「私はガンになったんだもの。あなたはそうじゃないんだから」     村田喜代子「光線」

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作者は3・11の直前にガンが発見されて、手術を逃れ鹿児島で放射線による四次元ピンポイント治療を受けて、無事ガンを消す。
そのことを冒頭の「光線」に書く。
妻の子宮体ガンを気遣い、見守る夫の書いた文章になっている。
そうすることで妻の孤独がはっきりと浮かび上がる。
夫の孤独も。
愛があるゆえの孤独。

ふたりで共闘し、最善の治療法を選び取る。
その治療を受けるところまでが「光線」、間に「海のサイレン」という魚津に蜃気楼を観に行ったときのことを書いた短編をはさみ、もうひとつの「原子海岸」ではガンが消えて同病者との”同窓会”旅行に夫婦で参加したことが描かれる。

俺は亡妻をガンで死なせたときのことが一行ごとに思い出される。
どうして小説の中の夫のようにもっと徹底的に調べて、この治療を受けさせなかったのだろうかと悔やむ。
しかし小説にあるようにそれまでの主治医が放射線では治らない、いったんその治療を受けると再照射手術はできないと断言したら、迷っただろうなあ、とも思う。
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ぜんぶで八編が連作のような形で収録されている。
作者は震災の起こる二年前に、「土地の力、地の霊力というようなものについて」連作で書き継いでみないかと、言われて本書にも収録した「関門」「夕暮れの菜の花の真ん中」を書いたそうだ。
そのあと、3・11と自身のガン体験があったのだ。
あとがきで
私が鹿児島の火山灰の舞う町で日々めぐらせた思いは、これもまた一つの3・11に続く体験というしかない。原発への恐怖と、放射線治療の恩恵と、太陽を燃やし地球を鳴動させる巨きな世界への脅威である。
 ともかく地震と津波・原発事故によって、地霊はどこかに吹っ飛んでいる。いや、「地」はすでにずたずたになっている。
と書いている。
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俺は村田の小説が好きで、「蕨野行」「夜のヴィーナス」「故郷の我が家」「八つの小鍋」などは本ブログにも紹介したし、「名文を書かない文章講座」「人をみたら蛙に化れ(なれ)」「百年佳約」「尻尾のある星座」なども読んだ。

彼女の小説は、どれも地から生まれ、地の力を受けて、地に死んでいく者たちの物語が根っこにあるような気がする。
だからいつも「土地の力、地の霊力というようなものについて」書いているように感じる。
その「地」がずたずたになってしまったのはえらいことだ。
ましてそういう時にガンを戦うのはさぞかし大変だっただろうと思う。
だけど、本作品集は、どこかその辛さ・心もとなさを軽くみなしてひょいひょいと生きていくような、明るさを感じさせる。
地の力に生かされて、その地がずたずたになってもなお、地に生きていくことを達観しているような明るさだ。

何といっても彼女は幸運だったんだし。
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なによりもどの短編も面白い。
それが作者の最大の魅力だ。

文藝春秋
Commented by tonkoid at 2012-09-10 16:56
早速読んでみます。

福島は癌死亡と自殺と心疾患が日本一になってしまいました。
Commented by saheizi-inokori at 2012-09-10 18:27
tonkoidさん、痛ましい犠牲ですね。
既にガンまで!
Commented by poirier_AAA at 2012-09-10 19:15
佐平次さん、村田喜代子がお好きでしたか。ちょっと嬉しい。
実はわたしも「蕨野行」がとても気に入って、ただそれだけの理由でこの作者に特別な気持ちを持っていたのです。
癌で闘病されていたことは知りませんでした。

この本、読んでみたいです。
Commented by saheizi-inokori at 2012-09-10 21:06
poirier_AAAさん、九州に住んで九州のやまのなかのことなど、独特の世界を書くのですね。
「人を見たら、、」「百年、、」のような長編も力強くてひきつけられます。
ガンになって手術を受けない計算もしっかりしていて教えられました。
Commented at 2012-09-10 21:21
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2012-09-10 21:29
鍵コメさん、薬は使い方を誤ると怖いですね。
気をつけましょう。ありがとう。
Commented by junko at 2012-09-11 17:54
CIao saheiziさん
わたしも読んでみたくなりました

地霊、地の力を信じる人の潔さ 真摯な思い
そう云うものって、闘病のような困難に遭った時、助けになるような気がします
わたしもね、母を失ってから、何度もsaheiziさんの考えたようなこと考えましたよ
Commented by saheizi-inokori at 2012-09-11 22:09
junko さん、癌研、最高の治療実績と言われたのですがあまりいいとは思えませんでした。
病気を相手にしていても病人不在でした。
ホスピスに行って人間を取り戻しましたよ。
Commented by kaorise at 2012-09-12 00:05
タイトルの私はガンになったんだもの、あなたはそうじゃないんだから、という言葉は著者の実際の言葉でしょうか、、
他者に発した言葉かしら?だとしたらガンも裸足で逃げ出す怖いキャラですねえ。
四次元ピンポイント治療というのがあるんですか〜知りませんでした。
ちょっと調べてみたいです。
Commented by saheizi-inokori at 2012-09-12 09:27
kaoriseさん、そうじゃないのですよ。
妻が十数秒間の放射線治療にかかるときに夫がその部屋から妻をおいて(当たり前)でるときに治療中の妻の孤独を気にしたときに妻が答える言葉です。「いいの気にしないで、、」と。
上に私が書いた夫婦の孤独、愛ある孤独と書いたのに関わる言葉です。

4次元ピンポイント、ネットで調べればすぐにわかります。
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by saheizi-inokori | 2012-09-10 10:48 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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