対岸の火ではない 阿古智子「貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告」
2013年 06月 12日
中国の有人宇宙船「神舟10号」の打ち上げが成功した。
今この瞬間も男性2人、女性1人が宇宙の旅をしているのだ。
俺は干天の慈雨をアジサイと一緒に喜んでいる。
サンチは散歩に行けないからうちのなかで遊んでほしいと盛んにじゃれつく。
輝かしい成功にケチをつけるのではないが、中国は大丈夫だろうかと心配になる本を読んだ。
1971年生まれの著者は名古屋大学大学院時代に湖南省農村の小学校に1か月半、上海市の中学校で1年、エスノグラフィック・スタディの手法によるフィールドワークを行い、その後も在中日本大使館専門調査員などとして中国農村や出稼ぎ労働者を観察し研究を続けてきた。
極力、研究者自身が現地の人々と関係を築くべく教師になり農業灌漑や学校建設のプロジエクトに加わったり中国のローカルNGOの一員になったりすることで、内部者(insider)となるという手法だ。
活動中に国家安全局に一晩拘束されたこともある由。
政府も関与しての血液ビジネス、その過程で注射器の使い廻しなどによりエイズ感染者が河南省だけでも30万人に達している。
血液売買は行政当局の「政績」(政治上の業績)となるから官民一体の悪魔のような売血ビジネスが奨励され、HIV感染者に対する補償などを求めると無視されるか弾圧される。
しょうことなしに中央に陳情するのだが、それも政績に関わるから様々な手段で妨害弾圧されるのだ。
中国人は生まれて来たときに「農業戸籍」か「非農業戸籍(都市戸籍)」のどちらかに分けられそれが一生ついて回る。
都市部に出て働こうとする者は「農民工」となるが戸籍は出身地に残したままであり、医療教育などの社会サ-ビスは戸籍地で受けることになる。
移住先の都市では「二級市民」として差別される。
経済格差が大きく、全国統一の社会保障を整備するだけの財政力もない13億人以上の人口を抱える国家にとって、食糧を確保し安定した統治を行うためには、戸籍制度は捨てようにも捨てられない制度なのだ。
しかし、この制度ゆえに格差は拡大して社会不安の背景にもなるというジレンマが中国のアキレス腱だ。
農業税は2006年に廃止されたが、貧しい村の財政を支えるために公共事業費、公益金、管理費、義務教育費、計画出産費、退役軍人慰労費、民兵訓練費、道路管理費などが、貧しい農民から徴収されていた。
しかも役人たちの目に余る腐敗・不正。
農民たちは耐えかねて納税拒否騒動も起きたために、2000年以降中央政府は農村税費改革に乗り出したがその成果は楽観を許さない。
農村の荒廃が進む中でもっとも憂慮されるのは、共同して村や農業を守るという意識や老人など弱者をいたわるという意識などを欠く「公徳心のない個人」が目立つようになったこと。
政府の進める「社会主義市場経済」が機能するためには、市場原理が健全に働くための前提となる「公平なルール」が保証され、コミュニティーのなかに「信頼」が存在しなければならないのに、「公平」も「信頼」も欠けた農村になっている。
都市に住みたいけれど住宅も手に入らずアイデンティティを喪失し漂白する農民工。
土地を失った失地農民の増加。
土地をめぐる争いの多発。
格差を助長する大学入試制度と過熱し歪んだ学歴競争。
本書のレポートを読むと隣国中国は出口のない苦境に入りこんでいるようにも見える。
しかし格差の拡大、少子高齢化、、日本の抱える問題も本質的にはそんなに変わらないのではないか。
著者があとがきでいう通り、これは「対岸の火」ではなく、「隣国からの警告」ではないか。
新潮社
今この瞬間も男性2人、女性1人が宇宙の旅をしているのだ。
俺は干天の慈雨をアジサイと一緒に喜んでいる。
サンチは散歩に行けないからうちのなかで遊んでほしいと盛んにじゃれつく。
輝かしい成功にケチをつけるのではないが、中国は大丈夫だろうかと心配になる本を読んだ。
極力、研究者自身が現地の人々と関係を築くべく教師になり農業灌漑や学校建設のプロジエクトに加わったり中国のローカルNGOの一員になったりすることで、内部者(insider)となるという手法だ。
活動中に国家安全局に一晩拘束されたこともある由。
政府も関与しての血液ビジネス、その過程で注射器の使い廻しなどによりエイズ感染者が河南省だけでも30万人に達している。
血液売買は行政当局の「政績」(政治上の業績)となるから官民一体の悪魔のような売血ビジネスが奨励され、HIV感染者に対する補償などを求めると無視されるか弾圧される。
しょうことなしに中央に陳情するのだが、それも政績に関わるから様々な手段で妨害弾圧されるのだ。
都市部に出て働こうとする者は「農民工」となるが戸籍は出身地に残したままであり、医療教育などの社会サ-ビスは戸籍地で受けることになる。
移住先の都市では「二級市民」として差別される。
経済格差が大きく、全国統一の社会保障を整備するだけの財政力もない13億人以上の人口を抱える国家にとって、食糧を確保し安定した統治を行うためには、戸籍制度は捨てようにも捨てられない制度なのだ。
しかし、この制度ゆえに格差は拡大して社会不安の背景にもなるというジレンマが中国のアキレス腱だ。
農業税は2006年に廃止されたが、貧しい村の財政を支えるために公共事業費、公益金、管理費、義務教育費、計画出産費、退役軍人慰労費、民兵訓練費、道路管理費などが、貧しい農民から徴収されていた。
しかも役人たちの目に余る腐敗・不正。
農民たちは耐えかねて納税拒否騒動も起きたために、2000年以降中央政府は農村税費改革に乗り出したがその成果は楽観を許さない。
農村の荒廃が進む中でもっとも憂慮されるのは、共同して村や農業を守るという意識や老人など弱者をいたわるという意識などを欠く「公徳心のない個人」が目立つようになったこと。
政府の進める「社会主義市場経済」が機能するためには、市場原理が健全に働くための前提となる「公平なルール」が保証され、コミュニティーのなかに「信頼」が存在しなければならないのに、「公平」も「信頼」も欠けた農村になっている。
土地を失った失地農民の増加。
土地をめぐる争いの多発。
格差を助長する大学入試制度と過熱し歪んだ学歴競争。
本書のレポートを読むと隣国中国は出口のない苦境に入りこんでいるようにも見える。
しかし格差の拡大、少子高齢化、、日本の抱える問題も本質的にはそんなに変わらないのではないか。
著者があとがきでいう通り、これは「対岸の火」ではなく、「隣国からの警告」ではないか。
新潮社
Commented
by
kuukau at 2013-06-12 17:20
格差社会と騒ぐけれど日本のなんか、高が知れてるね。
0
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-06-12 21:05
Commented
by
蛸
at 2013-06-12 23:45
x
Commented
by
c-khan7 at 2013-06-13 00:07
Commented
by
kanafr at 2013-06-13 05:27
中国の人達がバスで押し寄せ、フランスの有名店に押しかけ札束をちらつかせ買いまくる姿を見て、眉をひそめる日本人の人達がいますがちょっと前までパリに来る日本人観光客もそうでした。
そんな事を今や忘れ、昔から行儀のよかった日本人のように思っていらしゃる方が大勢います。
この本は、中国の出来事を単に対岸の火事を見るように書き連ねた本ではないですね。
公平も信頼にかけている農村の農村を違う言葉に置き換えたら日本政府になった...悲しいなあ。
そんな事を今や忘れ、昔から行儀のよかった日本人のように思っていらしゃる方が大勢います。
この本は、中国の出来事を単に対岸の火事を見るように書き連ねた本ではないですね。
公平も信頼にかけている農村の農村を違う言葉に置き換えたら日本政府になった...悲しいなあ。
Commented
by
sweetmitsuki at 2013-06-13 05:56
中国の農業労働者が生産した、安価で安産に問題のある農産物を、日本が大量輸入し、それはもはや日本の食糧事情と癒着していて、切り離すことができないというのも、状況をさらに悪化させている要因なのではないのでしょうか。
佐平次さん、おはようございます
こういう高齢化地域に住んでいますと、すぐ自分に降りかかるような
問題が中国と大して変わらないような気がします
もう少し地方にも企業が欲しいですね
特に医療分野はあまりにも格差がありすぎます
こういう高齢化地域に住んでいますと、すぐ自分に降りかかるような
問題が中国と大して変わらないような気がします
もう少し地方にも企業が欲しいですね
特に医療分野はあまりにも格差がありすぎます
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-06-13 08:44
蛸さん、格差のグローバル化ですね。
いいとこどりというわけにはいかないようです。
いいとこどりというわけにはいかないようです。
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-06-13 08:45
c-khan7 さん、肩身が狭くなる程度で済んでいればいいのですが、医療介護など生きていくうえで支障が出てきそうです。
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-06-13 08:47
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-06-13 08:52
sweetmitsuki さん、中国がなんとかならないと中国の人だけでなく日本が困ります。
今中国でベールに包まれたまま推進されている遺伝子組み換え食糧は聴けば聞くほど恐ろしい。
これを食べた害虫が死んでしまうというのですから。
食糧植民地としてはまことにまことに!
今中国でベールに包まれたまま推進されている遺伝子組み換え食糧は聴けば聞くほど恐ろしい。
これを食べた害虫が死んでしまうというのですから。
食糧植民地としてはまことにまことに!
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-06-13 08:55
rinrin さん、都会ももう少しすると高齢者に対して働く人が少なくなって医療福祉にも差支えが生じるようです。
10年20年先をみすえて人口問題対策を作っていかなくては!
10年20年先をみすえて人口問題対策を作っていかなくては!
Commented
by
keiko_52 at 2013-06-13 09:23
中国は本当に面白い国ですね~
金持ちは驚くほど金持ちで貧乏人もたくさんいて
でも官僚は腐敗と汚職でどろまみれで、
正義はどこにあるのでしょうか?
ッとはたから見てると心配してしまうのですが、、
家人と前にサイクリングで山手線一周しました。
大塚で泊まったんだったかなぁ巣鴨だったかな?
都電荒川線の線路踏んだの覚えています。
貴重な都電ですね~
金持ちは驚くほど金持ちで貧乏人もたくさんいて
でも官僚は腐敗と汚職でどろまみれで、
正義はどこにあるのでしょうか?
ッとはたから見てると心配してしまうのですが、、
家人と前にサイクリングで山手線一周しました。
大塚で泊まったんだったかなぁ巣鴨だったかな?
都電荒川線の線路踏んだの覚えています。
貴重な都電ですね~
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-06-13 09:30
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-06-13 10:53
みいさん、夕方の晴れ間を縫って散歩できました、ワン^^。
Commented
by
poirier_AAA at 2013-06-13 18:01
by saheizi-inokori
| 2013-06-12 12:07
| 今週の1冊、又は2・3冊
|
Trackback
|
Comments(17)