ポール・コリア―「収奪の星 天然資源と貧困削減の経済学」

大切な自然を私たちは台無しにしている。これによって最も痛手を被るのは、世界で最も貧しい人々である。この人たちにとって、この状況には生死に関わるような機会と脅威の両方が潜んでいる、、自然をどのように活用すれば、先進国に過大な要求をすることなく貧しい国々の現状を変えられるか―これが本書のテーマである(はじめにから)
ポール・コリア―「収奪の星 天然資源と貧困削減の経済学」_e0016828_93189.jpg
自然資産は誰のものだろうか?
ブラジルの熱帯雨林はブラジルのものだから、それを焼こうと刈ろうとブラジルの勝手なのだろうか。
それは地球全体にとって貴重なものだとすれば、ブラジルより上位の何かが決定権を持つべきなのだろうか。
いやそれとも、そこで暮らして生計を立て、この資産を維持してきた人々のものなのかもしれない。

現実には自然資産は略奪される。
ひとつはある国の国民全員のものであるべき自然資産が一握りの人間の利益に供される形での略奪。
もう一つはあらゆる世代のものであるべき自然資産が現世代の利益に供される形での略奪。

自然資産は使ってもいいけれど、同等の価値を残して使うように管理されなければならない。
その場合、問題を引き受ける人々が、それに伴う科学的な問題や経済的な問題について妥当な範囲で十分な情報を持ち合わせていることが必要だ。
ポール・コリア―「収奪の星 天然資源と貧困削減の経済学」_e0016828_117624.jpg
たとえば2005年から08年にかけて、世界の基礎食料価格は80パーセント以上も高騰し、最貧国のスラムでは子供たちが飢えかかっているが、このような悲惨な事態をもたらしたのは、自然をめぐっての富裕国に広まりつつある共同幻想に原因がある。

その共同幻想とは、
1・小農礼賛

 技術革新に支えられた大規模農業でなければ最底辺の10億人を救うことはできない。
家族農業も生き残るだろうが商業的農業が必要だ。
妥当な入札制度など土地取引の適正な管理を前提として、食料の輸出禁止に対してはWTOによる罰則を規定することも必要だ。

2・遺伝子組み換え作物の禁止

 ヨーロッパにおける反米主義と結びついた遺伝子組み換え作物の輸入禁止は、生産性の伸びを鈍化させ、研究活動を停滞させ、アフリカ各国をパニックに陥れ「緑の革命」に必須の化学肥料の使用にもブレーキがかかった。
遺伝子組み換え技術なしに、アフリカの食料生産を人口増加に見合うペースで拡大するのは絶望的に困難である。

3・バイオ燃料ブーム

 穀物から燃料を作ると、得られるエネルギーとほぼ同等のエネルギーを使ってしまう。
補助金狙いの穀物利益団体は非効率な見苦しい行為をやめようとせず、アメリカの穀物のおよそ3分の一がエネルギーに転換されてきた。
アメリカはどうしても石油をやめてバイオ燃料に切り替えたいなら、ブラジルのサトウキビを使った方がずっと効率がいいのに、国内生産を保護するために、それを制限している。
ポール・コリア―「収奪の星 天然資源と貧困削減の経済学」_e0016828_119653.jpg
これら三つの共同幻想を排することが、世界の食料問題解決に欠かせない。
アメリカとヨーロッパが互いに譲歩すること。
ヨーロッパが遺伝子組み換え作物の禁止を撤廃する見返りに、アメリカはエタノール補助金を打ち切ることは双方にとって腹立たしくはあっても得になるはずだ。

商業的・科学的な農業に対する環境保護主義者の敵意を打破するのは難しいけれど、最貧国の飢餓のことをもう一度熟考するべきだ。
アメリカの一人当たりエネルギー消費量はヨーロッパの倍なのだ。
欧米の指導者は、ポピュリズムに惑わされないように、最底辺の10億人の国々にとって切迫した、子どもたちの飢えという事態を救うために共同歩調を取るべきだ。
ポール・コリア―「収奪の星 天然資源と貧困削減の経済学」_e0016828_1173083.jpg
(こういう字を書く人が一国の総理になっていいのだろうか)

環境保護主義者と経済学者が手を組んで自然を活用した開発をめざすためには、うるわしい幻想を捨てるという困難な選択を避けて通るわけにはいかない。

資源富裕国で民主主義は機能するか。
資源をもっている新興国が貧困に陥るのは「資源の呪い」なのか。
魚は自然資産か。
、、、。
資源の探査、政府によるその価値の確保、資源収入の消費、貯蓄、投資まで、その活用のための決定の連鎖を跡づける。
経済学や統計学、フイールドワークを通して具体的に論証している。

興味深いテーマなのだがなかなか頭に入っていかない。
頭が悪くなったのかもしれない。

村井章子 訳
みすず書房
Commented by at 2012-09-20 14:04 x
簡単な話、人間のエゴです。
無ければ無いなりに先人は生きて来ましたが、それは物がなかったから、
物の無い世界に戻らないと・・・、人は学べません。
Commented by saheizi-inokori at 2012-09-20 14:44
問題は最底辺飢餓線上の人たちをどう救うかです。エゴを捨てるとして何をどのようにするか。具体的科学的な方法が問われます。自然保護を叫ぶだけではダメなようです。
Commented by sweetmitsuki at 2012-09-20 19:07
尖閣諸島周辺の海底に眠るといわれている地下資源も、ニンゲンのものではなく海の神さまのものですよね。
地下資源は掘り尽くしてしまえばそれで終わりで、あとには魚一匹住まない死の海が残るだけですけど、今のまま残しておけば豊潤な海の幸を恒久的に供給できます。
あの島はあのまま個人所有のままでよかったんです。
それをあの馬鹿ヨットマンのせいで・・・
あの時そのまんまが勝っていれば、こんなことにはならなかったのに!
Commented by saheizi-inokori at 2012-09-20 20:43
sweetmitsukiさん、そのまんまもどうかとは思いますがね。
まあ、それほどのことはやらないでしょうが。
Commented by tocotoco-o3po at 2012-09-20 21:10
そうですね・・・残念ながら人間のエゴですね。
争いの発端は、領土問題や資源の奪い合い・・・あとは、宗教ですね・・・。

原子力も人間が扱い切れないもの・・・生命の大いなる母である海にも大地である土も放射能で汚染してしまって、かなしくなりますね・・・。
本当人間っておこがましいです。

尖閣諸島や竹島の領土問題のニュースも見るたびに悲しい気持ちになります。
Commented by saheizi-inokori at 2012-09-20 21:55
tocotoco-o3poさん、資源があることが最貧国にとって有害なんだそうです。
ガバナンスの問題!
Commented by たま at 2012-09-20 21:58 x
花の画像は、「ギボウシ」(=またの名を「ウルイ」)でしょうか。
高地は開花が早いのですね
Commented by saheizi-inokori at 2012-09-20 22:06
たまさん、ギボウシ、東京で観るのより色が濃いような気がします。
Commented by poirier_AAA at 2012-09-20 22:28
すみません、よくわかりません。

>アメリカの一人当たりエネルギー消費量はヨーロッパの倍なのだ。

それならアメリカが消費量を抑えて、それを貧しい国に回せば良いという話ではないんですよね?

>遺伝子組み換え技術なしに、アフリカの食料生産を人口増加に見合うペースで拡大するのは絶望的に困難である。

いまや、こういうところまで来てしまっているんですか。
Commented by saheizi-inokori at 2012-09-21 10:40
poirier_AAAさん、アメリカはエタノール補助金を交付してまで穀物を石油代替に使わずにその穀物を食料に使うべきだ、補助金を別の目的に使うべきだと、そうすれば世界の食物の価格上昇が抑えられる。
この人には「世界最底辺の10億人」という著書があるようです。
富裕国の有機農法とか家族経営農法を求めるのは共同幻想だというのですね。
たしかに廃棄ロスだけでも年間5千万人分という日本人に毎日飢えと必死に戦っている人たちのことは頭の中で抽象的につながっても具体的な数字としては理解しにくいですね。
遺伝子組み換え作物が売れないということでアフリカの大規模農業が経営できなくなっているのも大きいと本書では指摘しています。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2012-09-20 11:10 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori