日本よりひどいアメリカの末期的症状 チャルマーズ・ジョンソン「帝国解体 アメリカ最後の選択」
2012年 06月 17日
筆者、チャルマーズ・ジョンソン(1931~2010)、愛称チャルについて本書の末尾に妻のシーラが「回想ーチャルの知的変遷」という短い文章を書いている。
チャルは、1931年という大恐慌の年に生まれたことと、「支配者集団に加わらず」にちゃんと生計を立てていこうと決意していたことで、彼の知的衝動は適度に抑えられ、それが保守的に見えたけれど、一貫して急進的な人だった由。
本書を勧めるにあたって、ジョンソンの知的変遷を知ることはとても意味があるように思うので、少し紹介する。
1962年「中国革命の源流」で、中国農民は共産主義の主張に誘惑されたというより、日本軍のひどい略奪行為から逃れるために毛沢東に加わったのであり、それに続く内戦にも基本的には民族主義的な理由で勝ったと書いた。
1961年から62年のあいだ、日本で日本語を学びながら、中国のゲリラ闘争を単なる軍事理論として考えることを否定して「一般的な政治経済的要素を考慮しなければならない」という博士論文を書いた。
神保町の古本屋の主人と仲良くなって、ゾルゲ事件の尾崎秀美のことを知り、尾崎が日本の中国侵略戦争に深い懸念を抱き、敵を支援する決意に至る経緯に大きな影響を受け、1966年に「尾崎・ゾルゲ事件ーその政治学的研究」を上梓する。
(父の日プレゼントのなかにサンチの友だちがいた!)
1966年には「革命的変化」を出版。
1973年「人民戦争の解剖」で、毛沢東の文化革命は現代的な革命がそうであるように中国国内の内戦であり、賢明な国家は介入すべきではない、もし介入に失敗すれば革命に成功した国を敵に回すと書いた。
当時、チャルが教えているバークレイの学生たちの多くはまじめな毛沢東主義者になっていたけれども。
チャルはバークレイの中国研究センターの所長を務めながらCIAの国家情報評価部のコンサルタントも務めた。
それは中国やベトナムに関して、もっとも正確な報告の一部が手に入るからだった。
1972年「松川での陰謀」を書き、占領期の左翼を取り巻く日本警察のあり方とアメリカの介入について物語った。
さらに1982年に「通産省と日本の奇跡」を公にするが、これは日米双方から攻撃される。
日本からはジャパン・バッシャーだと言われ、アメリカに日本式の政府主導型の経済発展を取り入れろという主張は新自由主義の支配するアメリカの容れるところではなかった。
1996年、日本政策研究所所長のチャルは、沖縄県知事に招待された帰途、東京の外国人記者クラブで前年に起きた米兵による少女暴行事件について
1999年「沖縄ー冷戦の島」を出版。
2000年3月「ブローバック」を出版。
アメリカが世界中で帝国主義を展開(自国の国民に知らせず、大統領の憲法違反・越権的行為で)し、多くの国を侮辱し、善意を当然のようにうけとっていることに対する「勘定書が予測よりずっと早く支払期限が迫り、予想を超えて根底を揺さぶるような形で支払が求められることになるかもしれない」という警告の書だった。
本書は、9・11後、本屋の書棚から消えてしまうほど売れ始める。
2004年1月「アメリカ帝国の悲劇」は、ジョージ・W・ブッシュがチェイニー、ラムズフェルドを率い、その他のネオコンおよび右翼の高官のすべて戦争愛好者、産軍共同体とともに、アメリカを断崖のぎりぎりに引っ張って行ったことを告発するために書かれた。
2007年「ネメシスーアメリカ共和政の最後の日々」では、帝国ーとくにローマ帝国と大英帝国ーに関する様々な分析を整理して考察を進め、アメリカは民主的国家としてとどまるのか、それとも軍事独裁国家になるかの選択を迫られるだろうと予言した。
そして、本書。
2010年4月、署名するのがやっとの状態で出版された本書は
アメリカ帝国の解体のための10か条の提言。
米軍基地が地球上で犯してきた深刻な環境破壊をやめ、環境汚染の責任から逃れようとする地位協定を結ぶことをやめること。
拷問をやめること。
世界中の軍事居留地についてまわる非戦闘従軍者、扶養家族、国防総省の文民職員、ペテン師などーそれに伴う高額な医療設備、居住施設、プール、クラブ、ゴルフコース、等々の、どんどん長く伸びていく行列を削減すること。
軍事組織は雇用や科学研究や国防の面で、われわれにとって重要だという軍産複合体が進める神話を崩すこと(原子力ムラ神話を思わせるなあ)。
世界最大の武器弾薬輸出国であることをやめ、拷問の技術や軍事クーデターやアメリカ帝国主義の代理人サービスについても第三世界の軍部に教育することをやめること。
常備軍の規模を減らし、長期治療を要する負傷兵士や戦闘でストレスを経験した兵士にもっと有効な対処をすること。
外交政策の目的を遂行するための手段として軍事力に頼ることは不適切であり、放棄すること。
などなど。
9・11を予測したチャルの白鳥の歌にアメリカは耳を傾けるのだろうか。
危険なオスプレイが遮二無二配備されることの背景にあるグロテスクな産軍共同体。
イラクにあった人類の歴史遺産の破壊と略奪(タリバンの石仏破壊などとは比べ物にならない)をもたらし、アフガニスタンとパキスタンのテロリストを喜ばせることしかしなかったアメリカ。
本書のどこを読んでも、アメリカという理性を失った、あたかもシーベルト星人に冒されたような魔物がのたうちまわって、世界に破壊と混乱をもたらすばかりではなく、アメリカ自体を破滅の淵に追いやっていることが明示される。
鳩山政権が普天間基地の国外移転をあきらめたことについて「アメリカは傲慢な態度を捨て」「65年間も辛抱してくれた沖縄住民に感謝すべきだ」と書いている。
だらしない鳩山であり、それ以上にどうしようもない野田=原発推進=シーベルト星人政権であるが、まだ、アメリカよりはましかもしれない。
時間の問題かもしれないが。
「ショック・ドクトリン」も併せて読むと迫力満点、絶望感もひとしおか。
訳 雨宮和子
岩波書店
チャルは、1931年という大恐慌の年に生まれたことと、「支配者集団に加わらず」にちゃんと生計を立てていこうと決意していたことで、彼の知的衝動は適度に抑えられ、それが保守的に見えたけれど、一貫して急進的な人だった由。
本書を勧めるにあたって、ジョンソンの知的変遷を知ることはとても意味があるように思うので、少し紹介する。
1961年から62年のあいだ、日本で日本語を学びながら、中国のゲリラ闘争を単なる軍事理論として考えることを否定して「一般的な政治経済的要素を考慮しなければならない」という博士論文を書いた。
神保町の古本屋の主人と仲良くなって、ゾルゲ事件の尾崎秀美のことを知り、尾崎が日本の中国侵略戦争に深い懸念を抱き、敵を支援する決意に至る経緯に大きな影響を受け、1966年に「尾崎・ゾルゲ事件ーその政治学的研究」を上梓する。
1966年には「革命的変化」を出版。
1973年「人民戦争の解剖」で、毛沢東の文化革命は現代的な革命がそうであるように中国国内の内戦であり、賢明な国家は介入すべきではない、もし介入に失敗すれば革命に成功した国を敵に回すと書いた。
当時、チャルが教えているバークレイの学生たちの多くはまじめな毛沢東主義者になっていたけれども。
チャルはバークレイの中国研究センターの所長を務めながらCIAの国家情報評価部のコンサルタントも務めた。
それは中国やベトナムに関して、もっとも正確な報告の一部が手に入るからだった。
1972年「松川での陰謀」を書き、占領期の左翼を取り巻く日本警察のあり方とアメリカの介入について物語った。
さらに1982年に「通産省と日本の奇跡」を公にするが、これは日米双方から攻撃される。
日本からはジャパン・バッシャーだと言われ、アメリカに日本式の政府主導型の経済発展を取り入れろという主張は新自由主義の支配するアメリカの容れるところではなかった。
アメリカ政府はレイピニストであり、日本政府はポン引きだと言い放つ。
1999年「沖縄ー冷戦の島」を出版。
2000年3月「ブローバック」を出版。
アメリカが世界中で帝国主義を展開(自国の国民に知らせず、大統領の憲法違反・越権的行為で)し、多くの国を侮辱し、善意を当然のようにうけとっていることに対する「勘定書が予測よりずっと早く支払期限が迫り、予想を超えて根底を揺さぶるような形で支払が求められることになるかもしれない」という警告の書だった。
本書は、9・11後、本屋の書棚から消えてしまうほど売れ始める。
2004年1月「アメリカ帝国の悲劇」は、ジョージ・W・ブッシュがチェイニー、ラムズフェルドを率い、その他のネオコンおよび右翼の高官のすべて戦争愛好者、産軍共同体とともに、アメリカを断崖のぎりぎりに引っ張って行ったことを告発するために書かれた。
2007年「ネメシスーアメリカ共和政の最後の日々」では、帝国ーとくにローマ帝国と大英帝国ーに関する様々な分析を整理して考察を進め、アメリカは民主的国家としてとどまるのか、それとも軍事独裁国家になるかの選択を迫られるだろうと予言した。
2010年4月、署名するのがやっとの状態で出版された本書は
残念なことには、独立した自治政治組織を維持するために、自ら他国支配を放棄した帝国は過去においてわずかしかない。最近の最も重要な例は、イギリスとソ連の二つの帝国だ。その例からなにも学ばなければ、アメリカの衰退と崩壊は、近い将来、必然的に起こるという文章で終わる。
アメリカ帝国の解体のための10か条の提言。
米軍基地が地球上で犯してきた深刻な環境破壊をやめ、環境汚染の責任から逃れようとする地位協定を結ぶことをやめること。
拷問をやめること。
世界中の軍事居留地についてまわる非戦闘従軍者、扶養家族、国防総省の文民職員、ペテン師などーそれに伴う高額な医療設備、居住施設、プール、クラブ、ゴルフコース、等々の、どんどん長く伸びていく行列を削減すること。
軍事組織は雇用や科学研究や国防の面で、われわれにとって重要だという軍産複合体が進める神話を崩すこと(原子力ムラ神話を思わせるなあ)。
世界最大の武器弾薬輸出国であることをやめ、拷問の技術や軍事クーデターやアメリカ帝国主義の代理人サービスについても第三世界の軍部に教育することをやめること。
常備軍の規模を減らし、長期治療を要する負傷兵士や戦闘でストレスを経験した兵士にもっと有効な対処をすること。
外交政策の目的を遂行するための手段として軍事力に頼ることは不適切であり、放棄すること。
などなど。
9・11を予測したチャルの白鳥の歌にアメリカは耳を傾けるのだろうか。
イラクにあった人類の歴史遺産の破壊と略奪(タリバンの石仏破壊などとは比べ物にならない)をもたらし、アフガニスタンとパキスタンのテロリストを喜ばせることしかしなかったアメリカ。
本書のどこを読んでも、アメリカという理性を失った、あたかもシーベルト星人に冒されたような魔物がのたうちまわって、世界に破壊と混乱をもたらすばかりではなく、アメリカ自体を破滅の淵に追いやっていることが明示される。
鳩山政権が普天間基地の国外移転をあきらめたことについて「アメリカは傲慢な態度を捨て」「65年間も辛抱してくれた沖縄住民に感謝すべきだ」と書いている。
だらしない鳩山であり、それ以上にどうしようもない野田=原発推進=シーベルト星人政権であるが、まだ、アメリカよりはましかもしれない。
時間の問題かもしれないが。
「ショック・ドクトリン」も併せて読むと迫力満点、絶望感もひとしおか。
訳 雨宮和子
岩波書店
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c-khan7 at 2012-06-17 16:21
日本も大人の国歌として一人立ちしないとね。
0
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saheizi-inokori at 2012-06-17 17:07
c-khan7さん、子供でいるのが一番楽、明烏に出てくる太助のセリフでしたっけ?
by saheizi-inokori
| 2012-06-17 13:35
| 今週の1冊、又は2・3冊
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