あんま、あっちぇてもうぐれそげらて 橋下の教育改革を許すな 内田樹「昭和のエートス」

あんま、あっちぇてもうぐれそげらて
越後の方なら懐かしい?
「あんまり暑くて頭がおかしくなりそう」という意味だって、朝日歌壇に載っていた歌で知りました。
方言はいいですね、いっとき暑さを忘れましたよ。
俺が昔母から教わったのは
You might think but today‘s hot fish
だ。

古来、銷夏法の代表としては読書があげられるが、それとてこちとらの気力体力が伴わないとダメで、それ以前におもしろい本に巡り合わないと、読書のつもりがスヤスヤ昼寝に直行だ。
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先日来、二度ほど引用した本書は最適の暑さ凌ぎとなった。
読み始めは涼しい小淵沢だったけど猛暑の東京でも楽しく読めた。

いろいろな媒体に書いたエッセイや小論文を集めたもので、それぞれが今の俺の問題意識と重なる事柄だから、どこから読んでも面白くて、すぐ一編を読み終えるから「あと1ページの法則」が適用されないのも精神衛生上めでたい。
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(冒頭の数行だけをカバーにして中身を教えずに売る、「ほんのまくら」フェア~書き出しで選ぶ百冊)

貧困、教育、憲法、文学、哲学、、話題は広がるがいずれも現在の我々が直面している問題を、一歩下がってというか、掘り下げてというべきか、その問題の寄って来る所以を考えて、巷間言われている解決策なり解釈が、実はずいぶん根拠のないものであったり、危なっかしいものであることを解き明かす。
読後、もやもやとしていたものがすきっとするのだ。

たとえば橋下の「競争至上、効率至上」の教育改革論に対して感じていた強い、これは許せないという反感は、直観的な面があった。
内田は「市場原理から教育を守るために」という文章で、明快に橋下(=現在の大勢)の教育観を否定する(橋下の名は出てこないが)。

文章が書かれたころ世の中を賑わしていた、高校の世界史未履修問題から始まる。
当時『世界史は覚えなければいけないことが多い』から受験に不利で、世界史を履修しないことを擁護するような論調が多かった。
総じて日本人の全員が教育を費用対効果というタームで語ることを当然のように思っているという精神の荒廃
を内田は嘆く。
「費用対効果」というビジネスの用語で教育を語ることは断じて許されないと、俺も同感だ。
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「市場が必要としない教育機関は淘汰されるべきだ」(大学は企業ではない)、「学校は国家有用な人材を育成すべきだ」(学校は工場ではなく、学生は製品ではない)、「学士号の国際共通性」(人間は乾電池ではない)、、。
学校教育、とりわけ公教育は市場原理を貫徹させるために生まれたものではない。むしろ市場原理が人間生活の全場面に貫徹することを阻止し、親と企業による収奪から子どもたちを保護するために誕生したものである
だから近代の憲法は、子どもを資本主義の市場原理にさらすなと命じている。

「こんなことを勉強してなんの役に立つのか」と訊く親と子、教育評論家やメデイアさえも。
それこそ教育を消費者マインドで捉えているのだ。
消費者は自分がその有用性と価値を知っているものしか買わない。しかし、教育はその本義からして、子どもたちにはその有用性も価値も理解できないものを子どもたちに理解させるための動的なプロセスである。学びを通じてしか、人はおのれが学びつつあることの意味について語ることができない。だから、「賢い消費者」たらんとして教育の場に臨み、費用対効果で教科の意義について考慮する生徒たちは、そのマインドセットそのものによって『学び』から構造的に疎外されることになる
「市場原理からどのようにして学校を守るか」、それが教育再生の真の課題であると考えるが、同意してくれる人は絶望的なまでに少ない、と内田は結ぶ。
俺は同意する人だ。

国家有用な人材、受験の秀才、効率的な教育効果を一身に浴びてきた連中がリードしてきた結果がフクシマ、そして今じゃないか。
なぜこの期に及んで橋下の”教育改革”を許すのか。
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(沖縄の記事↓に誘われて八重山そば)

カミュとサルトルの論争、白川静が教えてくれたこと、憲法9条改正を主張する人はアメリカとの戦争も想定するのか、、昨日紀伊国屋をぶらついていたら文庫化していたからよほど買おうかと思ったが、待てよ、それより本書によって教えられた本を読む方が先かと思い直した次第。

バジリコ
Commented by 小言幸兵衛 at 2012-08-28 21:37 x
越後長岡出身の連れ合いは、冒頭の越後弁、もちろん分かりました^^
「もうぐれる」は「頭がおかしくなる」の意らしいです。
「暑い」は「あっちぇえ」と語尾が上がるようです。ハハハ!
『昭和のエートス』は文庫で出たばかりのようですね。読みます。
Commented by saheizi-inokori at 2012-08-28 22:20
幸兵衛さん、いちど生でお聞きしたいものです^^。
Commented by ほめ・く at 2012-08-28 22:55 x
あっしが習ったのは
You might or more head today's some fish.
でした。
Commented by poirier_AAA at 2012-08-28 23:01
>冒頭の数行だけをカバーにして中身を教えずに売る

売る方も買う方も楽しめる企画ですね。どっちかというと売る側で楽しみたい気がします。でも、失敗覚悟で買ってみたら大当たり、なんて出会いもいいです。
Commented by saheizi-inokori at 2012-08-28 23:11
ほめ・くさん、ほとんどローマ字読みですかね。
暑さ凌ぎはheadをつかわなきゃね^^。
Commented by saheizi-inokori at 2012-08-28 23:12
poirier_AAAさん、さっと見た限りほとんど中身を当てられないのがグヤジかった。
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by saheizi-inokori | 2012-08-28 11:36 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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