幸せな爺と可哀そうな爺 「才宝」「恋重荷」 国立能楽堂定例公演

スイカを半分にしたような月がかかる国立能楽堂。
久しぶりに近くの「鶴の湯」に入っていく。
背中と足の裏をマッサージしてくれる湯が気持ち良い。
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狂言は「才宝」
三人の孫(アド・石田幸雄、小アド・深田博治、小アド・高野和憲)が元服するについてお金持ちの祖父・才宝(シテ・野村万之介)に名前を付けて貰いに行く。
三人が幕の方に向かって呼ぶと一呼吸置いて「ウン、ウン」唸るような声がしてお爺ちゃん(面を付けている)が現れる。
杖をついて橋掛かりを、うんうんほ~っと歩いてくる。
三人の孫を認めると、よく来たと喜び「美しいものをやろう」、袂の中をかきまわして出てきたものは、張り子の虎、デンデン太鼓、玩具の笛、あれまあ、お爺ちゃん、僕たちは元服の名前を付けて貰いに来たのに。

愛嬌のある子だから「嬌あり」、冥加の良い子(運のよい子)だから「冥加あり」、周りを面白くする子だから「面白あり」、どうだい?
わア、いい名前です。ありがとう。
それじゃお祝いに一杯飲もうと、4人は酒盛り、
一二三四五六七八九献は申せども十まではきこし召されよ
順に歌い踊って、ああ、楽し。

そろそろお開き、お爺ちゃんの言うことには、俺は孫たちの手車に乗って奥の部屋に戻りたい。
そのとき皆の名前を訊くから返事をしてくれよ。
才宝が孫ども、才宝が孫ども、名をばなんとぞ申すぞ~

嬌ありも候、冥加ありも候、面白うありも候
お囃子もコミカルに、なんども何度も繰り返して、騎馬戦のように二人の手車に乗って退場していく。
幸せなジジイだぜ。
観てる俺も幸せな気分。
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能は「恋重荷」
身分卑しき菊作りの老人がこともあろうに女御に一目惚れしてしまった。
人づてにそれを聞いた女御は美しい布で作った荷物を「恋の重荷」と名付けてそれを持って庭を百周千周すれば姿を見せてやると伝える。
実は重い荷物で出来っこないことを知った上で、そうした方が男の執念を思いきらせることが出来るだろうという”思いやり”。

心さえあれば何事も不可なるはなしと重荷に挑む老人の痛ましさ。

重荷を持ちあげることも出来なかった老人は女御を怨んで死んでしまう。
鬼となった老人が女御を責め恨み事を言うけれどやがては心が和らぎ
その恨みは霞か雪か霰か、終には跡も消えぬべしや
いつまでも守り神になろうと言って消えて行く。
恋の妄執を描いたと見せて恋の優しさ、奥行きの深さ。
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(休憩、能楽堂中庭から見た月、虫の音が心にしみた)

シテ・菊作りの老人・高橋汎 ツレ・女御・中村昌弘 アイ・野村万作

ストーリーは前から知っていて是非観たかった能だった。
だが興味は満たされたが期待した感動は得られなかった。
地謡、お囃子、今まで観た能とはかなり様子が違うのだがそれが心に響かなかった。
どういうことだろう。
Commented by yukiwaa at 2010-10-18 10:15
地謡、お囃子、の味がわかる佐平次さんは「玄人眼」で感じられるのではないですか?すごい眼力!

私は物語が優しくて分かり安くて楽しめました。
気になったのは「鶴の湯」ですが、、、検索しちゃいまいた。東京にはこの様な銭湯、まだ多いんですか?
Commented by saheizi-inokori at 2010-10-18 10:20
yukiwaa さん、私はその日その時の気分ですよ。
銭湯、まだ散歩の途中で楽しめる程度にはこんな建物も見られます。
ビルの一部ってのも増えましたが。
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by saheizi-inokori | 2010-10-17 11:25 | 能・芝居 | Trackback | Comments(2)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori