「つきづきし」 古語辞典が母を想いださせる

昨日、枕草子の文章を高座で引用したまねき猫姐さんが最初ちっとも意味がわからなかったと云ったことを書いた↓。
今朝改めて読み返してみたら
いと寒きに、火など急ぎおこして、炭持て渡るも、いとつきづきし
という冬の描写で「つきづきし」という言葉、「いいものだ」くらいな意味かなと思うけどしかとは自信がない。
古語辞典を引くと
いかにもぴったりとはまっている感じである。取りあわせがよい。ふさわしい。
そして枕草子のこの文章が例示されている。
高校時代に習ったはずなのにすっかり忘れていた。
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(奥は母の遺句集、「郁子」は「ムベ」と読み母の部屋の前に繁っていた)
この古語辞典は母の遺愛の品、岩波版で大野晋等の編になる1974年版、当時でも2200円している。
俺は漢語辞典も母の遺品をつかっている。
岩波の1987年版山口明穂・竹田晃編で裏の見返しに「1989・3・19(平成元年)錦糸町西武で」と書いて蔵書印らしきものが押してある。
これも2100円、母にとっては思い切った買い物だったと思う。
晩年はすっかり目が近くなって天眼鏡を使うか紙面に顔をこすりつけるようにして文字を追っていた姿が彷彿する。

それにしても思い出の品として大事に使うというのは美しげな噺だが実のところは俺自身の古語・漢語辞典がないのだ。
学生時代には持っていたのに卒業すると国語辞典は別として古語や漢語辞典を使わないでも済むような生活に没頭して、なんども引っ越ししているうちにどこかへ行ってしまった。
なんとも文化程度の低い、失われた40年だ。
「つきづきし」 古語辞典が母を想いださせる_e0016828_104588.jpg

それではまず祖母の歌から。
飲食と物貰ふ事を詠みてをり我が身辺はこの域を出ず

眼をすへて駅のきざはし降りて来る老いの姿に我を見るなり
俺も祖母の域に近づいたなあ。
次は母の句。
一汁の夕餉に極暑尽きにけり

烏瓜は夜の手品師咲きにけり

Commented by takoome at 2010-09-16 11:02
サワディ~カ~
現役で働いてくれている指刺しがあります。多分、50年以上、働き続けてくれています。
きっと、どこかの小間物屋のどこかの棚の隅に置かれていたものでしょぉ、
「これが無いと針がもてない」と今は母と同じことを思っています。
Commented by webobjects50 at 2010-09-16 11:21
こんにちは!おばあさま、お母様の大切にされていたものを引き継いで使われているなんて素敵すぎます。「俺の辞典」が万が一発見されたら教えてください。私の母はまだ存命ですが、今から何かを引き継いでおこうと気付かされました、ありがとうございます。・・・・・ってなんだろ?お裁縫好きの母なので思いつくところは「ミシン」・・・・しかし私はミシンに糸がかけられないほどの裁縫音痴。これから糸掛けから修行することにいたします。
Commented by saheizi-inokori at 2010-09-16 14:00
takoome さん、指貫、針刺し、待ち針、、母から作ってもらった裁縫セットもありました。
とっくにどこかにいっちゃいましたが。なくなったものばかり惜しく感じます。
Commented by saheizi-inokori at 2010-09-16 14:05
webobjects50 さん、台湾からは帰られたのですね。
ミシン、先日ここにもあげた映画「トイレット」に母親の死後、息子が古びたミシンを見つけるシーンがあります。
あの映画で一番気にいったシーンです。
息子はスカート地を買って来てロングスカートを縫うのですよ。
それを着てピアノを弾くところが又いいんですよ^^。
Commented by mmiizzz at 2010-09-16 14:24
私が使ってる広辞苑は結婚式の引き出物です。
なかなかいい引き出物☆と思って愛用してたのですが。。。
そのお二人は離婚されてしましました。
辞書にはふたりの名前が金で箔押しされてマス。とほ。

お母様の句集、素敵な装丁ですね♪
Commented by saheizi-inokori at 2010-09-16 15:32
mmiizzz さん、今度買った携帯には広辞苑が内蔵されていました。
英和辞典やら新語辞典、、ほかにもいくつか、あまり使わないけれど。
Commented by kurashiki-keiko at 2010-09-16 16:36
うむむ、亡くなられたお母さま、おばあさまの愛蔵の品をお使いとか。私の母はドライで今どんどん老い支度進行形でして、着物なども古着屋に売っ払ったそうですし、全日写連に入ってカメラ婆?をやっていたカメラセットも売ってしまったそうですし、あと、何が残るんだろうと。あ、2年前に新車を買ったのですが・・・これも生きてるうちにたぶん乗りつぶすか処分ですね。ドライ婆です。
Commented by junko at 2010-09-16 16:51
Ciao saheiziさん
お母様の辞書、いいなあ
ページをめくるたびに、お母様の指に触れてる気がしそう
ページをめくるという行為が、何よりも好きです
だから、電子辞書なんて愚の骨頂と思ってしまう、古いねえ
私も
Commented by c-khan7 at 2010-09-16 17:45
「〜老いの姿に我をみるなり」ある年齢になると、しみじみとしみる歌ですね。皆、行く道ではありますが、今の季節は特に寂しさを感じます。この辞典も次の代に受け継がれると良いですね。
Commented by saheizi-inokori at 2010-09-16 20:21
kurashiki-keiko さん、元気なお母さんで良いですね。
この辞書は母が亡くなるその日まで使っていましたよ。10年間使ったのですね(漢語辞典は)。
Commented by saheizi-inokori at 2010-09-16 20:23
junko さん、電子辞書は一覧性がない(私のは)ので使いにくいですね。
適当に引くことができない。
Commented by saheizi-inokori at 2010-09-16 20:24
c-khan7 さん、子供たちはもう電子辞書ではないかな。今度訊いてみよう。
私と同じで辞書なんか引いてる余裕がない生活かもしれません。
Commented by みい at 2010-09-16 22:17
お母様の句集ステキですね。装丁もいいですね~宝物ですよね!
 ムベってアケビの仲間なんですね。
美味しい実がなるそうだけど、どんなお味なのかな?
Commented by saheizi-inokori at 2010-09-16 22:52
みい さん、残念ながら食べたことがないのです。引っ越してから食べられると知りました。
Commented by tona at 2010-09-17 08:39
お母様、なかなかの勉強家でいらしたのですね。
辞書を引く姿が目に浮かんできます。
同じ暑さも、また烏瓜もこのような見方、感じ方があるのだと素敵な句を味わいました。
おばあ様の視点も素晴らしい。
Commented by saheizi-inokori at 2010-09-17 09:14
tona さん、死の直前まで句作が唯一?の楽しみでした。
Commented by この句集がほしい at 2010-09-17 16:31
お母様は良い句をたくさん遺されました。心の描写が実に的確で、ときに私は胸を突かれるような思いをします。どの句をとってもそこにある情景は鮮明で、それと同時に、もうこの懐かしい情景は二度と戻ってこないのだというおそろしい悲しみを呼び起こします。
Commented by saheizi-inokori at 2010-09-17 22:16
この句集がほしい さん、ありがとう。私もそういう気持ちになることがあります。
句集は500部刷ったのですがみんな人にあげて家にも二部しかないのです。
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by saheizi-inokori | 2010-09-16 10:46 | わが母と祖母の遺したまいしうた | Trackback | Comments(18)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori