『恋』『右』の語釈は?言葉の海を渡る舟を作る喜び 映画「舟を編む」

今朝の朝日に高橋源一郎が「シューカツ なんだかおかしいですよね」と題した論壇時評のなかで、「ユニクロでは新人研修までに、社長が定めた経営理念23か条を句読点に至るまで正確に覚えていないと、研修班ごとに連帯責任を問われる」ということを東洋経済の記事から引いて、そこに求められる若者の姿こそ今のシューカツにおいて必要な姿ではないかと書いている。
そこには自分の言葉で作り上げる「自分」の像はなく、会社(社会)が押しつける何者かの像しかない、とも。

そういう世の中は政治の問題であるとすれば、政治に語りかける言葉、自分の言葉を作り上げることが必要なのだ。
人の考えていることがわからないのは当たり前だよ。
だから言葉があるんでしょ。
言葉で語りかけなければ人の考えなんか分かりっこないよ。
閉じ籠り型青年・主人公・馬締(松田龍平)に大家のおばさん(渡辺美佐子)が喝をいれる。
辞書を作る、という仕事にほれ込んだマジメに
若い内に一生の仕事が見つかったなんて幸せなことだ
と我がことのように喜ぶのだ。

ホントにそうだ。
シューカツを乗り越え、一生の仕事を見つけた上に
板前修業に生き甲斐を見出す、思いやり深いカグヤ姫(宮崎あおい)と結ばれる、マジメは世にも幸せな男だ。

その幸せは、普通の若者が見向きもしない辞典編纂という仕事に価値を見出し、言葉に対するセンス・知識があり、周囲にそれを助ける善人たちがいるからでもある。
”変人”でなければそういう幸せを手にすることが出来ないかのようにもみえる。

人と人をむすびつける言葉について考え、辞典に編むということは、じつはそれに携わる人々を虜にするような、とても魅力的な仕事でもあるかのようだ。
限られた人々でチームを作る喜びもあるのだろう。
なんせ出世競争など無意味な集団だし。

「右」「恋」「ださい」、家にある辞書を引き比べてみたよ。

辞典編纂部にいる契約社員を演じる伊佐山ひろ子の渋さ、先輩社員のオダギリジョーの飄逸な演技、存在感を示す小林薫、若者の言葉を採集して微笑む監修者の先生・加藤剛とその最後を看取る糟糠の妻・八千草薫、、みんな楽しそう、新劇みたいな雰囲気もある。
『恋』『右』の語釈は?言葉の海を渡る舟を作る喜び 映画「舟を編む」_e0016828_19223331.jpg
上質なユーモアに富んだ、心が温かくなる映画だ。
前に紹介した、大漢和辞典の編纂に携わった原田種成のことを思い出した。
Commented by at 2013-04-25 13:25 x
初めっから自分の世界を探す旅しかしたことが無い。
だから、シューカツがどんなもん何だかわからない。
これは母方の代々の血ですが、どうも、息子達にも受け継がれているようです。
Commented by ジュ at 2013-04-25 15:18 x
蛸さんのコメント、いつも楽しいですね。
saheiziさまもご覧になったのですね。ほんとに新劇みたいな雰囲気もある映画でした。
「舟を編む」というタイトルに惹かれて・・・。
今、三浦しをんの原本を捜しに図書館行ったのですが、まだ見つけられないのです(*^。^*)
Commented by tona at 2013-04-25 15:37 x
俳優さんたちがどのように演じているのか、楽しみな映画ですね。本の方は強烈な印象でしたから。
Commented by saheizi-inokori at 2013-04-25 15:39
蛸さん一家のような人が増えてくれば世界は変わるのかもしれないですね。
Commented by saheizi-inokori at 2013-04-25 15:40
ジュさん、tonaさん、私は図書館に予約してあるのですがなかなか順番がまわってこないまま映画の方が先になりました。
Commented by koro49 at 2013-04-25 16:18
これ、読みたいし観たいと思ってました。
リンク先の本も面白そう。
でもな、映画館ないからな^^;
Commented by maru33340 at 2013-04-25 17:28
原作面白かったので、この映画も見たいと思ってます。
役者が良いですね。
Commented by saheizi-inokori at 2013-04-25 18:49
koro49さん、最寄^^。の映画館はどこですか。
本を読むしかないですね。温泉に入って。
Commented by saheizi-inokori at 2013-04-25 18:51
maru33340さん、原作は去年の9月に予約して現在336番目順番待ちです。
早く読めっての^^。
Commented by kuukau at 2013-04-25 22:20
買ったほうが早そう(^^)
どんな仕事でも努力が必要だと思うから、好きな事で努力したい。
好きな仕事で食べられるほど幸せな事はないから、と子供は好きな分野に進みましたyo。
Commented by 豆ママ at 2013-04-25 23:06 x
三浦しをんといえば、「仏果を得ず」が去年の九月頃から玄関の棚で待機中です・・・早く読まなきゃ。
突然ですが・・・私も蛸さまのコメント、愉しませていただいてます^-^
Commented by saheizi-inokori at 2013-04-26 09:24
空子さん、幸せなお子さんですね。
親も幸せというものです^^。
本は意地でも買いません^^。
Commented by saheizi-inokori at 2013-04-26 09:25
豆ママさん、蛸さん語、ときどきわからないこともあるんやけどね^^。
Commented by ginsuisen at 2013-04-26 10:30 x
この三浦しをんさん、美人でしかもすごい内容を書くので注目してます。
なんといっても「まほろ」シリーズ最高です。
ギョウテン役の龍平が、舟を編むでは、まったく別の役。
私も行こおっと。
Commented by saheizi-inokori at 2013-04-26 10:34
ginsuisen さん、原田さんとはずいぶん違うかもね^^。
Commented by polepole-yururin at 2013-04-26 19:40
一度見てみたい映画ですね。
変人って昔は普通と違うって思っていて、違和感持っていたんですが、最近変人って面白いって思うんです。人と違うから価値が見いだせる。普通の人なら言葉のきれいさを感じない。ニアンス、雰囲気、大事な事に気づかない。競争社会・全体主義には見えない大事さだと思います。
Commented by junko at 2013-04-26 22:11 x
Ciao saheiziさん
うわ、観たいなあ、この映画

社会は皆が一同に社会が決めた規律やら価値観に従うように求め、教育します
その方が、便利だからでしょ?
だから、それに外れる人が変人
自分の意見がマイナーに属しても、発言する人が変人
人間十人十色だというのに、、
自分の意見をまとめ、言葉にする能力は養わなければ、育たない大事な能力だと思います
変人の多い、そしてそれぞれの違いを認める世の中になりますように
Commented by saheizi-inokori at 2013-04-26 23:49
polepole-yururin さん、本当はみんな違うはず、みんなへン人なんです。それを隠して生きている。
息苦しいですね。
Commented by saheizi-inokori at 2013-04-26 23:51
junkoさん、私は変人になりたい!
え?なってるって?
junkoさんのほうがずっと^^。
変人同盟作りましょう!
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by saheizi-inokori | 2013-04-25 12:15 | 映画 | Trackback | Comments(19)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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