おぞましく”貪欲”な金融システム グレッグ・スミス「訣別 ゴールドマン・サックス」
2013年 05月 19日
筆者は1978年南アに生まれる。
米スタンフォード大学に全額給費留学生として渡米、ゴールドマン・サックスに入社したのが2001年、社屋の近くでトレードセンターが崩壊するのを目撃する。
才能と努力によって20代後半にヴァイス・プレジデント、32歳でロンドン支店に異動となり、欧州、中東、アフリカ向けのデリバティブ事業責任者として業績をあげるが、2008年金融恐慌以来の社風の劣化に疑問を感じて2012年退職。
「なぜ私はゴールドマン・サックスを辞めるのか」と題した論文をニューヨークタイムズに寄稿。 ゴールドマン・サックスと言えばリーマンショックのころから”貪欲な資本主義””無責任な金融システム”の代表として悪名高い。
そのゴールドマン・サックスを中途退社したエリートの話なんてイマサラジローかもしれないが、どこかの書評をみて読みたくなった。
読んで面白かった。
南ア出身の素朴・純真な秀才が青年らしい野心をもって世界最高の投資銀行に憧れてインターン(学生時代の夏休みに研修生となるシステム)として、ライバルたちと楽しくも厳しくシノギを削る生活から、入社後に先輩たちからシゴカレ愛され成長していく日々が等身大、要所におけるセリフも生々しく、ユーモアもたっぷりに語られて、まるで映画を観るようだ。
グレッグの気取らない性格には好感も覚える。
腐敗したイメージしかないゴールドマン・サックスがちょっと前までは、顧客第一を社是として、社員個々の能力を大事にしながらもチームワークを貴ぶ魅力的な会社だったようだ。
もっとも、無我夢中で会社のために仕事をしているグレッグも、顧客に株を薦めるとき、とくに新規公開事業に参画するときなどはどうしても利益相反をしてしまうことにチラッと疑問を感じてはいたのだが。
お客も大人なんだ、自己責任だと、自分を納得させる。
生き甲斐を感じていた日々は2008年のリーマンショック以来、輝きを失っていく。
最高の報酬に惹かれてやってきた最高の頭脳の作ったプログラムは想定外の事態に対応できず後戻りのできないところまで疵をひろげてしまう。
リーマンショックで価値の下落する資産の売却を焦る顧客の足元に付け込んで法外な手数料をむしり取る営業。
社員の評価はすべて名前の脇に表示される「総貢献度」という彼らが関わった収益の累積数字のみとなる。
エレファント級売買だけを狙え!地道な顧客が軽視される。
カダフィ大佐のリビアも13億ドルをあっという間に蒸発させてしまう。
アホな顧客を「マペット」と呼び、カモにしたことをおおっぴらに喜ぶ社員とその上司。
ヨーロッパの銀行システムの大崩壊を予言するレポートを少数の顧客向けに配布する一方で、ロンドン支店のトレーディング各部は顧客たちに「ヨーロッパは今日こそ買いです」と助言する。
ギリシャ政府に対して、デリバティブを売買することで政府債務を隠蔽する方法を伝授し、隠蔽しきれなくなると今度はヘッジファンド各社に対して、どうやってギリシャの混乱で儲けるかを説明する。
ヨーロッパ経済がメルトダウンの危機に瀕しているときに、狼狽えた顧客たちから手数料をむしり取ったことを吹聴しあうゴールドマン・サックスのロンドン支店社員たち。
(気功を習っている人たち、俺ももう一度やろうかな)
ウォール街の金融機関は損をしない。
それは「情報の非対称性」に由来する。
世界中の最も頭のよいヘッジファンド、オープン型投資信託、年金基金、国富ファンド、一般企業のための売買を扱っているのだから、どこの誰が「売り」と「買い」のどちら側についているかを知っているのだ。
カジノ側が客の手札を知っているようなものだ。
しかもカジノに対する規制よりはるかに監視も記録も求められず(デリバテイブの場合)透明性は限りなく低い。
本書の最後にグレッグが言う。
徳川家広 訳
講談社
米スタンフォード大学に全額給費留学生として渡米、ゴールドマン・サックスに入社したのが2001年、社屋の近くでトレードセンターが崩壊するのを目撃する。
才能と努力によって20代後半にヴァイス・プレジデント、32歳でロンドン支店に異動となり、欧州、中東、アフリカ向けのデリバティブ事業責任者として業績をあげるが、2008年金融恐慌以来の社風の劣化に疑問を感じて2012年退職。
「なぜ私はゴールドマン・サックスを辞めるのか」と題した論文をニューヨークタイムズに寄稿。
そのゴールドマン・サックスを中途退社したエリートの話なんてイマサラジローかもしれないが、どこかの書評をみて読みたくなった。
読んで面白かった。
南ア出身の素朴・純真な秀才が青年らしい野心をもって世界最高の投資銀行に憧れてインターン(学生時代の夏休みに研修生となるシステム)として、ライバルたちと楽しくも厳しくシノギを削る生活から、入社後に先輩たちからシゴカレ愛され成長していく日々が等身大、要所におけるセリフも生々しく、ユーモアもたっぷりに語られて、まるで映画を観るようだ。
グレッグの気取らない性格には好感も覚える。
もっとも、無我夢中で会社のために仕事をしているグレッグも、顧客に株を薦めるとき、とくに新規公開事業に参画するときなどはどうしても利益相反をしてしまうことにチラッと疑問を感じてはいたのだが。
お客も大人なんだ、自己責任だと、自分を納得させる。
生き甲斐を感じていた日々は2008年のリーマンショック以来、輝きを失っていく。
最高の報酬に惹かれてやってきた最高の頭脳の作ったプログラムは想定外の事態に対応できず後戻りのできないところまで疵をひろげてしまう。
社員の評価はすべて名前の脇に表示される「総貢献度」という彼らが関わった収益の累積数字のみとなる。
エレファント級売買だけを狙え!地道な顧客が軽視される。
カダフィ大佐のリビアも13億ドルをあっという間に蒸発させてしまう。
アホな顧客を「マペット」と呼び、カモにしたことをおおっぴらに喜ぶ社員とその上司。
ヨーロッパの銀行システムの大崩壊を予言するレポートを少数の顧客向けに配布する一方で、ロンドン支店のトレーディング各部は顧客たちに「ヨーロッパは今日こそ買いです」と助言する。
ギリシャ政府に対して、デリバティブを売買することで政府債務を隠蔽する方法を伝授し、隠蔽しきれなくなると今度はヘッジファンド各社に対して、どうやってギリシャの混乱で儲けるかを説明する。
ヨーロッパ経済がメルトダウンの危機に瀕しているときに、狼狽えた顧客たちから手数料をむしり取ったことを吹聴しあうゴールドマン・サックスのロンドン支店社員たち。
ウォール街の金融機関は損をしない。
それは「情報の非対称性」に由来する。
世界中の最も頭のよいヘッジファンド、オープン型投資信託、年金基金、国富ファンド、一般企業のための売買を扱っているのだから、どこの誰が「売り」と「買い」のどちら側についているかを知っているのだ。
カジノ側が客の手札を知っているようなものだ。
しかもカジノに対する規制よりはるかに監視も記録も求められず(デリバテイブの場合)透明性は限りなく低い。
本書の最後にグレッグが言う。
世界金融危機から四年が経過したというのに、問題だらけの金融システムを正すための措置は、何一つ実施されていない。世界最大の民主主義国アメリカは、いったいどうしてしまったのだろう?大多数の普通の人々が傷つき、ゲームに不正を仕掛ける方法を会得した超少数派だけが金持ちになり、数年以内に再び世界経済に破局をもたらしかねないというのが、依然として金融システムの現状なのである。この大問題を解決しようとする政治的意思が存在しないことに、人々は怒りを爆発させるべきなのだ。「大多数の普通の人々が傷ついた」こと、これからも傷つき続けることに義憤を感じたグレッグの物語には説得力がある。
講談社
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蛸
at 2013-05-19 13:23
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システムは何所もかも同じ。いや、人の欲か、
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saheizi-inokori at 2013-05-19 19:23
蛸さん、私はもう少し人間を信じたいのですが、、、。
この本のご紹介を読んで、マイケル・ルイスを思い出しました。
佐平次さんが、以前に彼の『マネー・ボール』を紹介されましたが、かつて彼はソロモン・ブラザースに在職した際の経験を元元に『ライアーズ・ゲーム』や、最近では『ブーメラン』という著書を出しています。
もし未読でしたら、ぜひお奨めします。
リーマンもギリシャ危機も、実はその裏には、金儲けをたくらむ面々がからんでいるようです。
佐平次さんが、以前に彼の『マネー・ボール』を紹介されましたが、かつて彼はソロモン・ブラザースに在職した際の経験を元元に『ライアーズ・ゲーム』や、最近では『ブーメラン』という著書を出しています。
もし未読でしたら、ぜひお奨めします。
リーマンもギリシャ危機も、実はその裏には、金儲けをたくらむ面々がからんでいるようです。
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koro49 at 2013-05-19 21:39
娘と同年生まれなので、金融システムの難しいことは分からないけど、ス~ッと読みました。
結局は一部の人が動かす世界?
で、グレッグさんは、今何をしているのでしょう?
↓あちらの母も、こちらの母も、寿司は大好物です^^。
亀さんの登場、良かったですね♪
結局は一部の人が動かす世界?
で、グレッグさんは、今何をしているのでしょう?
↓あちらの母も、こちらの母も、寿司は大好物です^^。
亀さんの登場、良かったですね♪
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saheizi-inokori at 2013-05-19 22:36
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saheizi-inokori at 2013-05-19 22:38
koro49さん、さあ、なにをしてますか、今や有名人ですしやることはいくらでもありそうです。
寿司を嫌いなお母さんていないんじゃないかなあ^^。
寿司を嫌いなお母さんていないんじゃないかなあ^^。
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hisako-baaba at 2013-05-20 08:59
私の全く知らない世界ですけど、こう言う内部告発は貴重ですね。
saheiziさんが優しいから、奥様もその母上も実にお幸せですね。
サンチちゃん共々、いろんな刺激で、ボケ防止をして上げてくださいね。
亀さんが花のしたに居るなんて、素敵。
saheiziさんが優しいから、奥様もその母上も実にお幸せですね。
サンチちゃん共々、いろんな刺激で、ボケ防止をして上げてくださいね。
亀さんが花のしたに居るなんて、素敵。
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saheizi-inokori at 2013-05-20 10:04
hisako-baabaさん、まったく知らない世界、たしかに、でもどこかで知らない間につながっているのです。
そして損をしてます。株とかのことでなく。
そして損をしてます。株とかのことでなく。
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at 2013-05-20 10:27
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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keiko_52 at 2013-05-20 10:39
なかなかに世界は面白いっというか、絶望的っというか、
この世の正義はどこにあるのでしょうか?
この世の正義はどこにあるのでしょうか?
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saheizi-inokori at 2013-05-20 12:09
鍵コメさん、了解です。
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saheizi-inokori at 2013-05-20 12:10
keiko_52さん、絶望しないで生きましょうよ^^。
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LiberaJoy at 2013-05-20 15:51
>>顧客第一を社是として、社員個々の能力を大事にしながらもチームワークを貴ぶ魅力的な会社
私の前いた会社は、まったく金融ではありません。
出版ですから、メーカーですね。
同じようなことがありました。
もう、今ではまったくよい声は聞こえてきません。
悲しいですね。
人と会い、話を聞くことからすべてが始まりました。
それが、ぼくが辞める頃から、情報はネットで集めろ!! なんていう
指示が出され、編集者はPCを前にして仕事をするようになりました。
これじゃ、生きた情報なんて集まらない。
寺山修司ではないが「街へ出なくちゃ」だめです。
私の前いた会社は、まったく金融ではありません。
出版ですから、メーカーですね。
同じようなことがありました。
もう、今ではまったくよい声は聞こえてきません。
悲しいですね。
人と会い、話を聞くことからすべてが始まりました。
それが、ぼくが辞める頃から、情報はネットで集めろ!! なんていう
指示が出され、編集者はPCを前にして仕事をするようになりました。
これじゃ、生きた情報なんて集まらない。
寺山修司ではないが「街へ出なくちゃ」だめです。
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saheizi-inokori at 2013-05-20 20:19
LiberaJoyさん、私のいた会社も会議会議でパソコンで上手な説明画面を作れる人が重用されていきました。
現場第一というのはパソコン上の合言葉ではあっても実行する言葉ではなくなりました。
現場第一というのはパソコン上の合言葉ではあっても実行する言葉ではなくなりました。
by saheizi-inokori
| 2013-05-19 11:39
| 今週の1冊、又は2・3冊
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