古本屋、古本、猫、そこに出入りする人々の怪しくも愉快な物語 出久根達郎「猫の縁談」

おれはな古本屋をつぶしてやるのさ。、、(略)
おれは古本屋を好かんのだよ。薄暗い店。怪しいような雰囲気。完全に時代を異にしているような気配。何を考えているのだかわからない店主。古本屋だけが体制に足並みを揃えていない。これが目ざわりなのだよ。
五つの短編のなかで一番長い「猫阿弥陀」のなかで、戦時中の特高が不思議な女主人公・古本屋に語るセリフ。

言えてるなあ、古本屋を経営している作家・出久根は、古本屋のこういうところが好きになったのだろう。
俺も好きだ。
ときどき”何を考えているのだかわからない店主”に、いわれなき怖れを感じることもあるけれど。
古本屋、古本、猫、そこに出入りする人々の怪しくも愉快な物語 出久根達郎「猫の縁談」_e0016828_1155144.jpg
子供の頃、古本屋には結核菌とか危険なバイキンがあるからと出入りを止められたから、なおのこと薄暗い怪しい雰囲気には惹かれるものがあった。
大学に入ってすぐにやったことはナップサックを買って神保町の古本屋街に行くことだった。
4人一部屋で、それぞれが隣の男の領分との目隠し兼壁にしていた本棚に買ってきた古本を並べると、古本屋より薄暗い寮室はいつもの名状しがたい奇妙な臭いに古本屋の匂いが加わってますます異界の趣きとなった。

古本屋、古本が身にまとう不思議な雰囲気は猫にもある。
猫は何を考えているのだろう。
人間のバカらしさを冷たいニヒルな目で観察して、あとでいつもの猫集会での噺のタネにするのだ。
古本屋、古本、猫、そこに出入りする人々の怪しくも愉快な物語 出久根達郎「猫の縁談」_e0016828_1243234.jpg
一筋縄ではいかない、異界にもっとも近い、いや、半分異界に身を置いているような古本屋、そこに出入りする客と猫の物語。

扇辰が独演会で朗読した出久根のエッセイに刺激されて奥沢の古本屋で買った本。
こういう連鎖を生むところが、胡散臭いのだ。

中公文庫
Commented by at 2013-03-08 12:33 x
ひょっとして、俺は犬かもしれん・・・・・
Commented by wildrose53 at 2013-03-08 14:31
出久根達郎さんの書いたものが好きだったのに、久しく離れたまんまで内容をすっかり忘れてしまっている、ということを思い出しました。
古本屋と猫は合いますね。古本屋と結核菌もよく合います。古本屋と4人一部屋の寮生活もぴったりですねえ。そのあたりの胡散臭さ、現代では失われてしまった香り。
「勝手にしやがれ」。ジーン・セバーグ、よかったなあ。以来、顔はゆるしてもらって、ヘアスタイルだけ勝手に頂戴しております^^;
Commented by LiberaJoy at 2013-03-08 15:19
古本屋で、今でもはっきりと覚えているのは板橋・大山の竹田書店。
ここは、なぜか雑誌のバックナンバーをたくさん置いていた。
買いまくりました。新刊本屋より、店主の特徴がはっきりとあらわれる。
今、ぼくの家の屋根裏部屋は、古本屋状態です。
仕事を辞めたら、ここに籠るのかなァ……。
Commented by kuukau at 2013-03-08 16:50
薄暗い店内、カビ臭い本の匂い、頑固そうな親父。
古本屋のイメージです。
今はブックオフで本を漁ることが多いかな。。ひたすら明るい。
Commented by tona at 2013-03-08 20:30 x
三上延の『ビブリア古書店の事件手帖』3巻を読みましたが、ここにも癖のある店主が少し出てきました。TVドラマでも観ています。
ブックオフしか入った事がないですが、雰囲気は全然違いますね。
Commented by polepole-yururin at 2013-03-08 20:33
わかります。古本屋のにおい、猫・・・わかるな〜。
私も古本を良く買います、アマゾンですが・・・においきつい本あります。特に古い本はすごいです。しばらく読めませんでした。
雰囲気すごく伝わります。
Commented by saheizi-inokori at 2013-03-08 20:34
蛸犬、ってあったっけ^^?
Commented by saheizi-inokori at 2013-03-08 20:39
ハルさん、ジーン・セバーグ?
知らない間に映ってましたね^^。
悲劇的な人生だったらしいなあ。
セシルカット、今の私はもっと短い。
Commented by saheizi-inokori at 2013-03-08 20:45
LJさん、古本屋を開業するってのもありかな^^。
私も人にあげないで持っていれば開業できました。
素人が古本屋を開業すると古本屋が来店(身分を隠して)してめぼしい本を買って行くのだそうです。「セドリ」という業界用語がそれです。
蔵書家が開業するケースが多くて価値のある本が安く出されているのを狙うのです。
この本で教わった知識です^^。
Commented by saheizi-inokori at 2013-03-08 20:47
空子さん、BGMが奥田ナントカの「ありがとう!」、目いっぱい明るいです。
でもスタッフの顔は暗いときがある。
「いらっしゃいませ、こんにちは!」と繰り返しながら書棚を整理しているときの目は暗い。
Commented by saheizi-inokori at 2013-03-08 20:50
tona さん、本屋とか本が登場するミステリを何冊か読んだことがありますが、筋も題名も忘れてしまいました。
古本屋はどうだったかなあ。
Commented by saheizi-inokori at 2013-03-08 20:52
polepole-yururinさん、古本のヨゴレや書き込みをいろいろ調べた写真入りの本がありました。
立ち読みで済ませましたが。
バッチイ汚れもあるのです、先日図書館で借りたのなんて気持ち悪かったですよ。
Commented by poirier_AAA at 2013-03-08 22:40
古本、実は苦手です。図書館の本も人の手の脂が指先に重くて、それが気になってカバーをして読んだりします。

でも何故か、古ければ古くなるほど手の脂を感じなくなるんです。染みも変色も本の個性と化して気にならなくなります。書き込みもちょっと面白いし、栞として使われていた紙切れにも想像力を刺激されます。(でもお菓子のカスとか髪の毛は論外)

中途半端に新しくて手垢がついているのがいけません。ブックオフは苦手です。
Commented by saheizi-inokori at 2013-03-09 07:40
poirieさん、潔癖、清潔に対するこだわりかたは変化するのですね。週に一度も風呂に入らずあかだらけのシャツを着ていた子供ないしは学生時代、毎朝パリッと白いシャツをきてプレスのきいたパンツ、宴会の前になんとか銭湯に入ろうとした、同じ自分が一日くらい風呂に入らなくても気にならなくなりました。部屋の汚れだけは気になりながら我慢してますが。
Commented by c-khan7 at 2013-03-10 18:40
古本屋さんに並んでる本には歴史がきざまれているので、尚の事、ストーリーに深みが増すのかも。
Commented by saheizi-inokori at 2013-03-11 20:41
c-khan7さん、以前その本を読んだ人の思いが残っているような気がすることがあります。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2013-03-08 12:06 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(16)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori