彼らが人間としてすがたを見せてくるまで執拗に記録を読んだ 若桑みどり「クアトロ・ラガッツィ」(上下)

サンチと散歩をして帰ってシャワーを浴びるついでに風呂の壁や床の掃除、ちょっと見にはきれいなようだがよく見ると裾の方が汚れている。
ほっとくとちっとやそっとでは落ちなくなるのは心のヨゴレと同じ、今ならさっと落ちるけど。

もう一度汗をかいてシャワーを浴びるとさすがに疲れてブログを書く元気が減退。
さっと書くには惜しい本、それだけにちゃんと書こうとすると気力体力が要る。
今朝はさわりだけ。
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「天正少年使節と世界帝国」が副題。
東京芸大卒業の筆者は1962年に船に乗ってローマに留学。
30数年、ミケランジェロを研究して”年来の知己のように”彼のことがわかってきた。
だが、そのことがむなしかったのだ。
彼は白人男性で、16世紀のイタリア人であり、私は現代の日本人だからだ。、、、日本人として西洋と日本、究極、このいまの私と結びつくことを研究したい。
そうして再びヴァティカンに行き、「東アジアへのキリスト教布教についての第一次資料」を探して古い大学図書館などの古文書を漁って、天正の少年使節にぶつかって、調べて調べて、考え抜いて7年かけて書き上げたのが本書だ。
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1549年ザビエルの来日以来のキリスト教布教にはどういうポルトガル人やスペイン人、イタリア人が関わったのか。
受け入れる日本の大名、庶民はどういう人たちだったのか。
信長や秀吉はキリスト教をどうしようと考えたか。
高山右近がどんなに優れた人物だったか。
天正の少年使節はどのようにして選ばれどういう少年だったか。

使節たちを迎えるスペインやローマ、ヨーロッパの内情はどうだったのか。
かれらはどれほど感動してどういうやり方で使節を迎えたか。
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使節が教皇と会って多くの土産(知的なものも)を持って帰ると大村純忠や大友宗麟も亡くなり信長から秀吉になっている。
せっかくルネサンスの世界を知った少年たちはどのように押しつぶされていったのか。
その過程を学ぶことは今の日本人にとってどういう意味があるのか。
少年使節のローマ派遣とはどういう世界史日本史的意味をもつのか。

日本側からだけだけではなくヨーロッパの側からも眺める(筆者がミケランジェロの”知己”にして可能なことだ)。
キリスト者の立場でも、非キリスト者の立場でも、天皇や将軍・大名の立場でも、商人や農民の立場でも考える。
それは公平であろうということではなくて
まったく異なったふたつのものが出会って、稀にみるこの時代ができあがったのだから
必須の複眼的思考なのだ。
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筆者が書いたのは
歴史を動かしてゆく巨大な力と、これに巻き込まれたり、これと戦ったりした個人である。このなかには信長も、秀吉も、フェりぺ二世もトスカーナ大公も、グレゴリオ十三世もシスト五世も登場するが、みな四人の少年と同じ人間として登場する。彼らが人間としてすがたを見せてくるまで執拗に記録を読んだのである。時代の流れを握った者だけが歴史を作るのではない。権力を握った者だけが偉大なのではない。ここには権力にさからい、これと戦った無名の人びとがおおぜい出てくる
上下1020ページを夢中になって読ませたのは、少年使節、ヴァリニャーノ、オルガンティーノ、信長、秀吉、ガラシャ夫人、シスト教皇、トスカーナ大公、名もなき殉教者、、登場人物たちが”人間としてすがたを見せて”、俺の前で喜び、苦しみ、泣き、怒ってみせたからだ。

使節4人の内、ひとり教皇に会えなかった(東方からの三人の使節としたかった?)中浦ジュリアンがさいごまで固くキリスト教を信じて穴吊りの刑(むごい!)で死ぬ最後はとくに感動的だ。
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それにしても不思議なのは、本書を初めて手に取ったのは2.3年前だったが、そのときは上巻の半分くらいを読んだだけで他の本に移ってしまった。
それが、今度読み直してみたら、筆者と一対一で話を聴いているような気持ちになって、あっという間に読んでしまった。
何ごとも一度であきらめないことだなあ。
図書館にばかり頼っているとこういう幸せはないのが問題だ。

集英社文庫
Commented by cocomerita at 2012-08-15 18:58
Ciao saheiziさん
不思議なんだけど
本ってその本を読んだ時のその時の私たちの気分というか...
その時の成熟度というか...すごく影響すると思うのです
だから私は、気に入った本は、必ず読み返します
それが何年後かであったとしても...
読解が、全く違うのが興味深いのです

結局、私たちって自分たちの見たいものを見、読みたいものを読みとる、聞きたい言葉を聞こうとする
のかもしれませんね 笑
Commented by saheizi-inokori at 2012-08-15 21:08
cocomeritaさん、そうですよ、この本もたくさん付箋をつけてあって、それが読み直すと何でつけたのか分からないのです。
難しいと思った本も何かのキーワードが分かるとすいすい読めたりしますね。
Commented by たま at 2012-08-15 23:33 x
私の知合いは、キリイタン大名の豊後藩・大友氏がローマに遣わし、帰国後に不遇の死を遂げた「ペトロ・カスイ・岐部」の末裔と聞きました由。
大分の銘菓「ザビエル」もしかり・・・?
Commented by ginsuisen at 2012-08-16 07:46 x
すごい、完読されたのですね。そうか、文庫本になっているのですね。
私のは電話帳ほどの厚さの本です。若桑先生(完全に私が勝手に思っているだけです)は、この本で大仏次郎賞をとられました。圧倒的な記念講演を横浜まで聞きに行きましたっけ。マシンガントークというほどに間髪入れずの講演は毎回、驚きの連続でした。女性たちは生年月日を公開したがらないが、それはおかしい。西暦で生年月日を公表することで、その人が歴史の中でどう生きてきたかの端が見えるのに・・印象的な言葉でした。そして、あのころ、マリア像研究をしていて、いずれ書くとおっしゃっていたのです。それが遺書となった「聖母像の到来」。
今の日本の現状を見たら、先生はまたカッカと血がのぼっていたことでしょう。
私も重たい本、もう一度ひもとかないと!
Commented by saheizi-inokori at 2012-08-16 09:23
たまさん、ペトロ・カスイ・岐部は天正の少年使節たちより後に江戸時代にマカオに行ってそこから一人でエルサレムにも行った人ですね。
殉教覚悟で帰国して拷問・穴吊りに堪え斬首されたそうです。
Commented by saheizi-inokori at 2012-08-16 09:25
ginsuisen さん、女性の権利や差別に対する激しい糾弾もあり、ユーモアもあり、鋭い観察、毒舌・・やさしさ、、魅力的な人ですね。ほんとにもう少し生きて欲しかった。
Commented by ginsuisen at 2012-08-16 10:25 x
追記です。ちょっと思い出した若桑先生エピソード。
毎日ヴァチカンの資料室に日参していた先生は、法王に謁見が許されたそうです。そのとき、しっかり顔をあげ、目を見てしまったとか。
いずこと同じで、神の存在の方には顔を見てはいけないのだとか。今頃、あちらの国で、神さま相手に講義しているかなー。
Commented by saheizi-inokori at 2012-08-16 11:32
ginsuisen さん、法王といえども小さな人間というのが昨日見た映画のテーマでしたよ↑。
ふたりでざっくばらんにこの世批判しているでしょう^^。
Commented by maru33340 at 2012-08-17 05:56
私も以前読みかけて、挫折した口です(笑)
読み返してみようかしら。
Commented by tona at 2012-08-17 09:31 x
この本は買う前に挫折しました。長いですものね。
でここで内容を知ってとても良かったです。
塩野七生の「神の代理人」でいろいろな法王を知りましたが、映画の法王、天正少年使節のことといろいろ興味深いです。
1昨日若桑みどりの「フィレンツェ」を買ってきましたが、とても一気には読めそうにありません。
Commented by saheizi-inokori at 2012-08-17 14:21
maru33340さん、二度目は何で挫折したのか、不思議なほどスラスラ読めました。
”時”があるのでしょうね。
Commented by saheizi-inokori at 2012-08-17 14:23
tona さん、遠い旅ですね。機中でどうぞ。
私もかつて司馬遼太郎の「空海の風景」をアメリカ旅行の間によみ終えました(一度目)。旅の空に合う本だと思います。
Commented by c-khan7 at 2012-08-20 00:37
図書館に頼りっぱなしです。。
しかし、侍がヨーロッパへ行くということ、
それだけで、すごい冒険だったんでしょうね。
Commented by saheizi-inokori at 2012-08-20 17:33
c-khan7 さん、生きて帰るだけでも奇跡的だったようです。
母一人子一人の使節もいて母はかなり苦悶したという話も載っていました。
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by saheizi-inokori | 2012-08-15 12:02 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(14)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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