野垂れ死にどころか  「野垂れ死に」   藤沢 秀行  新潮新書


野垂れ死にするつもりだったのだ。棋界最悪の酔っ払い。競輪競馬で億単位の穴を開けた借金王。女性問題続出、我が家に3年間帰らなかったこともある。その上、胃、リンパ腺、前立腺と三度のガンを患う。それが今80歳。66歳のときに王座位を奪還して奇跡といわれた男が語る痛快な半生記だ。

破天荒というべき生き方だが、全てに”徹しきる”。酒は飲んでも飲まれるな、とは良く聞く言葉だが彼は「酒に飲まれるべし」をモットーとする。ウイスキーを一晩に二本も三本も飲んでも、翌日碁盤に向かえば碁に集中した。そうなのだ、ハチャメチャな中で碁に対する愛情が何よりも凄い。碁に対する信念が彼を今まで支えてきたのだと思う。というより豪放磊落な反面にある繊細な神経が碁と向き合っていく為にアルコールの助けを必要としたのだ。碁は芸であり勝ち負けの問題ではない。「自分には生涯、碁が分かることは無い」と悟り「無悟」と揮毫する。

次から次へと愉快なエピソードが繰り出される。感嘆する。胸がスーッとする。すがすがしいのだ。テレビなどでいろんな有名人のスキャンダルが繰り返し報道されるが、どこかじめじめした陰湿な、小さな人間たちの愚かな話という感じがする。秀行ジイさんの話にはそういうところは微塵もない。スキャンダルの塊なのにテレビや週刊誌の枠に収まりきらない大きさがある。志の高さがあるからだと思う。誰かに褒めてもらう、などというチンケナ志ではなく自分自身が納得していく為の、そのために後輩や碁と言う”この道”を大事にしていく志。

志が高いからといって家庭を犠牲にすることが許されるとは思わない。こういう天才を支えてきた奥様の偉さが書かれている。これまた凄い!秀行さんも奥様だけには頭が上がらないようだ。
野垂れ死にどころか  「野垂れ死に」   藤沢 秀行  新潮新書_e0016828_23363658.jpg

トラックバックURL : https://pinhukuro.exblog.jp/tb/181046
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Tracked from Melody Talk at 2005-07-18 00:59
タイトル : 棋士 藤沢秀行と妻モト : にんげんドキュメント
→「にんげんドキュメント」 2005年2月にNHKで放送された『にんげんドキュメ... more
Tracked from 図書室たき火通信 at 2005-11-29 22:13
タイトル : 「勝負師の妻」読了
勝負師の妻―囲碁棋士・藤沢秀行との五十年藤沢 モト / 角川書店囲碁も将棋もほとんど知らないので、この本を読むまで棋士の「すごさ」もわかっていませんでした。1回の対局で、棋士ははこんなにも消耗するものなのか・・・と驚きます。そし...... more
Commented by ごまめ at 2005-07-18 01:06 x
はじめまして。記事、興味深く読ませていただきました。

>碁は芸であり勝ち負けの問題ではない。

NHKの番組でも秀行さんはそうおっしゃっていました。定石にない手が一番多かったのが秀行さんだったようです。その辺りが「芸」ということなのかなあ、と無い頭で考えていました。深いです。
自分は将棋は少々やりますが碁のほうはさっぱり。でもちょっと興味がわきました。
Commented by saheizi-inokori at 2005-07-18 07:09
よろしく。私も勝負事はからっきし。でも、坂田三吉の伝記小説「孤高の棋士坂田三吉伝」とか、大崎善生の若手棋士を扱ったノンフイクション・「聖の青春」「将棋の子」など面白かったです。自分にないものがあるから、人間のある意味の純粋系だからかな。
Commented by takibi-library at 2005-11-29 22:09
図書室たき火です。少しずつ、ブログを拝見しております。
だいぶ前の記事ですが、コメントします。

私は奥様(藤沢モトさん)が書いた本を読みました。「勝負士の妻」(角川oneテーマ21)です。モトさんは、秀行さんが何をしでかしても(そのときはびっくりしても)、けろりとしているんです。すごいです。
秀行さんの書いたほうも読んだらきっとおもしろいと思うので、近々買いに行こうと思います。

ちなみに、将棋関係では「真剣師小池重明」「真剣師小池重明 疾風三十一番勝負」を読みました。棋譜は読めませんが・・・(笑)。
Commented by saheizi-inokori at 2005-11-29 23:31
takibi-libraryさん、今晩は。「勝負師小池重明」は読みました。勝負にかける、そのために全てを捨てる。それはなかなか出来ないですね。だから読んでいて爽快感がある。自分に出来ないことをやっている。
そういう人と人生を共にするモトさん、もっと凄いと思います。
名前
URL
画像認証
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2005-07-12 22:56 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(2) | Comments(4)

ホン、映画・寄席・芝居、食べ物、旅、悲憤慷慨、よしなしごと・・


by saheizi-inokori
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31