染丸のレベルの高さ 一朝もますますイッチョウ懸命 第30回らくだ亭
2010年 11月 25日
まず取り上げたいのは林家染丸「大晦日浮かれの掛け取り」
上方は歌舞伎みたいに長い題名が好き(ex「地獄八景亡者戯」)でそれは多く9文字なのに今日は11文字、でもこれは現代仮名遣いだから「浮かれ」の「か」と「掛け取り」の「け」を取ると、ほら9文字になるでしょう。
「か」「け」取り!さっきトイレで考えましてン。
東京では「掛け取り万歳」。
これからあちこちで聴く噺、面白いがやる方には難しい噺。
大晦日、借金取りがやってくる!去年は死んだふりしてかわしたけれど、今年はカミサン死んだことにするってのも無理かな。
しょうがない、掛け取りの好きな趣味をつかってケムにまいて撃退しちまおう。
(ブログ朋と会場で初めて会って帰りに一杯、楽しいひとときの写真を撮ったけれど食い終わった後だったから掲載はとりやめ)
まず家主は狂歌が好き、「貧乏の棒が次第に長くなり振り回される年の暮れかな」貧乏尽くしで狂歌を聞かせて「まあ、そういうことなら今日のところは、、」家主さん、イッチョ上がり。
次に来たのは豊竹屋、こりゃなんたって浄瑠璃だ。
菅原伝授手習鑑に借金が払えない弁解を織り込んで帰してしまう。
傍で聴いてたカミサンが「あんた上手やわあ~」胸をちょいと持ち上げていうところがいいねえ。
酒屋の番頭は芝居好き。
番頭を上使に見立てて芝居の声色で「あの石山の秋の頃、あの三井寺の、ごんと打ち出す鐘の音を合図に」払うんだかどうだか、「まずそれまではお掛取りさま」近江八景が詠み込まれるなんとも粋な弁解だ。
カミサン、「あたしゃ、あんたにほれなおしたわ~」
最後に来たのが喧嘩好きの魚金。
「払ってもらうまでは一寸たりとも動かねえ」「そりゃ面白い、俺も払わないうちは一寸たりとも動かさない」バットを構えて逆に脅して「分かった、もういい今日は帰る」「そうはいかない、帰るんならちゃんと払ってもらったと言え」「払って、、貰わないんだけど、、貰ったよ」「そんなら領収書を書け、判を付け、ちょっと待て釣りをよこせ」爆笑のクダリだ。
そこここで太田その社中のはめ物がいい感じだ。
この爆笑噺のどこが難しいかといえば、登場人物がその趣味や職業にあったように描きわけられ、狂歌はともかく義太夫や芝居の声色、仕草がうまくて見てる俺たちもケムにまかれるくらいでなくては不自然さが際立ってしまうから、よほどの技量・教養がある噺家でないと演じきれないと思う。
だからそういう噺家は魚金のところをタップリとやって笑いを取ろうとする。
染丸は抑制が利いた演出ながら細部まできちっとやってレベルの高さを堪能させた。
それにしてもこんな掛け取りばかりなら住みよい世の中だ。
トリは一朝「淀五郎」
日千両、一日に千両箱が動く三つの場所、魚河岸に吉原に芝居、その芝居に三座ある、守田座はご存じ忠臣蔵、判官役の役者が突然の急病、急きょ代役に抜擢されたのが淀五郎。
芝居茶屋の出方の子、とても名題になれる身分ではなかった。
張り切って判官をやってみたが切腹の場面で由良助役の団蔵が近づいてきてくれない。
懊悩の末、舞台の上でほんとに切腹して果てようと覚悟して別れを告げに中村仲蔵を訪れる。
仲蔵も下層から這い上がった名優、落語にもなっている。
幕末ゆえに牢固な門閥制度も緩み始めたのかもしれない(緩んでいるくせに妙に名門とか門閥がもてはやされる現代とは一体何だ!)
一朝の仲蔵は淀五郎に該当場面をやらせる。
キセルを吸いつけながらじっとみる。
しばしの無言・沈黙が淀五郎の必死の演技と仲蔵の厳しい視線を感じさせる。
五万三千石の大名の無念さが伝わらない。
名題に抜擢された喜びがあふれている。
たとえ自分がそうなれなくても名人師匠の”型”を普段から勉強しておかなくちゃいけねえよ。
腹に刀の切っ先が入ると寒気がするはずだから青黛を耳の後ろに隠しておいて密かに唇に塗ると顔相が一挙にかわるよ。
刀を突き刺すときの左手の位置は、、刀を握った手をどちらに向けるか、、一つ一つ教える。
ここのところを小朝は違った。
仲蔵は淀五郎の試演を「さすがは団蔵が抜擢しただけの人だ」と褒めるのだ。
その上で、ひとことだけと断って、淀五郎は由良助が来ることを分かってやっているけれど、実際の判官はそのことを知らなかったのだ、という。
それで淀五郎はあっと目の上の鱗が落ちる。
どっちも面白い。
どっちも「演じている人物の了見になれ」という根っこのところは同じだ。
家に帰って円生はどうやっているかと、テープを聴いたがそこに至るまでに寝てしまった。
きっと一朝は円生をもとにしているのではないか。
後は小満ん「厩火事」
悪くはなかったけれど、、。
三遊亭司「干物箱」
爽やかな顔と語り口。
伸びるかもしれない。
あの色気をむしろ殺すつもりで!
日本橋公会堂
上方は歌舞伎みたいに長い題名が好き(ex「地獄八景亡者戯」)でそれは多く9文字なのに今日は11文字、でもこれは現代仮名遣いだから「浮かれ」の「か」と「掛け取り」の「け」を取ると、ほら9文字になるでしょう。
「か」「け」取り!さっきトイレで考えましてン。
東京では「掛け取り万歳」。
これからあちこちで聴く噺、面白いがやる方には難しい噺。
大晦日、借金取りがやってくる!去年は死んだふりしてかわしたけれど、今年はカミサン死んだことにするってのも無理かな。
しょうがない、掛け取りの好きな趣味をつかってケムにまいて撃退しちまおう。
まず家主は狂歌が好き、「貧乏の棒が次第に長くなり振り回される年の暮れかな」貧乏尽くしで狂歌を聞かせて「まあ、そういうことなら今日のところは、、」家主さん、イッチョ上がり。
次に来たのは豊竹屋、こりゃなんたって浄瑠璃だ。
菅原伝授手習鑑に借金が払えない弁解を織り込んで帰してしまう。
傍で聴いてたカミサンが「あんた上手やわあ~」胸をちょいと持ち上げていうところがいいねえ。
酒屋の番頭は芝居好き。
番頭を上使に見立てて芝居の声色で「あの石山の秋の頃、あの三井寺の、ごんと打ち出す鐘の音を合図に」払うんだかどうだか、「まずそれまではお掛取りさま」近江八景が詠み込まれるなんとも粋な弁解だ。
カミサン、「あたしゃ、あんたにほれなおしたわ~」
最後に来たのが喧嘩好きの魚金。
「払ってもらうまでは一寸たりとも動かねえ」「そりゃ面白い、俺も払わないうちは一寸たりとも動かさない」バットを構えて逆に脅して「分かった、もういい今日は帰る」「そうはいかない、帰るんならちゃんと払ってもらったと言え」「払って、、貰わないんだけど、、貰ったよ」「そんなら領収書を書け、判を付け、ちょっと待て釣りをよこせ」爆笑のクダリだ。
そこここで太田その社中のはめ物がいい感じだ。
この爆笑噺のどこが難しいかといえば、登場人物がその趣味や職業にあったように描きわけられ、狂歌はともかく義太夫や芝居の声色、仕草がうまくて見てる俺たちもケムにまかれるくらいでなくては不自然さが際立ってしまうから、よほどの技量・教養がある噺家でないと演じきれないと思う。
だからそういう噺家は魚金のところをタップリとやって笑いを取ろうとする。
染丸は抑制が利いた演出ながら細部まできちっとやってレベルの高さを堪能させた。
それにしてもこんな掛け取りばかりなら住みよい世の中だ。
トリは一朝「淀五郎」
日千両、一日に千両箱が動く三つの場所、魚河岸に吉原に芝居、その芝居に三座ある、守田座はご存じ忠臣蔵、判官役の役者が突然の急病、急きょ代役に抜擢されたのが淀五郎。
芝居茶屋の出方の子、とても名題になれる身分ではなかった。
張り切って判官をやってみたが切腹の場面で由良助役の団蔵が近づいてきてくれない。
懊悩の末、舞台の上でほんとに切腹して果てようと覚悟して別れを告げに中村仲蔵を訪れる。
仲蔵も下層から這い上がった名優、落語にもなっている。
幕末ゆえに牢固な門閥制度も緩み始めたのかもしれない(緩んでいるくせに妙に名門とか門閥がもてはやされる現代とは一体何だ!)
一朝の仲蔵は淀五郎に該当場面をやらせる。
キセルを吸いつけながらじっとみる。
しばしの無言・沈黙が淀五郎の必死の演技と仲蔵の厳しい視線を感じさせる。
こりゃあ、まずいなあ!私でもそんな判官のところに行きたくはない仲蔵は一喝したあと丁寧に諭す。
五万三千石の大名の無念さが伝わらない。
名題に抜擢された喜びがあふれている。
たとえ自分がそうなれなくても名人師匠の”型”を普段から勉強しておかなくちゃいけねえよ。
腹に刀の切っ先が入ると寒気がするはずだから青黛を耳の後ろに隠しておいて密かに唇に塗ると顔相が一挙にかわるよ。
刀を突き刺すときの左手の位置は、、刀を握った手をどちらに向けるか、、一つ一つ教える。
ここのところを小朝は違った。
仲蔵は淀五郎の試演を「さすがは団蔵が抜擢しただけの人だ」と褒めるのだ。
その上で、ひとことだけと断って、淀五郎は由良助が来ることを分かってやっているけれど、実際の判官はそのことを知らなかったのだ、という。
それで淀五郎はあっと目の上の鱗が落ちる。
どっちも面白い。
どっちも「演じている人物の了見になれ」という根っこのところは同じだ。
家に帰って円生はどうやっているかと、テープを聴いたがそこに至るまでに寝てしまった。
きっと一朝は円生をもとにしているのではないか。
後は小満ん「厩火事」
悪くはなかったけれど、、。
三遊亭司「干物箱」
爽やかな顔と語り口。
伸びるかもしれない。
あの色気をむしろ殺すつもりで!
日本橋公会堂
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小言幸兵衛
at 2010-11-25 20:32
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一朝の型はたしかに円生でしょうが、切れ味の良さで一朝が好きです。
染丸はトリならもっと盛り上げるでしょうが、短時間であれだけ凝縮する技量は見事でした。
とにかく、楽しい夜でしたね。
落語研究会での小満んの高座へのコメントを期待しています。
染丸はトリならもっと盛り上げるでしょうが、短時間であれだけ凝縮する技量は見事でした。
とにかく、楽しい夜でしたね。
落語研究会での小満んの高座へのコメントを期待しています。
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蜷川幸雄が宮本研の『美しきものの伝説』を演出するそうです。
http://t.pia.jp/feature/stage/utsukushikimono/utsukushikimono.html
絶対のお奨めです。
http://t.pia.jp/feature/stage/utsukushikimono/utsukushikimono.html
絶対のお奨めです。
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創塁パパ
at 2010-11-25 22:07
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染丸の「天下一浮かれの屑より」(紙屑屋)もいいですよ。「音曲噺」はまさに染丸の「ニン」です。そして一朝の「間」に時が止まっていました。楽しい会でしたね(笑)
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saheizi-inokori at 2010-11-25 22:48
小言幸兵衛さん、よかったですよ。
「厩火事」ではなく「二階ぞめき」でした。明日書きます。
「厩火事」ではなく「二階ぞめき」でした。明日書きます。
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saheizi-inokori at 2010-11-25 22:49
芙蓉さん、有難いプレゼントです。
昔はこんなに寒がりじゃなかったのになあ。
昔はこんなに寒がりじゃなかったのになあ。
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saheizi-inokori at 2010-11-25 23:05
きとら さん、ありがとう。今予約しました^^。
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saheizi-inokori at 2010-11-25 23:06
創塁パパ さん、それは一度見たような気がします。
これも楽しかったなあ。
これも楽しかったなあ。
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sweetmitsuki at 2010-11-26 06:23
まだ11月なのに大晦日のネタなんて、と、思ってたら、もう11月も終わり、いよいよ年末ですね。
今年の10大ニュース、ぜんぜん思い出せません。
イラ管にイライラさせられっぱなしだったような気がします。
今年の10大ニュース、ぜんぜん思い出せません。
イラ管にイライラさせられっぱなしだったような気がします。
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saheizi-inokori at 2010-11-26 09:09
sweetmitsuki さん、クリスマスと同じでどんどん繰り上がります^^。
もっとも昨日は怪談やりましたが。
毎日十大ニュースのようでかえって思い出せない?
イラ菅はまだまだ特ダネを提供しそうですね。
もっとも昨日は怪談やりましたが。
毎日十大ニュースのようでかえって思い出せない?
イラ菅はまだまだ特ダネを提供しそうですね。
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旭のキューです。
at 2010-11-26 10:20
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ブログ朋と初めて会って一杯やっちゃうんですか~
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saheizi-inokori at 2010-11-26 11:26
旭のキューです。さん、毎日のようにブログを見てコメントなんかやりとりしていると初めてあったような気がしないのですよ。
それがブログの魅力かもしれない。
それがブログの魅力かもしれない。
by saheizi-inokori
| 2010-11-25 13:21
| 落語・寄席
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Comments(12)