ああ、この既視感 NHK大河ドラマ化を! 大城立裕「〈小説〉 琉球処分」

「琉球処分」
明治政府のもとで沖縄が日本国家の中に強行的に組み込まれる一連の政治過程をいう。
本書解説に引かれた金城正篤の定義だ。
1872年(明治5年)の琉球藩を設置するときから1880年の分島問題(日本が八重山・宮古の先島を清国に割譲して、その代償として中国内での欧米並みの通商権を獲得しようという提案。一旦は合意したが清国内で調印拒否された。⇒琉球人民のために、という日本政府の大義名分の欺瞞性が明らかな事件)の収束までの8年間をさす。
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(上下千頁、読み応え十分)
本書の主要な登場人物の肩書が日本政府側の琉球処分官・松田道之がであることで分かるように「処分」という言葉は日本政府が使ったのだ。
日本本土と琉球とでは、歴史の出発に一千年も差がつき、琉球は中世をとびこして近世にはいったから、その後の歴史に無理が生じたのだと、私は考えている。つまり、近代を準備する文化が育っていなかった。一方、日本では近世にはやくも近代が準備されていた。このギャップは恐ろしい。
その無理が最初にあらわれたのが、琉球処分であった。
王に忠誠を誓う封建国家・琉球は薩摩と清国に両属していた。
日本政府は突然、「明治維新によって薩摩は鹿児島県になり琉球は日本直属となるのだから清国への朝貢を断て、王は上京して天皇に挨拶せよ、明治の元号を使え、、それはすべて琉球の人の幸せのためなのだ」という。

日本語が分かる人も少ない琉球の人々は慶長以降二世紀半にわたる薩摩の苛斂誅求(倒幕に貢献した薩摩の財力は、琉球からの搾取によって蓄えられた)によって日本人は恐怖と怨嗟の対象であり清国には恩義を感じている。
熱に浮かれたように維新のことなど聴かされてもチンプンカンプンだ。
なによりもヤマトの人は信じられない、清国を裏切ることはできない。
英国が中国を占領したら琉球はどうするのか?と迫る松田に
当藩と中国との間柄は父子の道、君臣の道で、その情義は重かつ大といわねばなりません。(略)信義というものは、およそ個人生活でも国際生活でも守るべきものかと存じます。それさえ守っておれば誰が文句をつけましょうか。政治上の態度もまたしかり。わが琉球は信義を守ることで国の安全を保ちましょう。
15.6世紀のあいだに、武器が廃され、殉死が禁じられた国(ナポレオン・ボナパルトが、東洋に武器をもたない国があると聞いて驚いた)なのだ。
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琉球の大名の中にも日本を信じ慕う人はいた。
彼は当初みじめな琉球が前途に光明を得たと思う。
それが途中で「日本政府が琉球を裏切った」と感じ日本の役人にもそう言う。
聞いた役人は、分からないと云う顔をした。
ほんとうに、わからなかったに違いない。いずれ日本政府が、これまでの中国より以上に恩恵をたまわるといっても、なにか、にわかには信じがたい。いや、恩恵そのものは確かにあるかもしれないが、真に琉球の人民をいつくしむ志をもってのことであるかどうか
主人公の危惧は現代にも通じる。
(新しい県に)奉職を応じなければ、みんな内地から職員をつれてくるぞ。お前たち県民は、アメリカの土人やアイヌのような劣弱の地位に甘んじるか
のらりくらり、ひたすらお願いをし解答を引き延ばす、それでいて妙に論旨が通ってもいる、力の隔絶を前にしてそういうやり方でしかできない、そういうふうにして辛うじてギリギリの生を維持してきた琉球の人々の交渉術の前に日本政府の本音を吐き出す松田だ。

沖縄県政はヤマトから赴任する県令によって革新と反動の間を揺れる。
そういう中で、ただひとつ、一貫したいたこと
つまり、沖縄県は国防のためにある。、、だが、これらのことは、われわれの生活には関係のないことだ
主人公の感想に対してもう一人の主人公が、「おれには、ひどく関係が、、、」といいかけると、
(県令の政策が日清関係の微妙な動きを反映しているとすれば)そういう場当たり政策に翻弄されるわれわれの迷惑は、、
と興奮して発言を修正する。
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文庫化されたのは今年の7月だがもともとは1959年から60年にかけて琉球新報に連載され68年に単行本化される際に加筆された、すなわち随分昔の本なのだ。
72年の沖縄返還交渉の時本書は関係者にテキストとして読まれたようだ。
本土復帰が琉球処分の反復現象だった。
そして普天間基地の移設問題がまさに「歴史は繰り返し」ている。

ときおり興南高校の快進撃をテレビでみて、沖縄料理の店を東京に誘致したときや旅行で逢った人たちの顔を思い浮かべながら夢中になって読んだ。
突然の国難に右往左往する琉球の人々がいとおしかった。
龍馬もいいけれど今度はこの小説をNHKは大河ドラマにしたらどうだろう。
国営放送としての義務かもしれない。

講談社文庫
Commented by at 2010-08-18 14:37 x
ありがとう。リストに入れる。
Commented by antsuan at 2010-08-18 15:55
こういう史実はもっともっと公にされるべきです。そうすれば、朝鮮半島の運命や台湾の複雑な情勢が、日本抜きでは考えられないことを国民は理解出来ることと思います。
Commented by saheizi-inokori at 2010-08-18 22:54
蛸さん、是非、おすすめです。
Commented by saheizi-inokori at 2010-08-18 22:56
antsuan 、台湾の生番が琉球人を殺したことが明治政府が琉球を日本のものとするちょうどいいチャンスとして使われたことが本書にあります。
Commented by たま at 2010-08-19 00:02 x
画像は「カタバミ」の可憐なピンクでしょうか。

日本においても、「大ブリテン連合王国」(United Kingdom:イギリス)の例ように、民族、言語、宗教(キャソリックと英国国教)、そして「侵略」によって、「沖縄諸島」と「本土」(「クマソ」と関東と関西?)、さらには「アイヌ」によって構成される「連邦」、あるいは「運命共同体」(共生)と認識した方が理解し易いのでしょうか?
まさか、「戦前」、「戦後」の区分ではないでしょうが・・・?
Commented by c-khan7 at 2010-08-19 07:11
随分前の大河ドラマで、琉球王朝の話があったと思います。
日本国の一方的な正義に甘んじなければいけなかった、歴史ある民族がいたコトを知る機会は少ないです。
アイヌ民族も明治の頃は「土人法」で縛られており、人を人とも思わない差別の時代があったんですよね。。
Commented by saheizi-inokori at 2010-08-19 08:55
たま さん、人種や文化が、南からきたものと北からきたものがとけあってできていることは、琉球も日本本土もかわらないと大城が書いています。
花は前に沖縄旅行をしたときに撮った写真の一枚、名前は知りません。
Commented by saheizi-inokori at 2010-08-19 08:59
c-khan7 さん、同じ民主主義憲法のもとにいながら沖縄では民意に反して日本の陸地面積の0.6パーセントしかないところに74パーセントもの米軍基地が押しつけられていることも“差別”を引きづっているのではないかと思います。
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by saheizi-inokori | 2010-08-18 13:10 | 今週の1冊、又は2・3冊 | Trackback | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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