敢えて一之輔に苦言を J亭 一之輔独演会
2012年 06月 23日
神谷町で降りて、ホテル・オークラの向かい側、アメタイの四囲にある警察官立哨所のおまわりさんに「専売公社はどこですか?」と尋ねるといぶかしげな顔をした。
「ああ、JTですね、ほれ、あの高いビルがそうですよ」
アメタイの大きな銀杏(写真・左)を見ながら坂を下りるとJTビル(正面)だ。
カメラを構えるとおまわりさんの視線を感じる。
アメリカデイゴが貧相に咲いている。
JTホールは二階。
J亭 白酒・三三・一之輔 月替わり独演会”春シリーズ”の”春風亭一之輔独演会”、予約チケット完売とあったが思いがけない幸運で入手。
開口一番は林家つる子「桃太郎」
正蔵の6番弟子ということだが、ひどい。
いくら前座でも客の前に出せるレベルではないと思う。
最初は誰でも下手なんだから、我慢して聞いてやらなきゃとも思うが、それなら7時の開始時間前にやらせるとか逆に一之輔の出を遅らせてそういう売り方をすればいいのだ。
一之輔が、一昨日、急に「前座を誰にするか?」と訊かれて、たまたまそこにいたつる子を指名したこと、大学の落研でいろんな賞を取っていたのに、正蔵門を叩いたのは、その魂胆・上昇志向に感心するとか、「中途半端に可愛い、噺家だったらいいじゃん」などとセクハラまがいのいびり。
林家に対する皮肉は後の出でもあって、おや、一之輔のこういうのは初めてだ。
なんだかおもしろくもない(ゲラ子さんたちにはうけていたが)マクラをだらだら、つる子で冷え切った空気をもてあましているふうでもあった。
ネタは「加賀の千代」
借金が返せない、おかみさんは亭主の甚兵衛に隠居に頼んで借りてこい、あんたは隠居に可愛がられているんだから、朝顔だって可愛がられたら釣瓶をそのままに貰い水するくらいなんだから、と教養のあるカミさんだ。
隠居のところに顔を出す甚兵衛、戸の隙間から覗くその顔が「可愛い」。
そうかあ、つる子が「可愛い」というマクラはここにつながるのか。
後半、ようやくエンジンがかかって、座ったままもう一席。
春の会といわれても6月、台風も来てるのに「長屋の花見」をやるわけにはいかない、といって「船徳」
船宿の親方に呼ばれた船頭たちが、親方の小言かと思って、それぞれ思い当たる失敗を兄貴分に白状するくだりをまったくカット。
その代りに、若旦那を「徳」と呼び捨てにせよと言われて逡巡するところをたっぷり。
俺はそこが気にくわない。
船頭たちの毎日、親方やオカミサンと作り上げている、今は失われた懐かしい世界を覗くのもこの噺の魅力のひとつだと思うから。
そして俄か船頭になった徳さんの竿や櫓の扱いぶり、手拭いを絞って鉢巻きにするところなどは、当世はやりのオーバーな身振りで笑いを誘う。
やればやるほど笑いは大きくなるから噺家それぞれに、俺流の仕草の開発だ。
こんなものをいくら熱演してもしょうがないんとちゃうか。
船頭・徳さんばかり汗をかいても、畳の上の水練みたいで、肝心の大川の水の流れ、たゆとう船の風情が伝わらない。
あの、タバコをつけようとしてつけられない抱腹絶倒の場面も、静かな流れ、うだるような暑さのなかで揺れる船を感じさせなきゃ価値は半減だ。
ふたりの客のまとっている、吉原や船宿で蕩尽する豪奢な日々、その源泉たる金の匂いなどもこの噺の大事な要素なのだが、一之輔も単に滑稽な被害者コンビとしてしか描ききれない。
放蕩児ゆえに勘当された徳三郎の属する富裕な世界とサービスする側の人々、その対比、場としての大川の風情が見どころ聴きどころでもあるのじゃないか。
想像力などいらない、誰でもわかる、その場その場の笑いを少しでも盛大に!
一之輔に限らず今の多くの噺家がはまっている陥穽だが、天才一之輔なら乗り越えると信じたい。
客の力も必要だ。
今のまんまでも、今のまんまの方が多くの客にウケるから怖い。 仲入り後、小太郎「鷺取り」
明るく陽気な噺、雀の描写がおもしろかった。
さいごは一之輔。
来年は三人のうちに残っているかな、菊六と代わっているかも、と言って「猫久」
先日、湯島で聴いたばかり。(噺の動画あり、クリックしてください)
「ざるや?」「のまざるや、ざるやより上等だ」、、大笑い、聴いたばかりでも大笑い。
たしかに一之輔は達者だ。
「ああ、JTですね、ほれ、あの高いビルがそうですよ」
アメタイの大きな銀杏(写真・左)を見ながら坂を下りるとJTビル(正面)だ。
J亭 白酒・三三・一之輔 月替わり独演会”春シリーズ”の”春風亭一之輔独演会”、予約チケット完売とあったが思いがけない幸運で入手。
開口一番は林家つる子「桃太郎」
正蔵の6番弟子ということだが、ひどい。
いくら前座でも客の前に出せるレベルではないと思う。
最初は誰でも下手なんだから、我慢して聞いてやらなきゃとも思うが、それなら7時の開始時間前にやらせるとか逆に一之輔の出を遅らせてそういう売り方をすればいいのだ。
林家に対する皮肉は後の出でもあって、おや、一之輔のこういうのは初めてだ。
なんだかおもしろくもない(ゲラ子さんたちにはうけていたが)マクラをだらだら、つる子で冷え切った空気をもてあましているふうでもあった。
ネタは「加賀の千代」
借金が返せない、おかみさんは亭主の甚兵衛に隠居に頼んで借りてこい、あんたは隠居に可愛がられているんだから、朝顔だって可愛がられたら釣瓶をそのままに貰い水するくらいなんだから、と教養のあるカミさんだ。
隠居のところに顔を出す甚兵衛、戸の隙間から覗くその顔が「可愛い」。
そうかあ、つる子が「可愛い」というマクラはここにつながるのか。
春の会といわれても6月、台風も来てるのに「長屋の花見」をやるわけにはいかない、といって「船徳」
船宿の親方に呼ばれた船頭たちが、親方の小言かと思って、それぞれ思い当たる失敗を兄貴分に白状するくだりをまったくカット。
その代りに、若旦那を「徳」と呼び捨てにせよと言われて逡巡するところをたっぷり。
俺はそこが気にくわない。
船頭たちの毎日、親方やオカミサンと作り上げている、今は失われた懐かしい世界を覗くのもこの噺の魅力のひとつだと思うから。
そして俄か船頭になった徳さんの竿や櫓の扱いぶり、手拭いを絞って鉢巻きにするところなどは、当世はやりのオーバーな身振りで笑いを誘う。
やればやるほど笑いは大きくなるから噺家それぞれに、俺流の仕草の開発だ。
こんなものをいくら熱演してもしょうがないんとちゃうか。
船頭・徳さんばかり汗をかいても、畳の上の水練みたいで、肝心の大川の水の流れ、たゆとう船の風情が伝わらない。
あの、タバコをつけようとしてつけられない抱腹絶倒の場面も、静かな流れ、うだるような暑さのなかで揺れる船を感じさせなきゃ価値は半減だ。
ふたりの客のまとっている、吉原や船宿で蕩尽する豪奢な日々、その源泉たる金の匂いなどもこの噺の大事な要素なのだが、一之輔も単に滑稽な被害者コンビとしてしか描ききれない。
放蕩児ゆえに勘当された徳三郎の属する富裕な世界とサービスする側の人々、その対比、場としての大川の風情が見どころ聴きどころでもあるのじゃないか。
想像力などいらない、誰でもわかる、その場その場の笑いを少しでも盛大に!
一之輔に限らず今の多くの噺家がはまっている陥穽だが、天才一之輔なら乗り越えると信じたい。
客の力も必要だ。
今のまんまでも、今のまんまの方が多くの客にウケるから怖い。
明るく陽気な噺、雀の描写がおもしろかった。
さいごは一之輔。
来年は三人のうちに残っているかな、菊六と代わっているかも、と言って「猫久」
先日、湯島で聴いたばかり。(噺の動画あり、クリックしてください)
「ざるや?」「のまざるや、ざるやより上等だ」、、大笑い、聴いたばかりでも大笑い。
たしかに一之輔は達者だ。
人を気持ちよく笑わせるというのは難しいことなのですね。
話はずれますが、国内の旅でのガイドさんですが、昔と違って笑わせる点で随分質が上がって、私的には80%は当たりです。
苦笑いでなくて本当に上手いのです。私なんか逆立ちしても出来ないです。
話はずれますが、国内の旅でのガイドさんですが、昔と違って笑わせる点で随分質が上がって、私的には80%は当たりです。
苦笑いでなくて本当に上手いのです。私なんか逆立ちしても出来ないです。
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saheizi-inokori at 2012-06-23 20:20
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たま
at 2012-06-24 00:27
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「ノウゼンカズラ」(凌霄花)に「紅」があるのですネ。
そういえば、虎ノ門のあれは「アメタイ」(米国大使館)と呼ぶのですか?
学生時代の博多では、「ベイリョウ」(米国領事館)あるいは「ベイテイ」(米国帝国)と呼んでいました由。
そういえば、虎ノ門のあれは「アメタイ」(米国大使館)と呼ぶのですか?
学生時代の博多では、「ベイリョウ」(米国領事館)あるいは「ベイテイ」(米国帝国)と呼んでいました由。
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saheizi-inokori at 2012-06-24 09:01
たまさん、このあたりではこの色が多いですよ。
アメタイ、清水谷公園、日比谷公園、、もちろん国会議事堂、私はノンポリといってもよかったけれど何回かはデモに参加した、懐かしい響きです。
アメタイ、清水谷公園、日比谷公園、、もちろん国会議事堂、私はノンポリといってもよかったけれど何回かはデモに参加した、懐かしい響きです。
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tonkoid at 2012-06-24 23:17
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saheizi-inokori at 2012-06-25 09:34
tonkoidさん、沖縄の歌にはデイゴはよく登場します。
県花です。琉球大学に合格すると「デイゴサク」と電報が来るそうです。
県花です。琉球大学に合格すると「デイゴサク」と電報が来るそうです。
by saheizi-inokori
| 2012-06-23 10:42
| 落語・寄席
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