二席でもたっぷりでした 古今亭志ん輔の会(国立演芸場)

チラシでは「七段目」をやることになっていたらしい。
三席やるのが恒例だったけれど二席にしたから演目を変えたのだ。
本人の都合というより客の意見にそういう声が多かったらしい。
じゃあ、今までひとつは余計だと思いながら聴いていたんですか、って、ちょっと
笑いながら
でも「七段目」もいずれやりますから、テレビなんかでやってるように少しどんな噺かをやってみます
と、予告編、なんと細部は省略しつつも殆ど全部、サゲまでやってくれる、サービス満点。
そしてこの人はなんといっても真面目なんだね。
「能楽現在形」などにはいつも来ている。
(冗談のようにぼそっと)どこへ行くのか、自分がわからなくなる。
と言ったように聞こえたが、、そうだとしたら、切ないねえ。
落語家が真面目を客に印象付けることの当否についてはさておき俺は好きだよ。
二席でもたっぷりでした 古今亭志ん輔の会(国立演芸場)_e0016828_17472520.jpg

「お若伊之助」
狸にたぶらかされて狸の子を生んじゃうという噺、というと身も蓋もない。
生薬屋の娘「お若」と一中節の師匠「伊之助」の悲恋、でもないなあ。
中に入った火消しの頭がすっとこどっこいで、周章狼狽、根岸と日本橋石町のあいだを二往復するのが面白い噺。
ちょっとミステリじみてもいる。
「イ~~イ!女、これはイ~~と力を入れたくなる」というギャグは大師匠の志ん生がよくやった。
真面目な人にはちょいと似合わないギャグかもしれない。
でも頭(かしら)が真面目に怒り頭を抱えるのがよかった。

「大工調べ」
二つ目になったときの喜び、志ん朝に着物を作ってもらった話。
ベージュに白の竹の縞を抜いた粋なものに、花色木綿の裏があった。
「おごっちゃあいけないよ」という意味で木綿を裏地にしてくれた。
今着ている羽織は知り合いの仕立て家に着古した着物から作って貰ったとか腕の良い指物師の噺などを枕に大工の棟梁と与太郎の会話に入っていく。

借金のカタに商売道具を持っていくなんてのは今の民法では認められないはずだが、売り言葉に買い言葉というのでもないなあ、どうぞ持って行って下さい、みたいな与太郎の言葉もあって因業大家が道具箱を持って行っちゃったから与太郎は仕事にいけない。
与太郎の職人としての腕を買っている棟梁が借金一両八百文の内一両を出してやって道具を取り返してこいといってくれた。
八百文?そんなものはアタボー、当たり前だベラボーメ、タダでも取り返せるはずなのを一両払うんだからがたがた言わずに返してもらえ、って二人だけの腹ん中のセリフを与太郎すっかり大家にぶつけてしまう。
大家カンカン、金も取り上げ道具箱も返さない。

しょうがない、俺が行ってやる、棟梁は下手に出て大家にお願いするが、因業大家は八百が欠けてる以上は返せないと聞き入れない、それどころか棟梁に悪態までつく憎らしさ。
気が短いはずの江戸っ子の棟梁がならぬ堪忍するが堪忍、頭ァ下げれば下げるほど、ツンと上向く大家の高くもない鼻っ面、見ている俺まで腹が立ってくる迫真の演技だ。
「取りつく島もない」って言葉、さっきお茶を飲みながら見ていたテレビのクイズ番組で「取りつく暇もない」だと思っていた人がいた、その「取りつく島も暇も品もない」大家さんだ。

プッツン、
じゃあ、、あっしがこれだけお願えしても、どうしても道具箱渡していただけねえんすかァ
くどいやつだね、おまいは
、、じゃ、しょうがねえや。、、、(低い声で)いらねえ
なんだい?おまいさん今なんつった。ええ?あたしに向かってなんてたよ!
コブシで鼻先をこすり上げ、膝を叩き、パッと両袖を掻い込み袢纏の尻をまくって
いらねっ、ちきしょうっ!
婆さん、逃げなくたっていいよ、逃げるんだったら一緒に逃げようじゃねえか。しとりで逃げやがって、薄情なババァだね、ほんとうに

さあ、始まった。
丸太ン棒、目も鼻もねえ、血も涙もねェ、のっぺらぼうな野郎だから丸太ン棒!金隠し、四角くて汚えから金隠し!
元を洗えばどこの馬の骨だか牛の骨だかわからねえで、この町内に流れ込んで来やあがって寒空に洗い晒しの浴衣一枚でガタガタガタガタ震えてやァった大家が焼き芋売りの六兵衛のお情けで生き延びて挙句に六兵衛亡きあと六兵衛のカカアをたらしこんで不味い焼き芋を売って貯めた金で高利貸しになったという前身まで、3分も続いたろうか、一気に小気味よく言い立てる。
先日の談春の「三方一両損」と比べるとはるかに長く技巧に富んだ芸術品の啖呵、思わず拍手がくる。
大家の言い分にも一応の筋は通っているだけに棟梁の啖呵に感情移入出来るためにはそこまでのやり取りで大家の因業な性格を強く印象付けておく必要がある。
どうやら大家と棟梁は普段からお互いに腹ん中は旨くいってないのだろう。
二席でもたっぷりでした 古今亭志ん輔の会(国立演芸場)_e0016828_1754423.jpg
(本を買ったら抽選券を一枚くれた。棄てないで引いてみたら、、二等賞!5千円の商品券、こいつは春から縁起がいいぞ)

与太!おめえもやってみろ!
与太郎は他人事だ。
口うつしで教えてやっても頓珍漢な啖呵
大家のくせにずうずうしいぞォ、店賃とりゃがって
(棟梁が)当たり前だよ
あ、そうだ、そりゃ当り前だい。そりゃ俺が悪かった
じれったいったらありゃしない。
棟梁の見事な啖呵と対になってる与太郎の抱腹絶倒の啖呵。
与太郎の啖呵あって棟梁の啖呵が膨らんでくる。
与太郎の春風駘蕩、ケセラセラぶりも聴かせどころ。

ここで終えるのが多いけれど独演会でもありお恐れながらとご奉行様の名裁判までやってめでたしめでたし。

他に
春雨や雷太「犬の目」
柳亭小痴楽「浮世床」
伊藤夢葉「手品」
Commented by c-khan7 at 2010-04-18 18:32
江戸っ子は五月の鯉の吹き流し、口先ばかりでハラワタは無し、なんて事をもうしますな。。
大工調べの与太の与太っぷりが大好きです。
立て板に水の啖呵が切れたら、気持ちがいいでしょうね。。
Commented by kaorise at 2010-04-18 21:43
商品券、よかったですね〜縁起がいいですよ。
いつも本を買ってくれてありがとう、って本達からのプレゼントかも!
Commented by haruneko3 at 2010-04-18 22:03
めでたしめでたし。。。。。。
春の落語...なんて長閑にいいひとときなのでしょう。。。。
今月は私も落語を聞きに、やっと行けそうです。
Commented by saheizi-inokori at 2010-04-18 23:11
c-khan7 さん、佐平次も好きですが与太郎も好きです。
彼こそ落語界の隠れたる王様かもしれない。
Commented by saheizi-inokori at 2010-04-18 23:14
kaorise さん、2000円以上で一枚というのです。6000円買ったからてっきり3枚あると思ったからくじ引きに行きました。
抽選の場所で初めて一枚だということに気がつきました。
一枚だと知ってたら行かなかったのに。
勘違いさせてくれたレジの子に感謝です^^。
Commented by saheizi-inokori at 2010-04-18 23:55
haruneko3 さん、何を聴きに行きますか・
5月鈴本の上席の夜の部は権太楼のトリ、小三治(日によって)や喜多八も出ていいですよ。
前売りがまだあるかもしれません
Commented by maru33340 at 2010-04-19 07:40
志ん輔はあの音楽のような語り口調が師匠の志ん朝を思わせ、好きです。確かに風貌に似合わず真面目な人柄。もう少し歳を重ねてフラが出てくれば(もう上手いことは十分に上手いですから)更におかしみが増すでしょうなあ。楽しみです。
Commented by saheizi-inokori at 2010-04-19 08:57
maru33340 さん、師匠、大師匠と天才を継いでいくのはシンドイことでしょうね。でも負けずに自分の境地を見つけて欲しいものです。
Commented by MAKIAND at 2010-04-22 12:38
おっ。見た顔だと思ったら、また見たいな~と思いながら。いつになったら安心して走れる天気になってくれるんだろ~とやきもきしています。^^;
Commented by saheizi-inokori at 2010-04-23 00:29
MAKIAND さん、時は流れ私たちにとっては永遠です。
ゆっくりいきましょう^^。
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by saheizi-inokori | 2010-04-18 18:12 | 落語・寄席 | Trackback | Comments(10)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori