原発が導入された内幕 有馬哲夫「原発・正力・CIA 機密文書で読む昭和裏面史」

警視庁を辞めて讀賣新聞を大会社に仕上げた正力松太郎は“巨怪“(佐野真一の“巨怪伝”↓がおもしろい)だ。
70歳にして日本テレビを作って一大メデイア王にもなったがそんなことで満足する男ではない。

総理!総理大臣になる。
そのためには?
原子力だ!原子力を日本に導入する。
原子力を制することが”(政界に)遅れて来た男”正力を総理にする魔法の杖だ。
そのためには?
アメリカ=CIAと仲良くしてアメリカのオーソライズ・後ろだてで動力炉を導入したい。

アメリカは第五福竜丸事件で日本に燃え盛る反米・反核をなんとか鎮めたい。
アイゼンハワーが打ち出す「アトムズ・フォー・ピース」政策に日本も取り込みたい。
そこに正力がいる。
讀賣グループを使って反共=親米=原子力利用の宣伝をさせよう。
野心満々、政財界の情報もありそうだから巧く頂こう。
でも、正力の政界工作にCIAが利用されることは気をつけよう。
正力の欲しがる動力炉は日本の核武装につながる恐れがあるからあまり歓迎できない。
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巨怪・正力とCIAの駆け引きが始まる。
正力は強い。
連日、讀賣にアメリカの悪口を書かせて圧力をかける。
ついにアメリカがダメならとイギリスから東海村にコルダーホール型を輸入する。
外務省もアメリカもカンカン。

東海村原子炉は国営か民営かを廻って河野一郎と闘い民営とする。
困ったのはイギリスが「免責条項」を申し入れてきたこと。
原子力発電はまだ危険がともなう段階にあることを再認識して欲しい
という一文まで入っている。
その頃、イギリスはウインズゲールで大事故を起こしたばかりだった。
国際慣習、イギリス製動力炉の危険性、世界各国の原発に対する取り組み、日本の原子力行政の在り方、、正力は深く考えもせず自分が総理になれるか否かの政治日程を優先させて拙速・焦っていた。
現在のフクシマの賠償責任が、もしこの時河野の言ったように国営であったらこんなにねじれやしなかった。

副題にある通り、公開されたアメリカのCIA文書などの事実が紹介される。
保守合同・55年体制が出来上がる頃の日本の政治情勢、冷戦下のアメリカの諜報戦略、ウオルト・デイズニーの映画やデイズニーランドを使った親米・親核工作、、ハリウッド映画を見るような趣もある。

正力がアメリカに小型の原子炉を一台、自家用に欲しがったというエピソードもある。
無知と言うべきか、やっぱり巨怪だ、ったく。
「巨怪伝」のあとがきで、大谷昭広が
正力は個人として巨怪であったが、今の讀賣社長の渡邉恒雄は組織をつかって巨怪たらんとしている
と書いていた。

新潮社



「正力松太郎と影武者たちの一世紀」という副題がついている。読売新聞を現在の巨大紙にするとともに日本テレビ、プロ野球の創設、原子力利用の父などなど、戦後の日本大衆社会を形成していく上での重要事業(そう、プロレスも彼の仕事)を作り続けてきた巨人の伝説。しかし佐野氏が綿密な取材によって書く正力伝は単なる正力賛歌とは大分趣が異なる。常人には想像もつかないスケールの持ち主で多くの有能な人々を引き寄せる磁力をもちすさまじい執念で思い込んだことをやり遂げる人、この人あって読売もジャイアンツもテレビも原発もできたこと(良かったかどうかは別として)は正当に認めている。が、と同時にこれらの快挙を実際に企画し実現した(本当は正力以上の功労者たち)がいずれも影武者としてしか存在を許されなかったことについても容赦なく暴いている。嫉妬心のかたまり。関東大震災の際に「不逞鮮人虐殺」など今では信じられないような事件が多発したがそこにも彼の影はある。上下1000頁を超える大作で読了には骨が折れた。大正から戦後の日本の歴史裏話としても大変読み応えがある。最後の解説で大谷昭広が、「正力は個人として巨怪であったが、今の読売社長の渡邉恒雄は組織をつかって巨怪たらんとしている」といってるのも面白い。
(2000・10)
Tracked from ぱふぅ家のサイバー小物 at 2012-03-03 22:19
タイトル : 【原発は本流ではなかった】原発・正力・CIA
ノーチラス号の進水から始まった連鎖は、第五福竜丸事件を経て、日本への原子力導入、ディズニーの科学映画『わが友原子力』の放映、そして東京ディズニーランド建設へと続いていく。その連鎖の一方の主役が正力であり、もう一方の主役がCIAを代表とするアメリカの情報機関、そしてアメリカ政府であった。(10ページより)... more
Commented by kanafr at 2011-06-29 08:16
総理になりたかったたった一人の男に、踊らされて原発は安全という芝居が始まったんですね。
そして中曽根、田中と続く訳ですか。
権力は無知さえもカバーできるんですね。
もう、ため息しかありません。
Commented by saheizi-inokori at 2011-06-29 09:55
kanafr さん、そして正力も中曽根も田中もその他大勢の政治家たちが原発に功績があったと言って盤石の選挙を展開してきたのです。
本書でも正力の功績として描かれています。功績と認める読者=国民だったということです。
Commented by 旭のキューです。 at 2011-06-29 13:27 x
朝刊読みましたら、東電の株主総会では、脱原発となったと書いてありました。どうなるんでかね~
Commented by sweetmitsuki at 2011-06-29 21:19
私もすっかり今まで騙されていました。
反原発=左翼=科学オンチ=何にでもイチャモンをつける人たち、という宣伝に。
Commented by saheizi-inokori at 2011-06-29 23:47
旭のキューです。 さん、私の勘違いでなければ脱原発は否決されたようですよ。
Commented by saheizi-inokori at 2011-06-29 23:49
sweetmitsuki さん、まったく逆だったのですね。
科学オンチが推進派だったのです。
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by saheizi-inokori | 2011-06-29 00:07 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback(1) | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


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