人生はすばらしい物語なのだ たとえ悲劇の連続であっても ジョン・アーヴィング「あの川のほとりで」

ただ父さんについていけばいいんだね
深夜、熊が父を襲っているのだと勘違いして、父の恋人を8インチの鋳鉄フライパンで撲殺してしまった12歳の少年がいう。
そうだ
父が言って二人の逃避行が始まる。
殺された女はダン少年を母のように愛してくれていた。
なぜかカナダ人渡り労働者の膝を撃ち抜いてカナダへ追いやることを喜びとする、クソったれカウボーイ・保安官・カールと同棲してもいた。
親友・ケッチャムは留まってハッタリでごまかせと忠告したけれど二人は”あの川のほとり”=ニューハンプシャーの樵たちが働くツイステッド・リヴァー、を離れる。
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ダン、ダニエル・バチャガルボの母もこの川で溺れて死んだ。
”事故の起こりがちな世の中”なのだ。

父・ドミニク・バチャガルボのワケアリ親友にして父子たちの保護者でもある、豪快な自然児にして天使のような優しさと本当の知性を秘めたケッチャムが「俺が物心ついてからずっと、この国は衰退の一途を辿る帝国だった」というアメリカ。
そこでほぼ俺と同時代を生きる父子の”事故だらけ、喪失の連続”の人生。
それはしかし、歓びにも感動にも満ちた素晴らしい人生でもある。
待ち構える悲劇の予感さえその喜びを亡きものにはできない。

あり得ない、驚きに満ちたエピソードはまざまざと人生の真実をリアルに物語るのだ。
人は物語の主人公であることによって生きているのではないか。
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(だいぶ大きくなった鴨一家にもどれだけの物語があることか)

久しぶりのジョン・アーヴィング、たっぷり楽しませてくれた(ときには涙がこみ上げてきたり)。
ダニーとともに暮らしている、ものすごい屁をひるベア・ハウンドだったウォーカー・ブルーティック(その名もヒーロー)、ケッチャムに飼われていたときに熊に腰を引っかかれたたためにうまく歩けなくなっているし、ジャーマンシエパードとの最後の対決(ヒーローが勝った)で片目のまぶたがなくなっている、その老いたる英雄に一度会いたいものだ。
サンチはびっくりして座りションベンしてしまうかも。

父はコック、料理の好きな人にも味わいどころは多い。

ダニーは自分たちの物語を物語にして世界的作家になる。
ストーリーテラー・ダニーの小説作法を書くことによってアーヴィングの作家の秘密の一端を覗かせてくれたような気になる。
この小説の書き出しを工夫していくプロセスが描かれているんだから、サーヴィス精神に富んだ作家だ。
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小竹由美子 訳
新潮社
Tracked from 官庁エコノミストのブログ at 2012-07-26 19:32
タイトル : ジョン・アーヴィング『あの川のほとりで』上下 (新潮社)..
ジョン・アーヴィング『あの川のほとりで』上下 (新潮社) を読みました。「訳者あとがき」に従えば、アーヴィングの第12作だそうです。私はこの作者の作品は処女作『熊を放つ』と代表作『ガープの世界』の2本しか読んだことがないんですが、『あの川のほとりで』は『ガープの世界』と同じく、主人公である作家の人生を跡づける自伝的な雰囲気を持たせた代表作のひとつと受け止めています。まず、出版社のサイトから小説のあらすじを引用すると以下の通りです。 少年が熊と間違えて殴り殺したのは、父の愛人だった! ハートフルで壮大な...... more
Commented by 散歩好き at 2012-07-26 14:01 x
今年はチョウゲンボウが巣立って10日目で狩をするのを見ました。カルガモは小さくして外に出てこの大きさになるまでながいですね。
Commented by 官庁エコノミスト at 2012-07-26 19:34 x
誠に申し訳ありませんでした。
ちょうだいしたトラックバックはスパムに分類されていましたので、復活させておきました。
重ねてお詫び申し上げます。
Commented by saheizi-inokori at 2012-07-26 22:59
散歩好きさん、毎朝姿が見えないかと、見えたら見えたで欠けていないかと気がかりです。
Commented by saheizi-inokori at 2012-07-26 23:00
官庁エコノミスト さん、突然ですみませんでした。
よろしく。
Commented by kuukau at 2012-07-27 09:13
毎日聞こえる犬の鳴き声。
今朝、お散歩に連れ出されているのを見て安堵したところです。
ーby お節介おばさん
Commented by saheizi-inokori at 2012-07-27 11:29
kuukauさん、今朝はいつもの老夫婦がお父さんだけ、「おやおひとりですか」
「ええ」ちょっとさびしそうでした。
何ごともなければいいのですが。
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by saheizi-inokori | 2012-07-26 10:41 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(1) | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori