朝から人助け 還暦を祝う若者たち 扇遊&喜多八&鯉昇

散歩をしていたら、角を曲がってすぐの草むらにおばあさんがひっくり返っていて、ランニングに短パンの若い男がなにやら話しかけている。
傍にスポーテイな自転車がおいてある。
あ、出会いがしら?事故かと思って一歩二歩、不思議なことにそのまま通り過ぎようとしたのだ。
なに!倒れてる!そこに!
すぐに戻って、大丈夫ですかと声をかけると、おばあさんがうなづいて青年がほっとしたような顔。
倒れていたおばあさんに気が付いた青年が介抱していたのだ。

意識はしっかりしている、持っていたペットボトルから水を一口飲んでもらう、ひと口じゃ足りないからともうひと口、救急車は呼ばないでという。
家は近いというので、二人で肩を貸して歩き出す。
肥っているのだ、汗でぬれた身体が重たい。
近いという家はどこだ?
マンションの窓があいて女の人が、知っている、家はそこだ、案内します、戸締りをしていくから、と言っているうちに別の奥さんが同じマンションだからと案内して、狭い階段を三人で上って、サンチが大人しくあとをついて、とんだ桃太郎おばあさんの帰宅、俺はキジ、いや猿なんだろう。
ご主人がいたので無事ご送還。
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帰ってくると向かいの家の奥さんが水やりをしていて「暑いですねえ」、犬の散歩でときどき会うのだが、いつもツバひろのフアッショナブルな帽子にモノトーンの上下が決まっていて、どこかツンとしているようで(だらんとしている俺に比較して)とっつきにくい方だと思っていたら、今朝はずいぶん愛想がいい。
「昨日、わたし、熱中症になってしまいました」「おや、今さっきそこで倒れている人を家まで送って来たんですよ」「私も昨日熱中症になっちゃいました」なぜか繰り返して「お気をつけくださいませ」大きなサングラスのなか目が笑ってた。
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昨日は夕立直後の新宿へ。
濡れなくて良かったような、夕立を見たかったような。

新宿文化センター、「扇遊還暦祝いの会」。
自分でメクリをたしかめて、楽しげな歌入り(松尾あさ)の出囃子「いっさいいっさいろん」で開口一番、小辰「悋気の独楽」
はぎれよく、楽しい。
ときどき師匠の扇辰が顔を出すのも微笑ましい。

扇遊「お菊の皿」
入門したときに還暦で高座に出ることなんか想像もしなかった。
あの頃師匠の扇橋が42歳、志ん朝、馬生、、みんな3.40代なのに貫録がありました。

そうだ、俺も還暦なんかには一生なれないと思いこんでいた。
赤いカシオGショックを若い社員たちからプレゼントされて照れくさかった。
あの時計、電池を入れて又使おう。

今じゃ、扇遊の”若さ”がまばゆい^^。
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喜多八「あくび指南」
最前列の下手から見るせいか、どうも痩せて顔色が悪いのが気になる。
始まると紅潮(と言っても普通の顔色になる)して、いつもように凸凹コンビのやり取りが可笑しくておお笑いなのだが。
小三治の付け入る隙のない芸空間からの笑いに比べて付け入りどころ満載の笑い。
あくびそのものはあまりうまくないけれど。

あくび指南が、まず扇子をキセルに見立てて長い無言、もやった舟の揺れるとも揺れないとも、をやってみせるのなんか最高だ。
21世紀の憂鬱と倦怠。

鯉昇「持参金」
8つ年上、器量は悪く、あちこち傷みがきてる、表は風化してるけど中はきれい、裏返ししたらどうだという意見もあるけれどそうもいかない、おでこに特徴があって、真中に黒い線が一本、それというのが普通は地面をみている鼻の穴が景色を見てるから、タバコをふかすとケブが立ち上って飛び出したおでこにあたって出来た線、背丈はすらっと横に長く低い。
どこで聞いてくるのか、いろんな噂噺を胸にしまっておこうなどという狭い了見じゃない。
おまんまは3人前、習い事は何をやってもダメ。

そんな女にたった一つ疵がある。
八か月の子供が腹ん中。

どう?嫁にもらわないか。
えっ!どっか気にいらない箇所がある?

聴きようによっては、寄らなくてもセクハラ、それが爆笑、とくに若い女性の嬌声にも近い笑い。
マンガの登場人物の風体を見てセクハラだと腹を立てる人もいないのと同じ?
嫌味がないのは軽さ、間の好さ、根っこにその女性に対する好意・愛情があるからだ。
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還暦祝いと言いながら、祝われる扇遊が色紙や扇子・手ぬぐいを抽選でプレゼント、俺は昔からこういうのに当たらない習わし。
しかも、扇遊「青菜」でトリもやる。

嬉しくて頑張りすぎたかな、一本調子でがなりっぱなしの八五郎。
せっかくの素敵な着物姿がちょっともったいなかった。

三人のなかでもっとも落語らしい落語を話す扇遊なんだがな。
喜多八や鯉昇の言葉だけじゃなくて表情や仕草で語るやり方、おかしさを増幅する間が際立って感じられた。
Commented by kuukau at 2013-07-09 12:55
saheiziさんもだけど、青年の親切にホッとします。
他者に無関心な若者が多いと言われるけれど、まだまだ捨てたもんじゃないね。
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-09 13:38
空子さん、案内してくれた女性が、時間大丈夫ですか?と尋ねると、一呼吸おいて、ぼくはなんとかなります、間に合えば良かったけど。
ぶつかりそうになって舌打ちして走り抜ける自転車オバサンも多いです。歩道を。
つい疑ってしまって悪かったなあ。
Commented by sora at 2013-07-09 15:03 x
おはようございます。   あ~ よかったです。  お互い様ですね。
”助け合う人がいる”が、切実に大切な宝ですね。
15年前に”心でっかち”を読み ”これから安心はない信頼がキー”とあり
その頃はそうかという程度の浅い認識でした。。。 

下の人と風景の写真 すてきですね*  撮られた方の愛情を感じます。    
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-09 15:18
soraさん、去年は義母が私と散歩中に倒れそうになってあわてました。硬膜下出血、すぐに手術しました。そんなのでなくて良かったです。
公園などで人々が見せるいろんな表情がいいです。ちょっと緊張を解いた非日常的な瞬間の。
Commented by ikuohasegawa at 2013-07-09 16:48
 権太楼一本に絞って笑っているだけの私に比べ的確な落語観賞。本稿も読むだけで寄席の気分になれます。
Commented by hisako-baaba at 2013-07-09 17:58
熱中症のお婆さんをみんなで助けた、良かったですね。まだまだ親切は生きてますね。
世の中捨てたもんじゃなかった。
しかし暑いですね~
Commented by keiko_52 at 2013-07-09 21:05
おばあさん大変でしたね~

この暑さなのでたしかに熱中症にご注意ですね!
前に山登ったとき倒れているおじさんがいてみんな通りかかるのに
知らんぷりんで(休んでいるのかなっとか思ったのかも)
お声かけして売店のひとに救急車呼んでもらったことありました。
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-09 21:17
ikuohasegawa さん、権ちゃんはいいですね。
笑うもんかと思っていても強引に脇の下をくすぐるのですよ^^。
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-09 21:18
hisako-baaba さん、お互いに助ける側でいたいものです^^。
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-09 21:21
keiko_52 さん、おばあさんと言ってももしかすると私より若いかもしれない。
それなのに、助けている若者が「おばあさん」と呼び私には「お父さん」と呼びました。
どういうことなんでしょ。お父さんの方が年寄り?
Commented by たま at 2013-07-09 21:49 x
子供たち3人全員が晴れて片付くことと相成り、この際、相方について、「おかあさん」の呼称を止めて、「〇〇」(さん?)にすることにしました由。
今夕、とある会合にて、私と年代の余り代わらぬ先輩2人が相次いで奥方を癌でなくされた由。(ともに人間ドックを受けてなかったとか・・・)
明日から、私の趣味は「仕事」などではけっしてなく、きっぱり、愛すべき相方の「〇〇さん」にしようかと思います由・・・?。
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-09 21:53
たまさん、それはそれは!大賛成です。
明日から毎朝お手てつないで散歩してください。
あ、もうやってる?失礼しました^^。
Commented by みい at 2013-07-09 21:58 x
こんばんは

 最近暑い日が続いていますねえ~
おばあさん、よかったです。
ほっとしました^^。
人は助け合わなくてはネ^^。

熱中症、くれぐれもお気をつけてくださいませ。
お互いに・・・だけど。
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-09 22:00
みいさん、ほんとに、お向かいの奥さまは相当若いのですよ^^。
Commented by 小言幸兵衛 at 2013-07-09 22:40 x
「還暦」の「若者」まで、私ももう少し^^
朝からの人助けで佐平次さんも長生きされるでしょう。
まぁ、一束までは軽いのでは!
Commented by at 2013-07-10 07:00 x
「青菜」・・・最近、TVですが、小柳枝の淡々と語るもの、一之輔のクスグリ満載なものと二席拝聴。私などは、この噺を聴くと、いつも青菜にあらずして、鯉のあらいが食べたくなるんですが、実に困ったもんです(笑)
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-10 09:20
小言幸兵衛さん、お若いんですねえ^^。
ところで一束、寡聞にして知らない言葉です。
教えてくださいませ。
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-10 09:22
福さん、一之輔は「イワシ」を連呼するんじゃなかったかな。
私は小柳枝を買います。
後半の笑わせるところもともかく前半のお店の庭先の清涼感が聴きどころ、おっしゃるように私も鯉の洗いと冷えた柳陰が欲しくなります^^。
Commented by 旭のキューです。 at 2013-07-10 10:19 x
おばあさん、無事て良かったですね。この暑さじゃ死んじゃいますよ。
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-10 10:29
旭のキューです。さん、ゴルフもお気をつけて^^。
Commented by 小言幸兵衛 at 2013-07-10 18:56 x
「一束」(いっそく)は数量の「百」です。
寄席の客の入りが「一束」とか、文楽の「寝床」では提灯屋が作るホオズキ提灯が「八束五十」とか、豆腐屋の作るがんもどきの数が「三束五十」など。
ちょっと偉そうに専門用語を使ってしまい、失礼しました。
Commented by 小言幸兵衛 at 2013-07-10 22:19 x
文楽の「寝床」を聴いたら、提灯とがんもの数が逆でした。
失礼しました^^
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-10 22:37
小言幸兵衛さん、ありがとう。
辞書やネットで調べたのですが載ってなかったのです。
そういえば聞いたことはあるような気もします^^。
Commented by c-khan7 at 2013-07-11 10:22
saheizi隊長!お疲れさまでした。
明日は我が身かもしれません。倒れませんように、ご用心ご用心。
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-11 10:35
c-khanさん、隊長桃太郎おばあさん負傷につきサンチ副隊長指揮のもと雉と猿とで無事生還を果たしました。
Commented by ほめ・く at 2013-07-11 18:56 x
還暦なんて遠い昔の出来事のようです。
私見ですが扇遊や、さん喬というのはきっと常識的で人柄が良いのでしょう。私服姿を見てそう思いました。
それが時に高座ではキズになっているような気がします。
Commented by saheizi-inokori at 2013-07-11 21:19
ほめ・くさん、そういう意味で志ん生一家は面白い、とくにオヤジ、長男、苦労した順に。
還暦から新しい人生が始まるというのは当たってるところもありますね。
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by saheizi-inokori | 2013-07-09 12:22 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(27)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori