珍しい噺、ゆったり感、小満んは素敵だ 「柳家小満んの会」

今週の週刊文春の「ホリイのずんずん調査」は「新真打5人に色々きいてみた」と題して入船亭扇里、林家きく麿、三遊亭鬼丸、蜃気楼龍玉、柳家小せん、いづれも今秋真打昇進予定の噺家に入門経緯、師匠の教えで心に残る言葉、あなたの考えるうまい落語とは、、など7つの質問をしている。
その中で「うまいと思う落語家」というのがあって、それぞれ3~6人くらいの名前をあげている。
この際だから名前のあがった人を全部書いてみる。
馬風、扇遊、市馬、三三、菊之丞、扇辰、小満ん、小朝、小遊三、百栄、司、さん喬、花緑、一之輔、小里ん、今松、喜多八、喬太郎、萬窓の19人。
このうち扇辰は3人、小満んと三三が2人の票が入っている。
え~?この人がァ~?と尻上がりのイントネーションで聞き返したくなる名前もあるなあ。
「若い方で」という断りを言って名前をあげる人もいるし師匠筋とか普段のお付き合いみたいなものも反映しているのかもしれない。

そのなかで小満んが堂々2票を獲得したのはファンとして満悦至極、やたらに笑いを取ろうとしない、渋いとすらいえる師匠を認める若者たちに乾杯だ。
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(関内ホール)
その小満んの会。
19日、関内ホールは初めて、自由席ということで100回記念ということもあるからと、少し早く行こうと思ったらバス、電車、歩く、すべて絶好調で思ったよりずっと早くついて会場には誰もいない。
その上、開場時間を30分間違えていたことも判明。
しょうがないから入口のベンチに座っていたら小満んさんが奥さんと現れて自分で手書きの看板を設置している。
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ありがとう(芸名)が「てんしき」
二度ほど岡山の訛りがあったような気がしたので休憩時間に受付にいた奥さんに尋ねてみたら埼玉の人って聞いてますけど、とおっしゃる。
直接の弟子じゃないから下宿のことをいってるんじゃないか。
俺はタクシーに乗って運転手の出身地をよく当てるのだよ。
「指仙人」
傾城は殺し文句で病みつかせ
花魁が客に愛を誓うくらいいい加減なものはない。
まず起請文、これは千枚起請というくらい書きまくる。
次には入れぼくろ、刺青だけど、これも当てにならない、「上様命」なんて万人向け。
最後はヤクザみたいに指を切って渡す。
でもこれもしんこ細工だったりして布にくるんであるのを大事にとっておいたらカビが生えたなんて。
とマクラ、これがサゲの伏線だ。
木曽に行って仙人になったという花魁・羽衣が忘れられない若旦那が幇間と山中に分け入る。
断食をして体をきよめていくのだから本気だ。
仙人になった花魁はなんでも好きなものをやるから仙人になることはあきらめろと言って指先を天に差し「キンチカマル」、呪文を唱えると、あ~ら不思議、梨にザクロにブドウに、、山盛りの果物が降りてくる。
空腹の二人が満足したところで再び「キンチカマル」、今度は札束が山のように、、。
ほかにも欲しいものはないかと、花魁が問うので「その指を切って欲しい」。
指を切ってくれ、、、。若旦那もよほど疑り深いこと
中国の小噺から取ったという不思議な噺。
この前の「金魚の芸者」に似た味わいだ。
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(水天宮の上の満月)

「三人無筆」
大工の熊さん、伊勢屋の隠居の葬式で受付の帳簿つけを頼まれて満座の中で勢いよく引き受けたはいいが、実は無筆、字が書けない。
帰って女房に相談すると、「相棒の源兵衛さんなら書けるから、早めに寺に行って火を熾して茶を淹れて墨を摺って万事支度をして源兵衛さんが断れないようにしておいて頼み込んでおしまい」とさすがはわが女房、知恵者だ。
落語では知恵者は女房ってことになってる。
熊さんが早起きして寺に行くとなんとまあ、源兵衛さんが火を熾して茶を淹れて硯を用意して待ってる。
源兵衛さんも無筆だったというわけ。
二人は相談して「仏の遺言で帳簿は銘々づけ、参列者に書いてもらおう」と知恵をだす。
ところがやって来たのも無筆、しょうがないから手習いの師匠がみんな代筆して、やれやれ。
そこへ遅れてきた八つあん、かれも立派な無筆、師匠は帰っちまったし、なんかいい工夫はないか、「そうだ!八つあん、おめえが来なかったことにしよう」。
小満んにしては珍しいほど笑いが多い客席だった。
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(関内ホールで)

「お直し」
吉原入門です、と吉原の見取り図からシステムの丁寧な紹介からはじめる。
俺は志ん生がこれで芸術何とか賞を貰ったというテープを持っている。
花の盛りを過ぎた花魁と客を呼び込む男が惚れあって、最初は二人で稼いで息をついでいたのが、ほっとすると男の悪い虫が騒ぎだし、賭けごとでスッテンテン。
このまんまじゃ、生きていけねえ、そこでものは相談だが、なあ、お前と二人で蹴ころをやろうじゃないか。
蹴ころ、ってのは吉原でも最低の女郎屋、客をむりやり蹴っころがしてでも引っ張り込んじゃうから、蹴ころ。
腕をもぎ取ってでも引っ張り込むから羅生門河岸ともいう。
そこで、俺が客を引き、女房のお前が客を取るんだと。
嫌がってもいざ腹を据えると女は強い。
お前さんは人間が焼き餅焼きときてるからねェ。あたしがお客にいろんなこと言ってると、お前さんがそれを見て、歯ぎしりしたり眉(まみえ)を上げたり下げたりしていられた日にゃァ、あたしァ仕事ができないんだから、焼き餅は禁物だよ
と注意するやら客の引き方を指導する。

年はとっても昔はナンバーワンだった女房、蹴ころにいれば掃溜めに鶴だ。
迷いこんだ左官の職人がすっかりほれ込んで30両持ってくるから女房になってくれと云って帰る。
女が客と話をしているのを陰で聞いてる男がいいところで「直してもらいな」と声をかける。
客が承諾すると料金(線香代)が加算される仕組みなのだが、嫉妬の炎が声の調子を変えて、声かけのタイミングを早めていくのが演じどころだ。
左官の帰ったあと、男が焼き餅で目の前が真っ黒になって、オリャあこんなばかばかしいことやってらんねえ。

女房は誰のためにこんな嫌なことをやってると思うんだい、と泣きだす。
男はほだされて謝り二人は又仲直り。

何とも陰惨な噺をさらっと笑いと二人の愛を前面に出して、、志ん生の名演を思い出させた。
前座を容れて4席で二時間、ほかのどこに行っても聴けそうもない噺を楽しめる、贅沢な横浜の午後だった。

小満んの噺にでてくる夫婦はいつもいい。
「あちたりこちたり」「三人無筆」の夫婦は小満ん夫妻がモデルじゃないかな。
Commented by 松風村雨 at 2010-09-23 21:49 x
Saheiji さん:
 いらしていたのですね!
私も貴ブログで小満んさんのことを知り、今年1月より毎月関内に伺っています。Saheiji さん、見えてるのかな?などと思ったりします。(笑)
 このあいだは100回記念とのことで、高座のあとビアホールに場所を移して食事の会が行われました。盛況でした。
Commented by saheizi-inokori at 2010-09-23 22:04
松風村雨さん、楽しい会ですね。
時間もちょうどいいです。
料金もね^^。
これからはちょくちょく行こうと思います。
Commented by c-khan7 at 2010-09-24 06:52
「キンチカマル」で、願いが叶うといいなぁ〜。
「アジャラカモクレンキューライス」という呪文もありましたっけ。笑いの多い独演会、大成功!噺家のおかみさんは皆、シッかり者なのでしょうね。。
Commented by saheizi-inokori at 2010-09-24 10:20
c-khan7 さん、噺家のかみさん、なかなか普通の了見ではつとまらないのでしょうね。
私は無理だなあ(当たり前)。
Commented by 旭のキューです。 at 2010-09-24 10:50 x
小満んの夫婦の語りがいいですね。午後の贅沢な横浜、分かりました。
Commented by saheizi-inokori at 2010-09-24 11:32
旭のキューです。さん、入場料2000円は高くないです。
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by saheizi-inokori | 2010-09-23 11:26 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(6)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori