家族と暮らすのは幸福なのか、幸福の付属物なのか ベルンハルト・シュリンク「夏の嘘」
2013年 05月 30日
「週末」は釈放されたドイツ赤軍派を迎える人々に人生の自由とか真実とは何かを突きつけるような話だった。
こんどは舞台をアメリカにして男女、家族などの関係のもろさを気の利いたコントのように読ませる短編が七つ。
だがスーザンは富豪だった。
ふたりは一緒に暮らすことを約束してそれぞれの家に帰る。
彼はマンハッタンの安アパートに帰ってそこの暮らしを自分が好いていることに気がつく。
スーザンに喋らなかったことがたくさんあって、それが自分の人生の重要な構成要素であることにも気づくのだ。(「シーズンオフ」)
言われた男はアンの言葉の意味を理解できない。
彼は「真実とともに生きることができるために、人は自由でなければいけないのかもしれない」と思うのだ。
「真実と自由の関係」、この言葉は上に引いた「週末」でも語られる。
シュリンクにとってとても重要なことらしいが、俺にはよくわからない。(「バーデンバーデンの夜」)
突然「自分の子どもたちを愛するのをやめる」女性は自分が若い頃好きな男に振られたと思いこんでいたけれど、その男と会って、反対に自分が彼を捨てたのだという真実を知ることになる。(「南への旅」)
終末期のガンを患う老人は、いよいよ痛みが我慢できなくなったら安楽死をしようと決意して、一族と親友を別荘に集める。
父と一度もちゃんと話し合ったことがなく、父のことを何も知らない息子は、父とバッハ・フェスティバルに行く。そうすれば何か話が出来るかもしれない。
だが、父はバッハを語ることしかしないのだ。
バッハを聴いて泣いていても、心の中を語ることはない。(「リューゲン島のヨハン・セバスティアン・バッハ」)
人と人のコミュニケーションがふとしたはずみで齟齬をきたすとそれまで安定していると思われた関係が壊れていく話がほとんどだ。
それまでの関係が嘘で出来上がっていたことをちょっとした嘘が明らかにするのか。
どの短編もすっきり明快というわけにはいかない。
ストーリーは変化に富んで面白いけれど謎で終わる。
人生とは謎だと言わんばかり。
なにが真実で何が嘘なのか、そんなことはわからない、それが人生だと。
松永美穂 訳
新潮社 クレスト・ブックス
こんどは舞台をアメリカにして男女、家族などの関係のもろさを気の利いたコントのように読ませる短編が七つ。
彼は金持ちが嫌いだった。遺産相続した金持を軽蔑していたし、一代で金持になった人々のことは詐欺師とみなしていた。ニューヨークのオーケストラでフルートを吹く彼がスーザンとシーズンオフのリゾートで逢って恋に落ちた時、スーザンは金持ちには見えなかったのだ。
だがスーザンは富豪だった。
ふたりは一緒に暮らすことを約束してそれぞれの家に帰る。
彼はマンハッタンの安アパートに帰ってそこの暮らしを自分が好いていることに気がつく。
スーザンに喋らなかったことがたくさんあって、それが自分の人生の重要な構成要素であることにも気づくのだ。(「シーズンオフ」)
真実に出会って苦しむなら、それは真実があなたを苦しめるのではなく、何ゆえにそれが真実であるかという問題で苦しむのだ。そして、真実はいつもあなたを自由にする。こう言ったアンは恋人がバーデンバーデンに一緒に行った女・テレーズとの間に何もなかったという真実を知るけれど、知ったことで(知るプロセスで)、冷静さを手に入れて情熱を失う。
言われた男はアンの言葉の意味を理解できない。
彼は「真実とともに生きることができるために、人は自由でなければいけないのかもしれない」と思うのだ。
「真実と自由の関係」、この言葉は上に引いた「週末」でも語られる。
シュリンクにとってとても重要なことらしいが、俺にはよくわからない。(「バーデンバーデンの夜」)
終末期のガンを患う老人は、いよいよ痛みが我慢できなくなったら安楽死をしようと決意して、一族と親友を別荘に集める。
最後に人々と一緒に味わう幸福をうまく準備できたと彼は思っていた。それはまたしても付属物の幸福のための付属物を集めただけなのだろうかと、彼は自問した。(「最後の夏」)
父と一度もちゃんと話し合ったことがなく、父のことを何も知らない息子は、父とバッハ・フェスティバルに行く。そうすれば何か話が出来るかもしれない。
だが、父はバッハを語ることしかしないのだ。
バッハを聴いて泣いていても、心の中を語ることはない。(「リューゲン島のヨハン・セバスティアン・バッハ」)
それまでの関係が嘘で出来上がっていたことをちょっとした嘘が明らかにするのか。
どの短編もすっきり明快というわけにはいかない。
ストーリーは変化に富んで面白いけれど謎で終わる。
人生とは謎だと言わんばかり。
なにが真実で何が嘘なのか、そんなことはわからない、それが人生だと。
新潮社 クレスト・ブックス
Commented
by
ジュ
at 2013-05-30 14:51
x
素敵な本のご紹介、ありがとうございます。 早速探します^^
^^←saheiziさまの真似・・・、すごくいい^^。
^^←saheiziさまの真似・・・、すごくいい^^。
0
Commented
by
kuukau at 2013-05-30 15:06
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-05-30 15:25
ジュ さん、笑顔はみんな同じ^^。
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-05-30 15:25
空子さん、壊れると修復はできないのですね。
Commented
by
蛸
at 2013-05-30 16:36
x
回りの人々をじっくり観察すると本にもまして・・・・、
しかし、常に冷静になれないから,やっぱ、本の方がええですな、
しかし、常に冷静になれないから,やっぱ、本の方がええですな、
Commented
by
k_hankichi at 2013-05-30 21:18
音楽もいくつか出てきていますね。ああ、これは読みたいです。
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-05-30 22:07
蛸さん、現実はずっと厳しいからね。
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-05-30 22:08
k_hankichiさん、バッハ好きの父子の話、父親の薀蓄はバッハ好きな方に読ませたいなあ。
Commented
by
poirier_AAA at 2013-05-30 22:21
わたしも早速図書館で探してみます^^。
あるといいなぁ。
あるといいなぁ。
サンちゃんや豆太の世界は「真実」だけ。犬生はいィ~ですねェ~^-^
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-05-31 09:25
poirier_AAAさん、フランス人の方が日本人より読者数は多いのじゃないかな。
きっとあると思いますよ。
きっとあると思いますよ。
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-05-31 09:26
豆ママ さん、置いてけぼりにしても、遅く帰っても、いつもちぎれるほど尻尾を振って飛びついてきます。
申し訳ないと思うほど^^。
申し訳ないと思うほど^^。
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-05-31 11:41
みいさん、今日もサンチはごきげんです^^!
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-05-31 23:42
豆ママ さん、狛犬がやっているお尻を高くあげて顔は伸ばした前足に乗っけるポーズですか?
それならサンチはよくやります、ノビノビ~って。
それならサンチはよくやります、ノビノビ~って。
Commented
by
maru33340 at 2013-06-01 08:51
シュリンクは素晴らしい作家だけれど、覚悟して読まなければ少し重くて・・・と思っていましたが、この短編集は読めるような気がします。
Commented
by
saheizi-inokori at 2013-06-01 09:09
maru33340さん、重く読めば重いし、軽く読んでも楽しい、無責任な読者です^^。
by saheizi-inokori
| 2013-05-30 11:54
| 今週の1冊、又は2・3冊
|
Trackback
|
Comments(18)