傍目には楽しそうな高原の旅も実は、、

富士見高原の満天の星と涼しい風に別れて東京に戻ると、炎熱地獄、閉めきった部屋のすさまじさ。
洗濯物を干して病院へ。
墓参りに行くころから、カミサンの顎あたりにシコリが出来て痛くて硬いものが噛めない。
耳鼻咽喉科、口腔外科などでレントゲンや血液検査などをやっても診断がつかず２１日にＣＴ検査をするまで家にいてイジイジ心配しているより痛み止めと抗生物質を飲みながら旅行に行っていようとなった。
医者もあまり期待せずに念のために出した（俺がワイワイいうものだから）薬がよかったのか、旅行中症状が軽くなり、本人は病気を忘れたように楽しげにしていた。
俺もそれに付き合って冗談をいったり、いつもなら行きたくないアウトレットにも行き、何回か普通は喧嘩するような場面もあったが、仲良きことは美しき哉と武者小路精神に徹してやり過ごした。
だが内心は四日間休まることがない。

なにかフワフワと、刑の執行猶予中みたいな心持ち、仲睦まじき家族連れなどをみて、俺たちは別の世界にいるような感じがしてしまう。
北野武の「花火」で死ぬ前に二人で旅行するタケシと岸本加代子はこんな感じで旅行していたのか、アイツらはお互いにはっきり死を覚悟していたんだけれども。
俺たちは、たとえ悪い方へ悪い方へと考えてもカミサンには、それをおくびにも出さず、いつまでもこういう楽しみが続くかのように「今度は娘や孫と来よう」などという会話が多かったのだ。
テニスコートのベンチに寝転がって瞬く星空を眺めているときがもっとも心が落ち着き慰められていた。
ＣＴの結果、、、骨には異常なく腫瘍も疑われず、単なる炎症だ。
この解放感！
ヘナヘナ・脱力感そういう年齢のせいか今年はカミサンのガン騒ぎがこれで三度め。
加えて義母の頭の手術もあって俺のストレスもかなりなものだ。
こんど無事ガンを回避出来たら厄落としを兼ねて金に糸目をつけず豪勢な旅行でもしてやろうと思っていたが、いざ喉元を過ぎたら、元のケチケチ根性が甦って、近所の寿司屋で祝杯をあげてすませた。
それにしてもカミサンは先生の説明がほとんど頭に入らず、俺に「私、大丈夫だったの？」と訊く始末。
今までのガン騒動のときの最終判決を下した先生は、ニッコリ笑って、大丈夫です、と結論から言ったのだが昨日の先生は難しい顔をして順に説明をした。
途中で言葉づかいが分からないのを質問した俺に何か勘違いしたらしく、「だんだんに説明するから待ちなさい」と叱るような調子で言ったものだから、てっきり悪い話だろうと思い込みそれから頭のなかが真っ白になったらしい。
さもありなんとも思う。
俺が倒れたときはちゃんと聞いてて欲しいものだ。