与太郎ってイイ奴だ 外は寒くても池袋演芸場はポカポカ

ことし初めての寄席は池袋二之席。
顔見せの初席はお金をもらっても行きたくない。

3時ちょっと過ぎに入ると文左衛門「手紙無筆」が始まったところ、満員なので屏風の陰から横顔がちらちら見えるのを眺め、一席終ったところで、「ごめんよごめんよ」粗忽長屋の八ツアンのように、うんざり顔の先客をかき分けて上手の通路に立つ。

市馬「雑排」猫八・子猫・親子でものまね、どっちも楽しい。
トリの小三治は、鏡餅の飾り方、近所の餅屋がつぶれたこと、面白くもない話で笑わせようとする芸人のこと
世の中、変わっちまって、もうだめですねえ、どうしますか、みなさん
それこそあまり面白くない、くり返しも多いマクラを20分近くやって、ネタ「初天神」に。
飴玉買うところをカットして凧揚げを、オトッツアンがじつに楽しそうにやってみせた。
短かったが満足満足。
マクラが短ければもっと満足。

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二之席から、昼夜の入れ替えなし、なのに夜席は8分の入りで始まる。

みんな良かった、という珍しい寄席。
さっと登場順に紹介すると、小権太「壺算」柳朝「子ほめ」が若手の活きの好さ、ホームラン・漫才、ヤツレタ顔してワビシイ噺で笑わせて、円太郎「つる」はこれをやった扇橋のことを案じさせ、仲蔵は漫談とマクラに使う小噺で逃げて
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(この写真、顎の肉がぶるんと動いたのかと思ったぜ)

馬生「無精床」菊丸「親子酒」はベテランの結構を堪能させて、その間に入った太神楽社中による「寿獅子」は眠気を覚まし、さん喬「締め込み」正楽・「紙切り」が場内の暖かさをキープして、一朝「四段目」はお約束、やってる方も聴く方も歌舞伎座気分。
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仲入り後、甚五楼「黄金の大黒」に続き正朝が与太郎というキャラクターについてイササカのコメントをした後、与太郎は必ずしもバカじゃないと、謎かけで兄貴分をひっかけて10円勝つという小噺扇遊「引っ越しの夢」が吊るし戸棚を担ぐ番頭と久七の表情・問答がことのほか可笑しく、志ん橋「首提灯のマクラ・試し切りと続くと、現代中堅落語家たちの芸風展のオモムキがあってまことに楽しい。

のいる・こいる「漫才」



ほとんどこの動画まんまのネタだが、スピードは半分。
ちょっと痛々しい空白もあったりして、ぎりぎりだな。
のいるの元気回復を祈る。

トリは、待ってました!お目当て権太楼
情けと恩は違うんです。
恩は恩に着せる、やったことを覚えているけれど、情けは忘れているのです。
本能寺の変に際し家康を助けた佃島の人たちの恩に感じて彼らの漁業を保護し、佃煮や末吉神社の祭りが今に続いている。
そんなマクラから、次郎兵衛が暮れ六つの終い船に乗ろうとする場面。
これを逃したら神田の店に帰れない。
「間違いでしたら勘弁してください」と言いながら袖にすがって乗船を阻む女。
5年前に金を落として身投げしようとしたときに助けてもらった上に3両を貰ったのが次郎兵衛だ。

引き留められて乗れなかった船が転覆して、乗ってた客は全員死んだ。
情けは人のためならず。

女の亭主・船頭の”剛毅朴訥仁に近し”の風、愛情細やかな夫婦。
助かっているとは知らぬ神田の留守宅は大騒ぎ。
長屋の衆が力を合わせ、遺体のないまま、通夜が行われ、長屋の衆は頓珍漢なお悔やみの言葉を並べる。
一人与太郎だけが
あたいはネ、ジロベーさんが好きだったよ。ジロベーさんだけが「与太さんはそれでいいんだよ」って、、みんなはバカにするけど、ジロベーさんだけが、、わ~!いやだいやだ、ジロベーさん返しとくれ
と号泣するのだ。

悋気の強いオカミサンをカットした権ちゃん版佃祭り。

普段よりいくらか出演者が多い分、水で薄めたようなマクラが影をひそめ、ネタもあちこち刈りこんで、それが噺家の腕の冴えを示すような、贅沢な5時間だった。


あがる噺家が口を揃えて「外は寒いですよ」と大仰に言ってたが、それほどのことはない。
久しぶりの友人と一杯呑めば、もっとそんなことはない。
「レ・ミゼラブル」はジャベール=パリサイ人(律法の人)とジャン・バルジャン=キリスト(愛の人)の葛藤だ
と、誰でも言いそうなことを喋くったり、エポニーヌが一番印象に残ったということでは意気投合したり、橋下の力の下にある子供たちは可哀そうだと言ってみたり、七面倒くさいネタにもかかわらず、酒(「大七」の燗、〆は黒ビールと白のハーフ&ハーフ)もウマかった。
Commented at 2013-01-19 19:22 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2013-01-19 19:48
鍵コメさん、良い天気で、よかった良かった^^。
Commented by 小言幸兵衛 at 2013-01-19 20:19 x
おやおや、Iさんと同じ池袋の昼夜通しですか^^
小三治と権ちゃんのダブル・トリとは、初寄席として文句なしですね。
こちらは、三三、そして一之輔でした。M女史とM夫妻との居残りが盛り上がりましたよ。
Commented by saheizi-inokori at 2013-01-20 10:07
小言幸兵衛さん、ちょっと前なら朝から並んで昼夜とも完全に見たのですが、さすがに。
Commented by hisako-baaba at 2013-01-20 10:42
「ウマい朝飯が食える超超お幸せなご隠居様の毎日が、巧みな筆さばきで楽しい楽しいブログ。
それにしても、びっくりなのがその健脚ぶり。東京地図を頭に浮かべて、え!そんなとこまで?とおどろくばかり。
素敵な日々をお過ごしですね。
ヤカンを蒐集している方があるなんて!?展示の仕方も素敵ですね。
落語、私もDVDでいいから聞きたくなりました。
これからも、お幸せな毎日の描写を楽しみにしております。
Commented by saheizi-inokori at 2013-01-20 11:50
hisako-baabaさんの健脚、活躍にも感嘆していましたが、どうぞ早く全快なさりますように!
Commented by 豆ママ at 2013-01-20 14:06 x
ん~~、もう一度行きたい。今日も大入りなんでしょうね。
・・・・小三治さんも入り過ぎ、って仰ってました・・・。
Commented by at 2013-01-20 18:23 x
市馬「雑排」。聴きたかったなァ。この噺、大好きなんです。
「春雨」といえば「船底(船端)をがりがり齧る春の鮫」なんて、ずらすところが面白くて。基本は新作だった柳昇(偉そうなことを言うようですが、~と言えば今やわが国では私一人です、の方)はこの古典の名手だったと記憶しています。
Commented by saheizi-inokori at 2013-01-20 18:49
豆ママ さん、夜の部はそれほどじゃないようですね。
私は一度で満足します^^。
Commented by saheizi-inokori at 2013-01-20 18:51
福さん、柳昇はとぼけた味が捨てがたいですね。
市馬はいかにも福々しく初雪などの句を楽しませてくれました。
その時その時でいろんな句や歌が出るのがこのネタの楽しみです。
Commented by ほめ・く at 2013-01-22 10:34 x
調べてみたら『雑俳(ざっぱい)』とは、川柳をはじめ、洒落附、地口、ものは附など、江戸時代に大流行した言葉遊びの総称だそうです。
今でもやっておられる方々もいて、こんな例が載っておりました。

題「数字入り名詞一切」
四国で仏に会う(これは地獄に仏のシャレでしょうね)
都会離れて知る空と海

なかなか乙なもんですね。
Commented by saheizi-inokori at 2013-01-22 11:54
ほめ・くさん、こういう遊びを楽しめる人と一杯呑みたいものです。
昔、熟語合戦などはやりました。紅白、黒白、慶弔、軽重、、お互いに書いていくのです。
しりとりの歌合戦なんてのも^^。
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by saheizi-inokori | 2013-01-19 12:42 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(12)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori