カッコいい！につきる 映画「ビル・カニンガム＆ニューヨーク」

映画を観た後、その映画のことを誰かにしゃべりたくなる映画と、ひとりで抱え込んでいたい映画とあるんじゃないかな。



「ビル・カニンガム&ニューヨーク」は圧倒的にしゃべりたい映画だ。

ビル！ほんとに８２歳？信じられないよね。
カッコいいったらない。

そうそう彼の撮りまくるファッションにも目がテンだったけど、それを撮ってるビルの着たきり雀のブルーの上っ張り！
あれ清掃員の制服だって、、それが決まってるんだよね。
フランスで勲章貰うときにも着てるんだから、それがちっとも変じゃないってすごい。

あの笑顔がいいんだなあ、ずっと一緒にいたくなるような、
温かくて、ちょっとシニカル？違うよ、絶対冷たくはない、シニカルじゃないでしょ、ユーモアでしょ。

俺はさ、デヴュー当時になんとかいうファッション誌の編集長と意気投合して、好き勝手に何ページでも特集を自分のテーマで組ませてもらって、、それで差し出された小切手を必ず引き裂いて、「自由の方が大事、これは譲れない」ってところでシビレタなあ。

毎晩、超セレブの出るパーテイから招待状を山ほど貰って、、
そうそう、スエーデンだっけどこかの王妃の出る慈善パーテイにも出席出来なかった？
そうしてパーテイの写真を撮りまくって、出されたご馳走どころか水一杯も呑まないって、
あれも哲学？私なんか食べまくっちゃうけど、だから肥っちゃう、ビルはスタイルいいなあ（笑い）

生き方のスタイルがいいから、、雨の日用の黒いポンチョ、破れたところにテープを貼って、、そのスタイルだってかっこよかった。

寝るのはキャビネットの上、家にはネガをしまうスペースがあればトイレもキッチンもいらない。
安いカフエのサンドウイッチをうまそうに食って、コーヒーは安い方がウマいんだな、ちゃって。

有名人だから撮るなんてしない、だいたい有名人の名前や顔を知らないんだって、
テレビも見ないからね。

パリコレだって、草創期から見ていて、今は入場するだけでも大変なところで、知らない係員が冷たくあしらっていると、だれか偉い人が気がついて「この人は世界で一番大事なんだから」ってどんどん中に入って、、
ほとんどのカメラマンがランウエイの正面から撮るのにビルは中で写真を撮って、どんな名高いブランドのモノでも昔のモノの真似だと直ぐに見抜いて証拠写真を載せちゃう、あれも凄いなあ。

あの、自転車でアップタウンからダウンタウンへと車道の真ん中走って、事故に遭わないって、それも凄くない？
東京じゃできないね。

仕事だと思っていない、ファッションと女性が好きなんだ、ってこれもかっこいいね。

ＮＹのアパレル産業がもうおしまいだとか、「ただで貰った服を着てる有名人は撮らない」とか、ＮＹという街は住みにくいなどと、本人は事実だけをさらっと言ってるのが結構批評になってると思った。

そうだよ、照る日曇る日、街を走って見て、撮る、それも「何を撮ろうと決めて撮ることはない。向こうが語りかけて来たら撮る」っていう徹底した観察の上で撮ってるから、撮るという行為自体が自ずから批評になってしまうんじゃないかな。

そう、それでいて身分とか肌の色とかいっさいの差別から自由で優しいまなざし、愛？、があるから、ＮＹタイムズでの連載が半世紀も続くんだろう。

そんな面倒なリクツより、私はもう一度ビルの撮った写真やＮＹのおしゃれたちを見たいなあ、ストップモーションのスウイッチがあればいいなあと思ってたもん、、、

吹聴したくなる映画です。
ワイワイやりたくなる映画です。

ファッションなんていらないっていう人がいるけど、私はそう思わない。
ファッションは鎧、日々生き抜いていくための、手放すってことは文明を捨てることになる

ビルの写真がファッションなどと無縁な俺の琴線にも触れたのは、そこにＮＹという一つの文明が見られるからだと思う。
（伊勢丹・靴売り場）