こわくなかったお岩さん 「四谷怪談忠臣蔵」(新橋演舞場 陽春花形歌舞伎)

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弟が大学に入った時にお祝いに歌舞伎に連れて行った。
弟は受験の時に俺の寮の部屋の押し入れに泊めてやったりしたお礼にと歌舞伎座の前の喫煙器具を売る店でブライヤーのパイプを買ってくれた。
貧乏兄弟の贅沢なひと時だった。
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もうすぐなくなる歌舞伎座、入ったのはその後二回もあるだろうか、今回も外から見るだけ。

目的地は新橋演舞場、猿之助四十八撰の内「四谷怪談忠臣蔵」のキップを頂いたのだ。
鶴屋南北は「東海道四谷怪談」を「仮名手本忠臣蔵」の外伝として作り、初演のときは「忠臣蔵」と場面を交互にして2日がかりで上演したのだという。
猿之助はそのことにヒントを得てふたつの芝居を一本にして、さらに新田義貞の霊が高師直に乗り移り、義貞の遺児・鬼龍丸を使って足利の天下を覆そうとする話も加えて4時間ほどで上演するようにした(脚本・石川耕士)。
少々無理があるかも。

四谷怪談の民谷伊右衛門やお岩の父・四谷左門が塩冶判官の遺臣の中にいて大星由良之助の諮問に伊右衛門は短慮から家臣を路頭に迷わせた判官の仇討などまっぴらだと一人席を立つ。
四十七士の一人、与茂七が女郎屋に行くと出てきた女が許嫁・お袖、お岩の妹が身を落とそうとしているのだ。
このあたりの南北のリアリズムは面白いのだが全体の流れの中で浮いてしまった。

俺は「忠臣蔵」も「四谷怪談」も見たことがない。
だからこの芝居のどこがどのように換骨奪胎されているのか、どんなパロデイが仕掛けられているのかが良く分からない。
そのせいもあるのか、今ひとつ感興が薄かった。

猿之助歌舞伎で名高い大仕掛け、お岩の宙乗りやら本水を使った立ち回りなどは面白かったけれど、芝居の方もあちこちで水が漏れていたような気がした。
徹底して様式美を追求するのか、リアルな演技を歌舞伎に持ち込もうとするのか、そのあたりも中途半端だ。

前にも書いたが俺は大学に入って「歌舞伎研究会」に入会したのだが、その新歓コンパの会費が高いのに腰を抜かして直ぐに脱退してしまった。
0・BO・TUTIYAMA(おぼっちゃま)たちの集まりだったのさ。
それ以来歌舞伎とは縁のない人生だった。
こうして歌舞伎(まがい、かもしれないが)を見ているとちょっとした疎外感や喪失感がある。
かろうじて3年ほど前から能や落語を楽しんでいるが、それですら少々物心両面で厳しい状態だもの、この上歌舞伎はなあ。
だいたい俺はすぐ夢中になるからいけんのやね。
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太子堂・「清水湯」。
こういう歌舞伎座が俺にはちょうどいいのかも。
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「愛ちゃん」に寄った。
先日亡くなってみんながその死を惜しんで、お通夜に行って又ここで飲んでいた人がいて、なんと、その未亡人がいた。
旦那さんの死の前後について、抗がん剤の悲惨について(私は絶対に拒否する、と宣言していた)、息子が頼りになることについて、世話になった人たちへの感謝の気持ちについて、、、
焼酎の水割りを飲みながら元気に話している。
後から広田さんも入ってきて「おう!元気かい?」
うん、忙しくて泣いてるひまもないよ。
俺が帰ろううとしたら広田さんが未亡人に「ほれ、この人、ムっちゃんの死んだ日とお通夜の日にここにきていたんだよ」と紹介する。
「ああ、いい方だったそうですね。いろいろお聞きしました」注文以外で口をきいたのは初めてだ。
未亡人、ちょっとたちあがるようにして会釈をして再び葬式のあれこれに。
鶴屋南北とまではいかないけれどここにもいろんなドラマがある。
Commented by junko at 2010-04-15 15:00 x
saheiziさん、おはようー
今朝もチッチに起こされちゃった

「愛ちゃん」での話
なんか小説を読んでる感じ
私もね、こういう庶民のドラマのほうがいいなあ
ウソっぽくないし、心に触れるその感じがいい
だいたいお金持ちって人種、肌に合わないからさ
歌舞伎もあってもいいけど 私は遠慮しとくって感じ

抗がん剤の話ね
私も抗がん剤に放射線治療、大いに反対
あれは医者の気休めと自己満足であると思っています。
アンドリュー博士もその著作「癒す心、治す力」で言っています。
Commented by c-khan7 at 2010-04-15 16:25
昔ながらの構えの銭湯も少なくなってきましたね。
最近の銭湯は、煙突がないですから。。
それにしても、大学生から歌舞伎とお付き合いとは、長いですねぇ。。御贔屓はどなたですか??
Commented by 芙蓉 at 2010-04-15 18:42 x
弟さんのお話も、愛ちゃんとの関わりも、
人情溢れ、ほっこり。いいですね。

先日見ましたTV「情熱大陸」に、
人間国宝の、尾上菊五郎さんが出演されていました。
「煩悩を持って、生き続けたい」と、仰っていたの印象的で、
「煩悩があるこそ、更なる芸の糧になる。
人間諦めたり、物事に無関心になってはいけない」と...。
歌舞伎のことはよく分かりませんが、
何だか急に歌舞伎が見たくなりました。。。。

夢中になるものがあるのは、いいですね。
Commented by kaorise at 2010-04-15 21:45
私の妹、大学生時代に歌舞伎研究会に入ってました。
でもお金はそんなにかからなかったようなんです、大学によるのかな。
歌舞伎と一緒に日舞も大学のサークルで格安で学んでました。
彼女の庶民的なノリが先生やお弟子さん達に可愛がられたみたい。
私は歌舞伎や日舞は別世界と思っていたけど、妹の話をきくと衣装ひとつとっても意味が深く、感性があう人は夢中になるなあ〜と思いました。
でも私はオペラの方がすきかも、、舞台の好みは人によりけりですね。
Commented by saheizi-inokori at 2010-04-15 23:10
junko さん、抗がん剤、自分ではお断りしようと思うけれど肉親とか友だちの場合は難しいですね。
がんばって受けなさいと言いそうです。
Commented by saheizi-inokori at 2010-04-15 23:12
c-khan7 さん、記事にも書いたようにそう沢山はみてないのですよ。
前の勘三郎などは磊落で好きでした。
今の勘三郎が子役で出たのは私の学生時代です。
Commented by saheizi-inokori at 2010-04-15 23:14
芙蓉さん、歌舞伎座がなくなると思うと急に歌舞伎を見たくなりますね。
あの華やかさはただごとじゃない。
Commented by saheizi-inokori at 2010-04-15 23:17
kaorise さん、歌舞伎そのものは安い席でみればそれほどでもなかったかもしれません。ただ歌舞伎研究会のメンバーがいかにもおぼっちゃまでした。
それが歌舞伎アレルギーにもなったのです。
狭い了見の男です。
今頃、みたくなったってしょうがないっちゅうに^^。
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by saheizi-inokori | 2010-04-15 12:06 | 能・芝居 | Trackback | Comments(8)

ホン、よしなしごと、食べ物、散歩・・


by saheizi-inokori
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