たくらみに満ちた、饒舌の物語 騙されてみようじゃないか 古川日出男「アラビアの夜の種族」(ⅠⅡⅢ)
2011年 06月 16日
カイロを支配する支配奴隷階級(マムルーク)23人の第3番目に位置するアイユーブは武力においてナポレオンにかなうわけがないことを判っていた。
最愛の奴隷秘書・アイユーブが驚くべき秘策を建言する。
「災厄(わざわい)の書」、それは読む者を破滅に導く。
さあればこそ、その書をフランス語に訳してナポレオンに献ずべし。
しかし実は災厄の書は、存在しない。
アイユーブは毎夜、語り部の元に通い詰める。
カイロ随一の能書家とそのヌビア人の奴隷を伴って。
語り部は「夜(ライラ)」とも「ズールムッド(エメラルド)」とも呼ばれる、「夜の種族」。
アイユーブも夜の種族、かれら4人は「災厄の書」を創りはじめる。
「もっとも忌わしい妖術師アーダムと蛇のジンニーアの契約(ちぎり)の物語」
「アビシニアのアルピノとして生まれ森に捨てられ、森から授けられた子として左利き族に育てられたファラーが魔術師となる物語」「サブル国王の王子として生まれながら山賊に拾われ詐欺師一家に育てられたサフィアーンが王女・ドゥドゥに一目ぼれして鬼神から霊剣を授けられ豪勇無双の剣士となる物語」
三つの物語の主人公は一つの物語(地下阿房宮)のなかで遭遇し、闘い、結び、、
なまなかな説明や紹介を拒否するような混沌。
たくらみに満ちた、饒舌のかぎりを尽した物語。
騙されないように!
いやいや、騙される快感、かも。
角川文庫
私も今は図書館ばかりですが、本屋に入るのは欠かせません。独特の匂い、雰囲気、本屋中毒です。