をあける以前から決まっていることが分かるという意味じゃなくて)という。
量子物理学が言えるのは蓋をあけたときに猫が生きている確率がたとえば50パーセントだということだけだと(シュレーディンガーの猫)。
彼にとって科学とは”存在するもの”の性質を明らかにするためのものだった。
神はサイコロを振らないアインシュタインの有名な言葉だ。
彼は量子力学を受け入れるが、ボーアの言うようにそれが完璧なものとは考えなかった。
量子力学をその一部に包摂するような統一場理論を構築しようとして果たせず死ぬ。
多くの学者は、ボーアが正しいとし、アインシュタインは時流についていけない、”ひび割れ骨董品”になったと評価したのだ。
なぜそうなるのか、コペンハーゲン解釈が当てはまるミクロの領域とはどこまでをいうのか(「月」や「猫」には当てはまらないはずとして)、、分からないことも多いが量子力学の教えるところによって確率計算をすれば、すべてのハイテク技術は支障なく成立したから多くの学者は量子力学に疑問を呈して自らの立場を悪くするようなことはしなかった。
彼によれば、シュレーディンガーの猫の場合は、
箱の蓋が開けられた瞬間に宇宙はふたつに分裂し、一方の宇宙(1)の中では猫が死んでおり、他方の宇宙(2)では猫は生きていることになる。
観測者が(1)の世界にいれば猫は死んで見つかるし、(2)にいれば生きている。
世界の状態を表現する波動関数は多数の異なる世界の重ね合せからなるという、多世界解釈だ。
彼の解釈にたいして学者たちは冷淡だったから、51歳で就寝中に突然死したときはエヴェレットは失意のうちに亡くなったのかもしれない。
だが、1999年、ケンブリッジ大学で開かれた量子物理学の会議で、90人の物理学者のうち、コペンハーゲン解釈を支持したのは4名であるのに対して、30名がエヴェレットの多世界解釈の現代版を選んだ。
俺がほっとするのは、「どちらでもない、あるいは決心がつかない」という回答が50名もいたということ。
量子のテレポート実験も成功し、本書では扱っていないが素粒子理論の先を行く(?)超ひも理論もかなりの支持があるらしい。
多くの登場人物の生い立ちや学説発見のスリル・興奮・懊悩を読むとまるで俺までノーベル賞村の住民になったようにわくわくする。
独りで思索・思考実験を深めるアインシュタインに対してボーアがラザフォードの方法に魅了されて自分の研究所でも採用した、優秀な若者や同僚と共同研究を進めるやり方も印象的だ。
ナチスをピークとする世界の激動が物理学者にどんな影響を与えたかも具体的に描かれて、これだけでも何本かの映画が出来そうだ。
優れた物理学者が人間的にも立派だというのは、物理学者にとってありがたいことですね。アインシュタインのボーア評(ローレンツへの手紙)を翻訳者の青木薫があとがきで引いて、共感を示し
その二人の巨人が、宇宙の本性をめぐって知的に激突した歴史的論争を、マンジット・クマールのみごとな描写で観戦していただけるなら、そしてわれわれのこの宇宙は、非局所相関のある量子的宇宙なのだということに思いを致していただけるなら訳者として嬉しく思う。と書いている。
クマールと青木に感謝する。
不確定性原理とかシュレーディンガーの猫とか、今までにも読んだことはあったがもちろん忘れていたし理解もしていなかった諸々がもう一度別の流れで説明されると、ほんの少し、ミクロ的にだけど感じがつかめたようだ。
図書館に返すのが惜しい。
<非局所性>
二つの系(または二つの粒子)の間で、瞬間的に影響が伝わるという性質。影響が伝わる速さは光の速さよりも大きく、遠くの場所で起こった出来事の影響が、瞬時に別の場所に及ぶ。
<局所性>
原因と結果は同じ場所で起こり、遠隔作用は存在しないという要請。
(本書巻末の用語集から)
新潮社
量子論をめぐる物理学者たちの人間群像。物理法則によって未来は予測可能とするアルベルト・アインシュタインと、未来は確率によってしか分からないとするニールス・ボーア…異な ...... more
私のブログにお越し頂きましてありがとうございました。
これからもよろしくお願い致します。
随分難しい本をお読みなのですね。
優れた経営者は自ら優れる必要はない、ただ、自分より優れた人を周りに置けばよいのだと・・・?
最近聞いたある講演会で聞いた誰かの言葉のような・・・(完全に機能停止?)
ごちそうもたくさんで幸せな一日でした。
知りたいのは人のうわさと上部の意向ばかり。
ぼくだったら、絶対に読まないだろうなと思う本を、saheiziさんが
代わりに読んでくださる。そして、わかりやすく解説も。
これはうれしいことです。
椎名誠さんと目黒孝二さんも、そういうやりとりから『本の雑誌』が
確か生まれたはず。
本には、そういう力があります。
これから、先行きが短いので、自分では何冊読めるかわかりません。
これからも「乱読」期待しております^^。